地の章 第9話





正午の鐘が鳴り始めた。

これが鳴り終わると飛翔の負けとなる。

十個目の鐘の音に重なって

「陛下。」

という声が聞こえた。

見ると窓の外には竜に乗った大地の姿があった。

「約束どおり、私は戻って参りました。...この賭け、我々の勝ちです。」

竜をつれ、神器も腕にある。確かに時間通り戻ってきた。

国王はゆっくり頷いた。

「...飛翔、牢は上だぞ?」

今更気付いた大地がそう声を掛ける。

「あんな高い所だと、私に『どうぞ、脱獄してください。』といっているようなものだな。私を閉じ込めるなら、地下だ。」

悪戯っぽく笑って飛翔が答えた。

「大地、東の砂漠に魔物を誘導してくれ。沙羅に何か考えがあるらしい。私は町の中の雷と氷を拾っていかないといけないから先に行っててくれ。炎狼も沙羅と一緒にいるはずだ。

総司令、銃を何丁かお貸しいただけませんか?砂と風は相性が悪いので。」

と飛翔に言われた総司令は拳銃二丁とハンドガン一丁、予備の弾を二ケースずつ渡した。

「使い方は?」

「分かります、使えます。それでは、私はもう行ってもよろしいですよね。」

「ああ、先ほどはすまなかった。感謝する。」

国王の許可も出て、飛翔はそのまま窓から飛び降り、町の上を飛んでいった。大地もそれに続いて東の砂漠を目指した。


<いた、ホムラだ。>

リクが炎狼たちを見つける。そこには炎の国で見た覆面の男、そしてフードを目深に被った人とやはり顔を隠している小さな子がいた。

あのおさげの子は見当たらない。

大地もリクから降りてかえらと対峙する。

「よぉ、遅かったな。」

「悪いな、心配掛けたか?」

敵から目を離さずに会話をする。


風が吹いてきた。かなり強い。

ふと街の方に目をやると大きな竜巻がこちらに向かってきていた。

「あー。飛翔、大漁だなぁ。」

意識は目の前の敵に向けつつちらりとそれを見た炎狼が呆れた声を出した。

飛翔は雷と氷と共に魔物を巻き込んだ竜巻を率いていた。

「飛翔、そのままそれを南に持って行って!」

そう言って、ホムラの陰に隠れていた沙羅が何やら呪文を唱え始めた。だんだん空気の質が変わっていく。

言われたとおりに竜巻を動かそうとするが、それが上手くいかない。他からの力がかかっているのがわかる。

そんな飛翔の様子を見て察した炎狼が覆面に攻撃を仕掛けた。

「風と炎は仲良しなんだな。」

小馬鹿にした声を出して応戦する。

それを合図にフードの人と大地、小さな子と雷も戦闘を開始する。

雷はどこから仕入れたのか、大きな両手剣を持っている。質量のあるはずの剣なのに雷の動きは目を瞠るほど素早い。

『一番速いのは雷(かみなり)だよ。』

リクの言った言葉が頭をよぎる。なるほど、速い。

しかし、雷の相手の小さな子もその動きについてきていた。

それを観察しながら大地はフードの人に攻撃を仕掛ける。

紙一重でかわされていた。しかし、右手の手甲についている爪を出し、切りつけるとそれにフードが引っかかりって破けた。

紅色の髪と瞳をした綺麗な女性だった。

大地は自分が戦っている相手が人でしかも女性だと言うことに動揺してしまった。その隙をついてその女性が炎で剣を作り出し、大地に襲い掛かる。大地もすぐに我に返り、拳を繰り出す。

目の前で鮮血が飛沫き焔色の髪が風に揺れる。

「爛...。生きてたんだな。ごめんな、おれ、お前を守れなくて。帰ろうぜ、国に。おれの母上がお前のこと心配してるぜ。オヤジも、ジジィも。一緒に...帰..ろう、な。」

大地の拳を背に、彼女の炎の剣を腹に受けた炎狼は血を流しながら彼女の肩を掴んだ。

彼女は炎狼の腹に突き刺した炎の剣を消して、呆然とする。

「イ、 イヤ..イヤ...イヤーーーー!!」

彼女が頭を抱えてうずくまる。

覆面の男が近づこうとしたが、竜巻を移動させ終わった飛翔に阻まれる。二人は対峙したまま動かない。

汝、海の王。大海嘯(だいかいしょう)を率いて我の前に姿を現し、かの者を飲み込め。クラーケン!!

沙羅が呪文を唱え終わったらしく、その目の前が輝き始めた。そこから巨大なイカと共に津波が現れた。竜巻ごと魔物を飲み込んだ後、ふっと消えていく。そこに残ったのは乾いた砂と魔物の残骸だけだった。

沙羅はくるっと振り返り、不敵な笑みを浮かべて先ほどとは違う呪文を再び唱え始めた。

沙羅は火竜と地竜、そして氷に守られている。止めるのは不可能と判断した覆面の男が、

「引き上げるぞ。」

と言って飛翔の隙をつき、爛の元まで行って腕を掴む。

「炎...狼..さ、ま...」

虚ろな瞳で炎狼の名を口にした彼女はそのまま覆面の男と共に消えた。雷が相手をしていた子も消えて行ったようだ。

炎狼は膝をつき、そのまま前のめりに倒れた。エンブレムの力も消える。

沙羅は慌てて精霊の名を口にする。

水の精霊、ウンディーネ!

どこからともなく光る水が現れて炎狼の傷口を覆う。

それが消えた後、そこを見ると傷口が塞がりはじめていた。沙羅が近づきその傷に手を翳すと完全に傷口が塞がった。

「大地、炎狼がすまなかった。沙羅もありがとう。森の国の能力者は治癒能力と召喚能力があると聞いたことがあったけど、本当だったんだな。」

飛翔が口を開く。

「うん、でも自分の傷は治せないの。それに止血した物が戻るわけじゃないの。だから、炎狼は安静にさせないと。」

それを聞いた氷が静かに炎狼を背負い、

「大地、お前の家でいいか?...大地?」

と、声を掛けるが、大地は自分の拳を見つめていた。

「大地、お前は悪くない。炎狼はこうなることが分かってあそこで飛び出したんだ。それに、炎狼はまだ生きている。ついでに言うと、子供の頃から先代に武術の稽古で手加減無しで打たれていたから打たれ強いんだ、気にするな。」

そう言って大地の拳を静かに下ろさせる。

「...ああ、うちに帰ろう。」

いつの間にかホムラとリクが姿を消していたため飛翔が風を呼び、町に帰っていった。











桜風
05.6.12


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