第8話





庁舎入り口まで行くと、先輩たちが待っていてくれた。

「どうしたんだよ」

「あ、いえ。今度の任務のことで。あまり気に病むなって」

大嘘だ。

「あー、大地さんってそういうの気を配るよなぁ」

と坤は納得したみたいだ。

「あれ、お兄ちゃんはまだ帰らないの?」

先輩たちの中に居た女の子がそういう。

「まあ、任務入ったし」

「またぁ?!もー!!最近多くない??」

基が困惑気味に周囲を見渡す。

「あれ?見たことのない人だ」

「ああ、今日入ったばかりなんだ。名前は基。基、こっちは大地の妹の砂輝ちゃん。滅法強いってので有名な子だ...って!」

砂輝を紹介している凾ノ切れ味鋭い回し蹴りが迫り、凾ヘ数歩下がる。

「滅法強いってどういうことですか!」

「今!まさに!!その証拠を披露してるだろうが!!!」

「ひどーい!こんなうら若き乙女に向かって!!お嫁に貰ってくれる人が居なくなるじゃないですか!!」

「なんだ、砂輝ちゃん。嫁に行きたいの?だったら、玉の輿狙った方がいいよ?二番隊なんて任務上色々と命を落とす機会があるから、相手の財産で食っていけるようになってないと」

坤がニコニコと、夢のないことを言う。

「自分の食い扶持くらい自分で稼ぎますぅ〜!」

「そうよねー。近頃の女の子は強いもんねぇ」

加わった声には聞き覚えがある。

「千里さん!」

ぱっと笑顔になって砂輝が駆け寄った。

「これ、大地から預かったから。一緒に行こう?」

そう言って袋を軽く持ち上げた。

「え、うわぁ...!あ、これあたし好き!!」

袋の中を覗き込んで砂輝が言う。

ああ、ホント妹に甘い人なんだからー...

基を除く全員がそういう表情を向けている。

確かに、それを選んだのは大地で...なるほど、と基も苦笑した。

「おつかれー」

すぐ傍を通り過ぎていく人が居た。

「お疲れ様です!」

千里が返し、彼は砂輝の頭を撫でてそのまま去っていった。

えー、と誰だったっけか。

基が悩んでいると「七番隊隊長。塋仁さんよ」と千里が教えてくれた。

ああ、そうそう。だから知ってるんだ。隊長だから面接のときに会ったことがあるから。

「塋仁さん、子供が好きなんだよねー」

こっそりと坤が教えてくれる。

つまり、砂輝は『子供』のカテゴリーに入っているのだ、たぶん...

「じゃ、僕たちも行こうか」

「明日に支障をきたさない程度になさいよ」

千里の言葉に「はいよー」と皆口々に返してぞろぞろと繁華街に向かっていった。



「あの、すみません」

皆好きに騒いでいる中、基が恐縮気味に凾ノ声をかけた。まだマシな感じの酔いかたの人だ。

「んー?どした」

「他の隊の隊長と主な任務の内容..教えてもらいたいんですけど」

「酔いが醒めるなぁ」と苦笑したが「いいよ」と答える。

「一番隊は、央圻さん。人事との近衛だ。二番隊は、まあ、言わずもがなで大地。レジスタンス対応と、遺跡発掘、ついでに土木も。三番隊はぁ..あー...」

ガシガシと頭をかく。

あれ?と基が首を傾げると

「なあ、三番隊の隊長の名前って何だったっけ?!」と周囲の仲間に声をかけていた。

え、何で??!!

「あー、えーと...」と周囲でも悩み始める。

「雄碁、って名前じゃなかった?」

坤がものすごく頑張って思い出したようだ。

「ああ、そんな感じだったな。雄碁って感じで。任務は市内警備。一応、此処は当直があるけど、レジスタンスを俺たちが排除しているんだから暇だよなー。小競り合いとかくらいだったような気がする。
んで、四番隊が岳で、法関係な。裁判とか、法整備とか。頭いいのばっかり。話してて頭痛くなるぜ?
五番隊は千里ちゃんで、通信関係と国外警備。六番隊は碧さん。宗教をまとめている部署だ。
七番隊が、さっき見ただろう?塋仁で、福祉関係が主な所管だな。八番隊は、今日会いにいったな。塔子さん。資料室と発掘した資料の研究と編纂。まあ、教育もあそこだな。
で、最後の九番隊は、砂埜さん。数字に滅法強くてかなり厳しいみたいだなぁ。大地ってば予算書の計上がとても億劫らしい。まあ、言うまでもなく、総司令が垓さんで、副指令は昔の俺らの上司で、聖坡さん」

自分の所属している隊が土木まであるとは思わなかった。

「ま、ゆっくり覚えろよ。向こうだってこっちのことしっかり覚えていないんだろうし」

ケラケラと笑ってそういった。

でも、そういわれると少し気が楽になる。

「はい」

「頑張るのはいいけど、頑張りすぎんな。潰れたら元も子もない。ウチの上司は超有能だから、多少抜けてても大丈夫だぜ?」

ニッと笑って言う。

そうなのだ。

今日一日だけだけど、この隊に入って思ったこと。

隊長への絶対的な信頼。

皆隊長を信頼して、そして、好きなのだ。

大地も部下を大切にしている。

任務内容はともかく、『当たり』だったのかもしれない。

今日何度も聞いた『辞表』という単語をすっかり忘れた基はそんなことを思っていた。









桜風
10.2.11


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