第1話





彼が軍の入隊試験を受けようと思ったのは、何のことはない。

就職先が元々限られていたからだ。

士官学校を出ていなくても入隊できる。

貧民層というほど生活に困窮しているわけではないが、余裕も大してない。

基はそういう家庭で育った。

と、いうわけで、勉強にお金を使うよりも働いて金を稼いだ方がいいということから就職する道を選び、運動神経や記憶力など並以上であったため、基はその日を迎えた。


筆記試験、実技試験に続いて最後は面接試験だ。

面接試験は、副司令官と各隊隊長全員が面接官となると聞いた。

コネがあるわけでもないし、出世を狙っているわけでもないのでそんなに下調べをせずに受けた面接。

聞かれることも軍についてのことはなく、今の政治や思想、信仰しているもの。家族構成など、特に変わったものはなかった。

「いいかしら?」

軽く手を上げてそういったのは向かって右から数えて6番目に座っている人。

つまり、五番隊隊長なのだろう。

「はい」と緊張した面持ちと声で基が返事をした。

「あなたは、何番隊に入りたいのかしら?希望がかなうとは約束できないけれど、参考までに聞かせてくれるかしら」

ここで応えていいものだろうか。

というか、そもそも何番隊が何の仕事をしているのか正直知らない。

この国は政治も軍が行っている。だから、隊によって政治的にも担っているものがあるはずだ。

できれば、内勤。

給料がいいのは外勤だが、やはり危険なのは避けられるものなら避けたい。

だが、それをバカ正直に言うなんてことはせず、

「特にありません。私に与えられた任務を忠実に行うだけです」

と模範解答を口にした。

「そう、ありがとう」

彼女は微笑んで頷いた。

「他に?」

向かって一番右端の人がそういう。

他の人たちは特に何もなかったようで視線を送った。

「では、君のほうから質問はあるかね?」

思いがけない言葉に基は一瞬ひるんだが、先ほどから気になっていることがあった。

「あの、この面接には副司令官殿および各隊隊長全員がいらっしゃると伺ったことがあるのですが...」

「ああ、二番隊は昨日から任務が入って出払っている。今頃、馬車馬の如く働いてるはずさ」

空席の隣の人が少し嫌な感じにそう言った。

そうか、と納得した一方、答えた隊長に少し嫌悪感を抱く。

何だろう、理由は良く分からないけど、何か、嫌だった...



「で、どうするのかね?」

副司令官の聖坡(せいは)が問う。

試験が全て終了すればその年の入隊希望者を対象とした隊長たちによる新人争奪戦が始まる。

適正をそれぞれの隊長が見抜き、各新人がなじみやすい環境を模索するというのは建前で、使えそうにないのを貰っても苦労するだけだ、というのが本音だ。

それぞれ特に競争率の高い新人は副指令がくじを作ってみたり、話し合いを持たせてみたり、トレードさせてみたりと、その会議室は新人には見せられない黒い感情渦巻く空間と化す。

「そういえば、この..649番。微妙だなぁ...」

ぽつりと四番隊隊長の岳(がく)が呟いた。

「まあ、そうですね。可もなく不可もない。平均的といえば聞こえはいいかもしれませんが、特化したものがないというのも、なんと言うか...正直、手を伸ばしづらいところはありますね」

六番隊隊長の碧(あお)も頷いた。

「提案ですが、」と五番隊隊長の千里(ちさと)が手を上げる。

「どうぞ」と促されて彼女は頷いた。

「二番隊なんてどうでしょう?」

その言葉に全員が静まり返った。

「それは、あの新人にはきついと思うね。あそこに入るなら、やはりアクが強くないと、つぶされるんじゃないかな?」

七番隊隊長の塋仁(えいじ)がそういうと「いいんじゃないの〜?」と三番隊隊長、雄碁(ゆうご)が声を上げる。

「あそこ、どの道役立たずばかりの掃き溜めだし。あの..649番?あんまり役に立ちそうにないし。この軍のことも良く分かってないんだから。ちょうどいいでしょ」

またか、という視線を向けたのは六番隊隊長だった。しかし、それに反駁する気はないらしい。意味がないから。

「五番隊隊長は、何故?」

彼を二番隊に推薦する理由を問われて彼女は答えた。

「そうですね。一言で言えば、『勘』です」

胸を張って堂々と彼女はいう。

その様子があまりにも清々しくて皆は絶句し、副司令官は649番の受験票に『2』というはんこを捺した。









桜風
09.11.15


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