第20話
| 「ははっ。垓様も甘いな...」 貴族査問会議の召集令状を受け取った塋仁は苦笑した。 「垓さ..北の次期臣王様」 まさか庁舎内でそう呼ばれると思っていなかった垓は驚いて振り返る。 さっき王に数日留守にしたいとお願いをしてきたのだ。 四大貴族である彼は年に数回王都を留守にする。 王もそれが彼の義務だと知っているのですぐに了承する。それは四大貴族と王の不文律である掟だ。 「何だ?お前にそういわれると気持ち悪いな」 「オレも本当はイヤです。でも、用事があるのはその人なんです」 「...なんだ?」 「これを」と大地が取り出したものに垓は目を瞠った。 『嘆願書』と書かれてある。 「懐が深いのは分かったが、意味を成さないかもしれないぞ。お前は、貴族ではない」 「民の声を聞かず、何が貴族ですか?」 少し挑発するように大地が言う。 その言い様に垓は苦笑して天井を見上げた。それは正しいが、残念ながら現実ではない。 いつもまっすぐに物事を見つめていた弟の姿を思い出す。 そんなに長い時間一緒に居たわけではない。だが、それでも弟たちとあそこで過ごした時間は本当に楽しくて、新しい発見がたくさんあった。 「預かろう」 南の臣王の領地に赴いた。 既に南の貴族たちは集まっている。 明日が査問会議だ。 「垓」と父が珍しく厳しい表情をしている。 「お前はまだ甘いな」と彼が言う。 何を指しているのか垓は理解した。だが、謝らない。 考えて、この日にしたのだ。 グシャっと頭を乱暴に撫でられた。今回は妻と子供も一緒に来ている。父が連れて来いとうるさいのだ。 「大地、が気づいたらしいな」 苦笑して父が言う。 「ええ、あの子は敏いですから。周囲の空気の変化をいち早く感じ取りました。何をしたらいいのか考え..これを」 大地から預かった嘆願書を父に渡す。 さすがに彼も目を瞠った。 「彼は貴族ではないのだろう?」 「『民の声を聞かず、何が貴族ですか?』と言われました」 「...言うなぁ」 困ったように父は笑った。でも、少し嬉しそうだった。 「あなたの目は正しかった」 垓が言うと頭を思い切り叩かれた。 何も言わず、睨まれる。 「すみません」としゅんと萎れて謝ると父は笑う。 「私の目は正しかった。お前はいい息子だからな」 はっはっはと笑いながら父は書斎に戻った。 垓はとりあえず、身だしなみを整えて別荘を出た。 南の臣王の邸に向かう。 途中、南の貴族に会っては挨拶をされた。ちょっと辟易した頃にやっと南の臣王の邸に辿り着いた。 使用人が出てきて垓を案内する。 「崔華(さいか)」 彼女は振り返った。 「このたびは、我が領地の者が大変失礼なことを...」 彼女は深く頭を下げた。 「いや、突然で..その...悪かった」 「いいえ。普通、査問会議は突然です。それに、今回はどういう意味の配慮か分かりませんが、会議の開催までの期間が開きました。本来なら、もうちょっと..3日くらい早くても良かったと思います」 正しく指摘されて垓は思わず視線を逸らした。 そのとおりだ。 でも、この配慮は崔華にではなく、雄碁にだ。 最後のチャンスをどう使うか... 「垓さんは期待されておいでのようですが...」と崔華が遠慮がちに言う。 彼女のいいたいことも分かる。だから、垓は言葉を口にしなかった。 「では、今日はこれで」 と垓が挨拶をする。 「あら。もうお帰りになるんですか?帰りもまたたくさんおしゃべりをしなくてはならないでしょうから、お茶だけでも」 と崔華は苦笑して使用人にお茶の用意を命じた。 暫くして使用人が茶器を持ってきた。 「崔華が、淹れてくれるのか?」 「実験台です」 笑いながら彼女が言う。 「...覚悟しておこう」 垓の返事が気に入ったのか、崔華は声を上げて笑い、「覚悟してくださいね」と言って準備を始めた。 |
桜風
10.6.20
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