|
「やっぱりね」
腰に手を当てて沙羅はため息を吐く。
沙羅が立っているそこは、この世界の何処でもない。
神界とも違う、異世界と呼ばれるところだった。
「あの光は、いつものだったもんなー」
そう呟きながら、エンブレムを嵌め終った時のことを思い出す。
入り口から放たれていた淡い光は、自分が召喚しときに漏れてくる光と同じものだと感じていたのだ。
暖かくも無く、寒くも無い、見渡す限りの白い世界。
「さて、と。わたしはここで何をすればいいのかしら?」
呟いたそのとき、
「久しぶりね、沙羅」
声が聞こえた。聞いたことがあるような無いような。ただ、懐かしさだけがこみ上げてくる。
「だ、れ...?」
「大きくなったわね、沙羅。貴女は覚えてないでしょうね」
そう言って姿を現したその人は、肖像画や写真で見たことのある、城に勤めている者たちから聞いていたその人だった。
「お母..さ、ま?」
初めて目にする母は肖像画で見たものよりもとても優しそうで、初めて聞く母の声は、想像以上に心地が良い。
「本当に、綺麗になったわね」
「お母さま!」
沙羅は思わず走り出していた。一度も抱かれたことの無い母の胸に飛び込む。
ぎゅっときつく母の体に手を回し、その胸で子供のように泣いた。幼い頃から焦がれていた母のぬくもり。母の愛情。
この先、ずっと触れることが出来ないと思っていたそれに触れている。
「お母さまは、何故ここに?」
ひとしきり泣き終わって落ち着いた沙羅は尋ねた。
しかし、母は無情にも
「私が、貴女に試練を出すからよ」
という言葉を紡いだ。
「え...?今、何て??」
「私が、貴女に試練を出すのよ、沙羅」
二度同じ言葉を聞き、母の言葉が冗談ではないと分かる。
「何故、お母さまが...?」
「...おしゃべりはこれくらいにしましょう。さあ、始めるわよ。沙羅、貴女の試練は...私を倒すこと」
そう言って母は構える。
「汝、黒き炎の主(あるじ)。」
母が炎の魔人を召喚術を口にする。
沙羅は慌てて
「汝、海の王。」
クラーケンを召喚する為の呪文を口にし始める。
「大海嘯(だいかいしょう)を率いて我の前に姿を現し、かの者を飲み込め。クラーケン!!」「汝は炎。地獄の業火で我が敵を焼き尽くせ。バルログ!!」
炎に身を包む赤い巨体が現れ、一方で大津波とともに巨大なイカが現れる。
召喚はほぼ同時だった。
バルログが腕を振り下ろすと大きな火柱がさらに向かって走る。沙羅の召喚したクラーケンはそれを自ら率いた津波で飲み込んだかに見えた。
しかし、
「きゃー!」
という悲鳴とともに吹き飛ばされたのは、沙羅だった。
強く体をぶつけてそのまま起きようとしない。
「沙羅。立ちなさい」
「何で、バルログは..炎は水と相性が良くないのに...」
呻くように呟く。
「選択として間違っていなかったわ。でも、この子達は私が貴女に預けた子達。それを忘れたの?」
気がつくと、自分が召喚したクラーケンすら母の傍にいる。
沙羅が絶望を感じていると、
「汝、光の使者。汝、裁く者。かの者に裁きの雷(いかずち)を落とせ。カドゥッフ!!」
「汝、聖なる獣。汝、魔を退ける者。汝の聖水により我を守りたまえ。バロン!!」
ライオンの頭の鷲の姿をした獣を母が召喚し、沙羅は慌ててそれから身を守る為に全身を白く長い体毛で覆われている獅子舞の獅子を思わせる四足獣を召喚した。
カドゥッフが天に向かって吼えると空が光り、稲妻が雨のように降って来る。しかし、沙羅が召喚したバロンが鬣を振り、自らの持ている聖水で沙羅の周りに結界を張った。
間一髪で間に合った召喚によって沙羅の身は守られたが、バロンまでもが母の傍についていた。
|