第7話
| 塔子の元で資料を貰って帰った基たちに「遅かったな」と大地が声を掛ける。 「いやぁ、僕モテモテだから」 笑いながらそう返した坤が大地に資料を渡す。 受け取った大地がそれを机に広げ始めた。 「あの、隊長」 声を掛けられた大地が自分のことだと気がついたのは少し経ってからだった。 「ああ、悪い。オレの事だったな」 大地の言葉に隊員たちは皆笑う。 それはそうだ。大地以外にこの部屋に『隊長』は居ない。その自覚が無いというわけではない。 ただ、誰も..というか殆どの部下がそう呼ばずに名前で呼んでいるのだ。 「なんだ?」と大地が促すと基は「これを六番隊から預かってきました」と果物がたくさん入った袋を差し出してきた。 隊員たちはそれが大地の育った孤児院へのものだと言うことを知っているのでとくに反応は見せなかったが、大地がその中からいくつか選んで「あとはお前たちで分けるなりしろ」と言うと途端に沸き始める。 「良いんですか?」 基が問うと「贅沢させるのは良くない」と大地は頷く。 基は知らなかったのだが、孤児院には貴族からの援助もあるそうだ。援助をすることで貴族は徳を積んでいるということになるらしい。 果物に隊員たちが群がっている中、大地は一人基たちがもって帰った資料に目を通し始めた。 「隊長、いつ?」と目を輝かせて坤が言い、「3日は待て」と大地が返した。 3日は待て、ということは早くて3日後にはそこへ行くと言うことだ。 「何か、準備が要るんですか?」 基がそっと凾ノ聞いた。たぶん、坤はもう既にテンションがおかしなことになっている。 「ま、命を危険にさらすことになるから、家族との時間を大切に、ってところか?」 いきなり... 基がうな垂れている様子を見て隊員たちは笑う。 「なあ、いい事教えてやる」 ゆっくりと顔を上げた基に彼が言った。 「大地が隊長になってから、負傷者すらゼロだ」 「へ?!」 「まあ、楽観視するのは逆に危ないけど、必要以上に悲観することはないってことだよ」 「そんなことより!」 希望を見出したその励ましの言葉を『そんなこと』と切って捨てたのは坤で「歓迎会、しようよ」と続けた。 「ああ、そうだな。お前、今日大丈夫だろう。来いよ」 『大丈夫だろう』って... 基は困惑した。 だが、行かなければならないのだろう。『歓迎会』という名目なのだ。自分が行かねばならないのだ。...たぶん。 「大地さんは?」 「悪いな、基。パスだ」 「ま、大地さん大抵飲み会パスだから」 フォローらしい発言をして坤は今回の『歓迎会』の参加者を募り始めた。 勤務時間が終了した。 何だか、あっという間だった。 「あの、宿直とか...」 「ウチはそういうの一切なし。ただし、急な呼び出しで夜中とかに出てくることはあるから。ほら、飲みに行くぞ!基、喜べ。大地以外全員参加だ!!」 そう言って凾ェ基をずるずると引きずっていく。 「あ、皆。大地に敬礼!」 凾ェそういうと全員綺麗に揃った敬礼を大地に向ける。 普段の任務中にこんな見事な敬礼をするものは居ない。 基も先輩たちに倣って慌てて敬礼をした。ちょっと、まだ様になっていない。というか、普段殆ど敬礼をしない部下たちの敬礼が意外と決まっていることに大地は苦笑した。 手を振ってさっさと帰れというジェスチャーをする。 「カンパありがとうございましたぁーーーーー!!」 「「「「ありがとうございましたぁーーーーー!!」」」」 野太い声が室内に響く。 「ああ、基。ちょっといいか」 隊員たちに続いて出て行こうとした基を大地が呼び止める。 「庁舎入り口で待ってるぞー」 「はい!」 誰かの声に基は返事をして大地の元へと駆けた。 「何でしょうか」 「これ、渡しておく」 そう言って渡されたのは現金だ。 「え?あの..さきほどカンパとかって...」 「たぶん、二次会に無理やり連行される。そのとき、あいつらがお前の分もと出してやるとは思えないからな。給料出る前だろうと何だろうと自腹を切らさせるぞ、あいつら。これから出せ」 「え..あ...いえ。でも...」 「いいから、もう行け。絶対にそれをオレからだとか言うなよ。後がうるさい。坤とか、な」 大地は笑いながらそう言ってさっさと出て行けと手を振る。 「あ、あの...給料が出たらお返しします」 「いい。気になるならその分はいつか入る後輩のために使ってやれ」 「ありがとうございました」 基はそう言って駆けていった。 |
桜風
10.2.8
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