第3話
| 「待ってください!」と基は坤を追いかけた。 「遅い遅い」と笑いながら坤が言う。 基は出かけ際に大地に資料室に行くように言われたことを坤に言うと彼の表情が変わった。 「そっか。またか...」 嬉しそうな、でも何かギラギラとした欲望に駆られた目をしている。 「坤..さん?」 「あ、ああ。まあまずは書類だったね。さー、張り切っていこう!!」 そう言ってわざとらしく拳を突き出して、ズンズンと進んでいく。 「そういえば、さっきのチップはどうしたんですか?」 気になったので聞いてみると 「あ、あいつらのリーダー格、覚えてる?その彼女の襟に付けてきた。ま、仲間に情事を聞かれるもよし。浮気していることを知らされるも良し!ってね」 笑いながらいう坤に基は少々呆れた。 いつの間に、という意味で。行為の品性自体は彼らと変わらないが、彼らのまいた種だからそこまで責める気が起きない。 何より、喧嘩を売ってきたのは向こうだ。 「よく、あるんですか?」 基が聞くと 「ま、ね。ウチの隊長って貧民層の出だからってのがあるみたい。三番隊の隊長は、一応貴族階級なんだって。けど、バカだよねー」 ケラケラと笑いながら答えてくれた。 「え、そうなんですか?!」 大地がまとっている雰囲気とかは全然そういう感じではない。むしろ貴族階級の出だと聞いても頷ける。 それに、そもそも貧民層の出身が隊長になれるなんて思っていなかった基は素直に驚いた。 「孤児なんだって。教会に拾われてそこが運営している孤児院で育ったらしいよ。ただ、そこの神父さんは物凄く徳の高い人で、躾とかにもうるさかったから今の自分はそのおかげだ、って前に隊長が言ってた」 前を歩いていた坤が振り返る。 「基は?」 「片足貧民層、といったところですか」 肩を竦めてそういった。 「へー。僕は、どっぷり貧民層だったよ」 くるりとまた前を向いて坤はそういった。 「僕ね、両親がレジスタンスのごたごたに巻き込まれて死んだんだ。そこから自力で生きなきゃいけない。さて、どうしたと思う?」 両親どころか祖父母も健在の基は答えが出なかった。 「僕ね、ここに入る前は遺跡の盗掘してたんだ」 「は!?」 基は思わず声を上げたが、慌てて自分の手で口をふさいだ。 「け、けど。盗掘って、遺跡を勝手に掘り返すことでしょう?上級犯罪じゃないですか。見つかったら死刑ですよ?」 少し声を潜めて基が訴える。 遺跡は全て王の持ち物ということになっている。だから、それを勝手に盗んだものは王の財産を勝手に盗んだとして、最も重い刑罰。即ち死刑となる。 これは、貧民層の子供でも知っていることだ。 もちろん、それを知っていて盗掘を行うものが多い。 そこで手に入れた財宝はその形のまま売ってしまうと足がつくから色々と工夫して加工して市場に出て行く。 そのため、それを回収することは困難で、むしろ不可能だと思われる。 「まあ、見つかったら死刑だよなー。けど、見つかったことがあるんだ」 「はあ?!」 もう口を手で押さえることはしなくなった。 基の表情を見て坤は笑う。 「見つかった。今の二番隊隊長に。彼はまだ就任したばかりだったんだけど、見逃してくれた。というか、スカウトされたんだ」 基は眉間に皺を寄せながら坤の話を聞くことにした。 ある遺跡の中で坤はどうしても解けない仕掛けがあった。 その前で時間を食ってしまい、とうとう軍に見つかった。 その隊長と名乗った人物は随分と若かった。 実際、彼は当時15歳だった。 後ろに従えている隊員たちの中で最年少だった。 しかし、隊員たちは彼を隊長として認めていた。形だけではなく、隊を指揮するものとして認めていたのだ。 「盗掘は、死罪だぞ?」 大地が言う。 「知ってる。けど、生きるのに必要だし、もうこの魅力に取り憑かれたから離れることは出来ない」 その言葉を聴いて大地は片眉を上げた。 「魅力?」 「誰も踏み入れることが出来なかった遺跡に一番に足を踏み入れてその秘密を暴く。気持ち良いんだ」 「で、今回はその魅力的な前人未踏の遺跡の中の仕掛けを前に足踏みをしていたら軍に見つかった、と。危険だとか思わなかったのか?」 「最初だけだよ。言っただろう?僕はもう取り憑かれているんだ」 坤の言葉を聞いて大地は苦笑した。 「まあ、最後まで付き合わせてやるよ」 「冥途の土産ってやつか。ありがとう」 「参考までに、今までどの遺跡を盗掘した?」 大地の言葉に自分が盗掘した歴史を口にした。見つかってしまったのならもう逃れられない。だったら、自分の功績を得意になって口にしても良いじゃないか。 大地は言ったとおり、その遺跡の奥まで坤を連れて行った。 自分が見る最後の遺跡がここでよかったと思えるくらい美しい遺跡だった。 調査を終え、遺跡から出たとき坤は両腕を差し出した。もう逃げる気はない。 しかし、大地は笑ってこういった。 「盗掘なんて危険な綱渡りをせずに遺跡の発掘に携われる仕事があるのを知っているか?」 坤は怪訝な表情を浮かべる。 それにかまわず大地は続けた。 「今年の募集期限にはギリギリ間に合うだろう。ウチは、遺跡の発掘も仕事だ。もちろん、安定した給料をもらえる。命張るけど、お前にとっては今更だろう?」 大地の言葉がにわかに理解できなかった。 「ちょ、いいの?!だって、死罪でしょ?」 「まあ、ウチも戦力ほしいし。今までお前が攻略した遺跡はかなりの難度だ。なあ、坤。合法的に、誰よりも早く未開の遺跡調査が出来るぞ。さすがに、その中の宝飾品はパクれないけどな」 「貧民層でも可能?」 「給料はやっぱりいい家に比べたら低いが、とりあえず食うには困らない。それに、ウチは一番給料がいい隊だ」 「資格は?」 「まあ、並以上の運動神経。筆記試験とかは一応あるけど、国の歴史とかザズ..まあ宗教関係とかの一般常識とかいうやつかな?あと、面接。二番隊を希望したら結構受かる確率は上がると思うなぁ。お前、字は読めるだろう?」 坤は力強く頷いた。 「んじゃ、面接試験でお前の顔が見られることを祈っとくよ」 そう言って大地はそのまま自分の隊を引き連れて帰っていった。 王都にいけば掴まるかもしれないと思いつつ、それでもあの言葉を信じてみることにした。 そういえば、人を信じるなんてどれくらいぶりだろう、とふと思う。 親を亡くして生きていくには人をだまして蹴落として。 そんな道以外選ぶことが出来なかった。 試験最後の面接。 その部屋に本当に彼がいた。 「ちなみに、何番隊に入りたい?」 どの隊長が聞いたかは覚えていない。けど、そう聞かれて胸を張って答えた。 「二番隊です」 大地は苦笑し、他の隊長たちはにわかにざわついた。 「ほう?二番隊?」 興味を示したのは副指令だった。 「理由は?」 「遺跡の発掘。その仕事を持っているのが二番隊だと聞いたからです」 「遺跡に興味あるのかね?」 そう言って副司令官は遺跡について長々と坤と語り始める。 「ゴホン」とわざとらしい咳払いが聞こえて一瞬会話が断絶された。 誰だよ、邪魔したのは... そう思って見ると咳払いの主は大地で、とてもあきれた表情をしている。 「副指令、面接になっていません」 大地の言葉に初老の副指令は 「あっちゃいっけね!」 と茶目っ気たっぷりにそう言い、その場の空気を凍らせた。 入隊式の日、隊舎に戻って少しすると副指令が嬉しそうにやってきた。 聞くと、彼は前二番隊隊長だったとか。 前副指令が不慮の事故で亡くなって後任が決まらず、隊長の中で最年長だった彼が他の隊長全員の推薦でそこの椅子に座ることになった。本人曰く、「押し付けられた」らしくて、今でも恨み言をつらつらと口にしているとか。 しかし、そうなると二番隊隊長の椅子が空く。 だから、大地を隊長に推薦した。 隊長に就任するのにはその隊の前隊長の推薦と、他の隊長3名以上の推薦があれば誰でもなれる。 大地の場合、前隊長の推薦はもちろん、一番隊、六番隊、そして八番隊隊長の推薦があったため就任できた。 こんなに若くして隊長になるのは珍しく、当時は騒がれたが推薦した隊長全員同じことを理由にしていた。 曰く。 「面白そうだから」 それを聞いた大地はうな垂れ、それを拝命した。 その後、大地が中々頑張ったこともあって若い人材でも隊長にするってのも悪くないということになり、千里も2年遅れて隊長になった。 副指令は坤と遺跡の種類や傾向について楽しそうに話して盛り上がった。 「副指令、仕事に戻られたらどうですか?総司令が青筋立ててますよ、きっと」 「はっはっは。あの子は優秀だから大丈夫!それより、こっちの引継ぎがまだ終わってないだろう?」 「いつもここにきては引継ぎをせずにお帰りになりますからね。じゃあ、今日こそ全部引き継いでいただけるのですか?」 そういいながら大地は副指令にコーヒーを出す。 「ダメに決まっとろうが。全部引き継いだらもうここに来る理由がなくなる。まったく、いたいけな老人心をわかっとらん若者だな」 「すみませんね。副指令の足元にも及ばない若輩者ですから」 そう返しつつも、大地はそれ以上何も言わずに副指令の気が済むまで隊舎に滞在させていた。 「ま、というわけで。僕がここにいる理由はそんな感じ。二番隊を好んで希望する人って少ないから競争率が低かったんだって。僕も、二番隊以外には入りたくなかったし、良かったよ」 坤の昔話に基は深く息をついた。 聞かなくてもいい、むしろ知らないほうが幸せだったかも知れないと少し思った。 |
桜風
09.12.20
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