第18話





「基、凄いじゃない!!」

廊下ですれ違った塔子に言われた。

「へ?!」と頓狂な声を漏らす基は首を傾げた。

本日何回目だ?

今日は出勤してから隊長以上の人たちに会うとそういわれる。

「あの、何が...」

最初寝癖のことかと思ったが、今日はそんなに酷い寝癖はついていない。

「この間のレジスタンスの。感心したわぁ...」

「レジスタンスの?」

「作戦立てたの、あんたでしょ?」

「...塔子さんは誰から聞いたんですか?」

「隊長以上は全ての任務の報告書に目を通せるの。自分の部署に何らかのかかわりがあるかもしれないからね。今はまだでも今後あるかもしれないからそれを把握するのに」

ああ、だから隊長以上が声をかけてくれるのか。

「えへへ」と基は照れた。こんなに人に褒められたことはない。

「いい気になるなよ」

低い、呪いの言葉のような声が聞こえて基は驚いて振り返ると底に居たのは雄碁だった。

雄碁は大地が四番隊に呼ばれたあの日以降、休暇を取っていたらしい。

「久しぶりねぇ」

塔子が声をかけても睨んだだけで挨拶をしなかった。

『西の臣王』の塔子に、だ。

権力が大好きな彼にしては珍しい。

塔子と基は顔を見合わせ、同じ角度で首を傾げた。


「あれ?大地さんお出かけ?お土産期待してるから!!」

「そんなものはない。緊急の会議があるらしい。たった今招集された」

「お?僕の給料上げちゃおう的な会議??」

坤が楽しそうに言う。

「砂埜さんはそんなことを口が裂けても言わない。下げる方なら簡単にさっくり言って実行してくれそうだがな」

苦笑して大地はそのまま隊舎を後にした。

基はふと今朝の雄碁を思い出してぶるりと震えた。

あんな敵意をむき出しにした人を見るのなんて滅多にない。数日休暇を取っていたというからもしかしたらその間に何かをしていたのだろうか。

「三番隊の能力者の人たち。大丈夫ですかね?」

基がポツリと呟いた。

「お前、本当にお人よしだな」

凾ェ苦笑した。

「そうそう。面倒くさいだけじゃん。あいつらの心配とか」と坤が続ける。

「でも...」

「ま、大丈夫だろう。その様子を全て司令官が見てたって話だし。何か思うところがあったら央圻さんと相談してるだろうから」

ああ、そうか。人事は一番隊の仕事だった。

司令官と一番隊隊長を思い出して基は何となく安心した。



「それで、態々緊急招集をして...」

忙しいのに、と言外に言うのは岳だ。

アレだけの人数に対する罪状を洗わなければならないのだから...

「先日の、レジスタンス掃討の件です」

「それはもう報告が上がっている」と一番隊隊長が指摘した。

「あの報告には矛盾はなかった。それに、あの岩の呪縛を解いたのは大地で相違ないと聞いているけど?」

砂埜が岳を見ると彼は頷いた。

「しかし、それ以外にも色々と疑惑があるのです」

「はあ?!」

頓狂な声を上げたのは塔子だ。

塔子だって暇じゃない。いや、寧ろ此処に座っている隊長全員忙しいのだ。

「あのさ、何がしたいの?」

「資料をご覧ください」

塔子の言葉を黙殺して雄碁は続けた。

皆は仕方ない、と資料に目を通す。

書いてあるものは全て大地の経歴だ。今までの任務やその結果も含まれている。

「これが、何?」

塔子はほとほと呆れたように訪ねた。

大地はすぐにその経歴の確認をして、心の中で安堵する。坤のことに触れられていない。

そこに触れられると自分では彼を守りきれないと思っている。自分はともかく、彼は守りたい。

「おかしいと思いませんか?」

「何が?凄い経歴じゃない。それだけの能力があったってことでしょう?」

「違う」と雄碁が強く否定した。

「こんなクソ貧民がここまでの成果を見せることなんて出来るはずがない。俺はそう思って調べた。すると、どうだろう。もっとも納得のいく答えに行き着いた。アンタだ、総司令」

勝ち誇ったように彼が垓を指差す。

「垓、いや...」

雄碁の口にした名前。それは『垓』ではなかった。

彼の消された過去の名前だった。

大地は目を丸くし、垓を見る。

垓は内心とても驚いていたが、表情には出さない。そういう訓練をつんでいる。

万が一、自分の消された過去が暴露されても狼狽してはいけない。そうきつく躾けられている。

「貴様は、卑しくも孤児院出身だ。こいつと同じな!そんなやつに命令をされていたと思うと怖気が走る!お前の辞職を要求する。ついでに、この高貴な職、隊長に平民以下は必要ない。同郷だから、贔屓をしているんだろう?!」

勝ち誇ったように、雄碁は高らかに宣言した。

「話は、それだけか?」

静かに垓が言う。

「ああ、とっとと出て行け。クソ貧民共」

雄碁の目は血走り、既に思考がまともではない。

この部屋に居る『貴族』は皆、それを確認してそして彼を見捨てた。









桜風
10.5.30


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