第21話





査問会議の会場にはたくさんの貴族が姿を見せた。

南の貴族には招集がかかる。今回査問会議にかけられるのが南の貴族のひとつだからだ。

出席は強制ではない。だが、大抵のものはこの査問会議に出席する。

もし、今回査問にかけられた貴族がその地位を剥奪されたらその領地が自分のものになる可能性がある。

他家の領地の剥奪が決まった途端臣王に自分をアピールしようと思っているものは少なくないのだ。

そして、野次馬的に他地方の貴族がやってくる。

それは情報として大切なことだからだ。領地を剥奪される貴族との交流があるものは特に慌ててやってくる。

取引を中止しなくてはならなくなったり、その損失を補填するために賠償を請求したりとこの査問会議の結果如何で色々な手続きを行う必要がある。


一般貴族が着席した後、西、東、北の臣王が順に会議の場に姿を見せ、今回の会議の主宰で議長となる南の臣王が入場してきた。

皆一斉に立ち上がり彼女が座ったのを確認して着席した。

「では、今回の査問の内容について説明します」

崔華の声に皆は耳を傾け、そして全員が呆れたように溜息をついた。

雄碁は家督をまだ継いでいない。だから、今回査問にかけられるのは彼の父親だが、彼ももちろん出席している。

「何か、申し開きは?」

崔華が問う。

「孤児なんて卑しい身分の者を家に入れる北の臣王様の気が知れません」

まだ言うか、と皆は呆れた。

崔華も一瞬言葉に詰まった。

「なぜ、こういう査問会議が開かれることになったか、あなたは当主殿からお聞きになっていないのですか?」

崔華が問う。

今回、垓が態々3日も猶予を与えたのはそのためだ。

あの雄碁の性格だったらきっとこの会議でも失言を繰り返すだろう。知らなかったのなら、教えればいい。子供でも理解できるような内容なのだ。

だが、彼の父親はその3日間の時間を十分に理解できなかったらしい。いや、理解していたのだろう。だが、おそらくそれ以外のことに時間を取られて息子を教育することが出来なかった。

これは、雄碁の父親である当主の失態だ。

何が優先するべきことが、きちんと把握していなかった。

「第一、何故お前みたいな子供が南の臣王を名乗っている?まあ、孤児でも臣王を名乗れるのならたいしたものではないのだろうな」

その場に居た全員は目を丸くした。確かに、崔華は先日13になったばかりだ。この国の成人年齢にも達しては居ない。

だが、王が彼女を臣王として認めた。だから、彼女は南の臣王を名乗っている。

しかし、彼は『臣王』の意味も知らないと来た。

臣王は自分たちの代表だ。誰が貶しても南で貴族となっているのなら、彼は南に従わなくてはならない。南を貶すことは自分を貶すことと同意だということだ。

元々王の領地を分け与えられているのは臣王のみだ。

その臣王は自分が認めた者に領地を分け、それを『貴族』と呼んでいる。

ただ、王の領地を分け与えているため、規律がある。俗に貴族法と呼ばれている。貴族が必ず守らなくてはならない法だ。

その法は特に難しいことはない。だが、守らなければこうやって貴族の中で裁判を開き、裁かれる。

「少し、言葉が過ぎると思うが?そなたは今裁きを受ける立場にあるのだ。自覚しろ」

堪り兼ねて塔子が声を出した。

正直、崔華は今思考が止まっているようだ。あまりにも、愚かな者を目にしたそのショックが大きいのだろう。

「偉そうに」

鼻で笑われた塔子は唖然とした。

それには傍聴に来ていた西の貴族が反発を見せるが、塔子が片手を上げてそれを制した。

「そなたは自分犯した禁忌について、何も自覚がないのですね?」

何とか気を取り直した崔華が確認する。

「罪?罪と言うなら、卑しい身分の者が高貴な身分の我々の上に立とうとしていることではないのか?」

「いい加減、貴公の口を縫いたくなった」

聞くに堪えない、と塋仁が不愉快そうに声を出した。

いつも温厚な印象のある塋仁の雰囲気はそこにはない。

「あなたの息子は、南の貴族全員に泥を塗っています。それについて何も思われないのですか?崔華様。私は彼らの領地剥奪を進言いたします。法を守れないのなら、貴族である資格もまたありません。権利と義務は同等でなくてはならない」

突き放した言葉に雄碁の父親が慌てた。

しかし、ここに居るもの全員が同じことを思っている。

「おい。あのなぁ、自分で言いたかないが...」と央圻が雄碁に向かって口を開いた。

「お前みたいな俄か貴族がピーチクパーチクとうるさいぞ。臣王と呼ばれる我々は建国の時代から連綿と続いている家だ。それ以外の貴族がどうやって貴族と呼ばれるようになるか、それすらも知らないのか?それすらも、息子に..次期当主だった者に教えることが出来ないのか?」

後半は雄碁の父親をねめつけて言った。

「次期当主だった..者?」

雄碁が央圻を睨みながら問い返す。

「ああ。南の臣王。領地の剥奪でも構わないが..ちょっとこれを預かった手前」と央圻は書類を彼女に渡した。
嘆願書だ。
雄碁の家の減刑を求めるものだった。利害関係のある者たちがこういうときには嘆願書を出すことがある。要は、貴族同士の同盟だ。なるべく損害が少なくなるようにというものだ。
「私も預かっています。彼の、領民からです」

領主としては中々評判の男だった。

だから、領地の剥奪は出来れば避けたい。

「...気は乗らないが」と北の臣王まで何かを取り出して崔華に提出した。

「これは?」

「その男の同僚からだ」

「...どちらの?」

「その嘆願書を出した者は貴族ではありません」

北の臣王の後ろに控えていた垓が答える。

「貴族ではない者が嘆願書を?」

不思議そうに首を傾げる崔華の反応を見て塋仁は面白そうに笑っている。

そりゃ、とっても不思議だろう。

塋仁の反応を見て、「もしかして」と塔子は呟き央圻を見たら彼も同じ考えに至ったようで呆れた表情を浮かべていた。面倒見が良いとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。

「『民の言葉を聞かずに何が貴族か』という言葉と共に、預かりました」

「貴族を馬鹿にした発言だな!身の程知らずが!!」

何でお前が憤る?!

その場に居た全員が雄碁の発言に心の中で突っ込みを入れた。

「南の臣王。もう減刑はいらないそうよ」

呆れたように塔子が言う。雄碁のその反応はそういうことだ。

「そうだな。この嘆願書はそいつの人徳なんてものではなく、それを書いた者の懐の深さだ。それを要らんと言っているのは罪を犯した本人なんだから考慮する必要はない。本人の意思を尊重してしまえ」

央圻もいい加減面倒くさそうに助言した。

崔華にとっての査問会議はなんと言うか、とても進行しやすいものとなっている。刑を減じるように嘆願することなく、ふんぞり返っているのだから。刑を重くしても誰も文句を言わない。

嘆願書を出した他の貴族たちもこの査問会議を見たら納得..というか諦めると思う。

「では」と崔華は立ち上がった。

崔華が口にしたのは領地の剥奪ではなかった。

次期当主を嫡子である雄碁とすることを禁じるというものだった。

雄碁ではないものが当主になるのなら、南の臣王として認めるといった。

「これにて、このたびの査問会議を終了します」

甘いなぁ、と他の3臣王の気持ちだが、まあ、それも悪くない判断でもある。領民からの嘆願書があるなら、確かに、別の者を領主にしたら色々と摩擦が起きる可能性がある。

「何だと!?」

納得いかなかったのは雄碁本人だ。

父親に制されても彼はズンズンと崔華に迫っていく。

「わきまえなさい!」と塔子が鋭く声を上げる。

「諦めろ」と垓が崔華の前に立って構える。

「自業自得だ」と央圻が立ち上がった。

それでも構わずに雄碁が足を進めたが、取り押さえられた。

塋仁だ。

「崔華様。どうかご退席ください」

福祉担当と言っても、たまたま七番隊の隊長であるだけで、軍人である彼は人よりは鍛錬を重ねている。

少なくとも、貴族だということでふんぞり返っているだけの雄碁とは違う。

「え、ええ。ありがとう」

塋仁は名を名乗らずにそのまま雄碁を彼の父親に引き渡して議場を後にした。

「美味しいところ取ってったなぁ」

「名乗らなかったのが、これまたカッコイイぞー。ポイント高いねぇ」

央圻と塔子が楽しそうに会話をしている。

議場に残っていた貴族たちもそれぞれの思惑を胸に議場を後にした。

「大丈夫ですか?」

まだ家督を継いでいない垓は、公の場では崔華にも敬語で話をする。

「ええ。ありがとう。あの者は?」

「自分の領土の貴族の名前と顔、早く覚えなさい?」

塔子はそう言って笑い、央圻、垓共に答えを教えなかった。









桜風
10.7.4


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