第5話
| 六番隊で果物をお土産に貰った。 碧曰く、「大地さんに」ということで、手が出せない。 「何で隊長?隊員に、じゃないんですね。私たち、恨まれませんか」 「んー、まあ。大地さんは孤児院に持っていくし。 あそこの子達はそこらの貧民層よりもいいもん食べてるんだよねー。大地さんが買っていったりしてるし、こうしてお下がりの果物を貰ったりしてるんだから」 恨めしそうに基の手にある果物の入った袋を見てそういう。 「そうだったんですか...」 どんなところだろう、と少し興味を持つ。 「おう、ちびっこども」 不意に声を掛けられて基は顔を上げ、慌てて敬礼を向ける。 「近衛を任されている一番隊の隊長殿であらせられる央圻(おうき)様がサボりですかー?」 坤の発言に基は蒼くなった。 一番隊隊長になんてことを言うんだ!! 「さぼりじゃねぇ。見回りだ」 気にした様子もなく彼は豪快に笑った。 30後半くらいだろうか...遠くから見たときはもっと厳しそうな表情をしていたように見えていたのに。 「お?フルーツか。六番隊に行ってきたのか」 「書類の配達ですよ。大地さん、人使いが荒いから」 肩を竦めていう坤に央圻は苦笑した。 「あいつは隊長の中ではそこまで人使いは荒くない方だろう。自分自身が体を動かすのが好きだからな。書類の配達も自分ですることが多いだろう?まあ、今回はどうせその新人のために遣いに出してるんだろう」 「私ですか!?」 驚く基に央圻は頷いた。 「まずは施設の場所を覚えるのが馴染むのに一番手っ取り早い方法だろう。仕事は何もできなくてもお遣いができたら居場所はある。 ああ、お前を無能だって言ってるわけじゃないからな。勘違いしてくれるな。 最初はみんな慣れるのに必死だからな。少しずつ覚えていけ。あ、辞表の書き方は、知ってるか?何なら、教えるぞ」 基は肩を落とした。 何だって、みんな辞表を書かせたがるんだ... 「一番隊隊長、未来ある若者に辞表ってのは、少々酷いんじゃないか」 今度こそ基は固まった。 軍で一番偉い人がここにいる。 「総司令。何だ、貴方も暇なんですか?」 そういったのは央圻で、さすがに坤は総司令相手にはそこまで言えない。 そう思っていたが... 「総司令、給料上げてくださいよ。僕たち命賭けている割に低いと思うんですけど...とくに、今は何もすることがない三番隊に比べて」 と賃金値上げ交渉に入った。 「こ、坤さん!!」 総司令の垓(がい)は、蒼くなっている基を面白そうに見下ろした。 たしかに、これは辞表の書き方を教えておいても悪くないかもしれない。 「財政は九番隊だ。直接交渉して来い」 「いや、僕あの隊長さん苦手」 「まあ、気が強いもんなー。砂埜(さや)って」 苦笑しながら央圻が言う。 「だから、財政を任せられる。あの人は厳格だからな」 「ところで、お前らこれから戻るのか?」 央圻が坤たちを見て言った。 「あ、いえ。資料室に寄って戻るように言われています」 基が答え、それを聞いた央圻は垓を見た。 その視線を受けて垓が頷く。 「ったく、馬車馬だなホント」 呆れたような表情で央圻は坤を見た。 「僕は、願ったり叶ったりですけどね」 と欲望に駆られた笑みを浮かべて答える坤に、垓が軽く頭を叩く。 「自我は抑えろ。飽くまでも任務だ」 「すみません」 素直に謝る坤を不思議な光景を目にするような表情で基は眺めていた。 そんな基の表情を見て央圻は苦笑する。 「んじゃ、大地もお前らの帰りを待ってるんだろう。悪かったな、声を掛けて」 そう言った央圻に「いいえ」と答えようとした基を遮って「まったくですよ」と坤が返す。 またしても蒼くなる基に央圻と垓は心の中で合掌を送った。 千里、お前酷すぎるぞ、と。 |
桜風
10.1.17
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