第22話





「で?お前すぐに王都に戻るのか?」

議場を出た途端央圻に声をかけられて垓は首を横に振った。

「父が、せっかくだからって。妻と娘はもっとゆっくりして帰るんだろうけど。まあ、明日で良いかって思ってるんだ。央圻さんは?」

「お前が明日なら、俺もだよ。サボらせろ」

「あー!私もサボる!!」

「塔子はしょっちゅうサボってるだろう?」

央圻が言うと「何だとー!人のこと言えないでしょ!!」とムキになったフリをして返した。

「垓様」と家の者が息を切らせてやってきた。

「何だ?」

急用のようだ。央圻と塔子は少し距離をとった。北の家のことだったら聞かないほうがいい。

「待て、どういうことだ?!」

珍しく垓が狼狽している。央圻と塔子は顔を見合わせて「垓?」と声をかけた。

「本日、未明に...王都が、襲撃されたらしい」

「誰に?!」

「バケモノ、という報告が来ている...」

塔子が困惑していると「此処に来ている軍の奴らに王都にいくように命じろ。俺たちも帰るぞ。何とか日暮れまでには間に合って戻れるはずだ」と央圻が言う。

「しっかりしろ、総司令!!」

垓の頭を叩いてそういい、駆け出した央圻の後を追いかける。



邸に訪問者があった。

崔華はそのものを見て目を丸くした。

「せっかく、カッコ良く名乗らずに去ったのですが...」

少し気恥ずかしそうに彼が言う。

「いえ。ごめんなさい。まだ貴族の顔と名前覚えていないの。南の貴族ですら、まともに」

崔華が申し訳なさそうに言った。

彼は名乗り、「ぶしつけとは思いますが」と前置きをしてお願いをした。

それに崔華は驚き、考えた。

だが、彼の目を見て崔華は頷く。

「分かりました。今すぐ手続きを行います」



王都に帰った垓は呆然とした。

街が壊れている。どうやったらこんなに破壊できるのかと思うくらいに。

城に向かった。

「隊長!」

一番隊の隊員が駆けてきた。

「状況の説明をしろ。バケモノって何だ?!」

彼らは顔を見合わせた。

「早くしろ!!」

「いえ。ですが、我々には説明できる言葉や経験がありません」

比喩ではなく、まさしくバケモノだったという。

「とにかく、俺は陛下に帰都報告をしてくる。あと、倉庫と食糧庫の開放をお願いしてみる」

「そうだな。俺も行こう」

近衛隊長である央圻が申し出た。

「じゃあ、情報収集しておくから。そういえば、三番隊は誰がまとめてるのかしら?」

そう言いながら塔子はかけて行った。


「失礼いたします」

王への謁見はすぐに適った。

「挨拶なんぞいい。一番隊は私と妃と姫を何があっても守れ」

「はっ」と央圻は敬礼を向ける。王を守るのが仕事だからそれは言われなくともそうする。

そして、垓が倉庫と食糧庫の開放をお願いした。街の様子を話す。

このままでは街の者たちはどんどん亡くなっていく。

しかし、王はそれを是としなかった。

「何故です!?」

「私が危険な目に遭うかもしれない。私の身の安全こそ、この国の行く末を守ることになる。民はそこらにたくさん居るだろう。少し減っても構わない。税を上げればそれで良いだろう」

「お待ちください!」

「話は終わりだ。臣王たちにも食糧庫の開放は禁ずると通達せよ。臣王たちの蓄えは私のためにあるのだからな。央圻、来い」

央圻は深く息をついて「はい」とかろうじて返事をした。


国というものは王だけ残っても何にもならない。

「総司令!」

岳が駆けてきた。

珍しい。

「どうした?」

「ご不在のときの報告を少し」

「後では遅いのか?」

今はこれをどうにかしなくてはならない。王が倉庫と食糧庫の開放を拒否した。臣王たちも頼れない。

臣王にそれを禁じたということは他に貴族もまた同じだ。

「三番隊が全員任務を放棄しました。現在、全員しょっ引いています」

「は?!」

「査問会議..ですか。アレに出席していた者たちは除外していますが、王都に残っていた者たちは全員自分の財産の方が大切で街を守ろうとしませんでした。ですから、法に則ってとりあえず、捕縛しております」

くらりと気が遠くなる。

「三番隊が任務を放棄したため、街の守備には二番隊が出ました。そして、有志の住人が一緒に戦ってくれましたが、その中で魔族に拉致されたものが数名いるとのことです。一応、報告はいま副指令に持っていくように指示をしました」

「司令!」

副指令が駆けてくる。その後ろには、坤が居た。

「二番隊、ご苦労だった」

垓が言うと、坤は垓を睨んだ。

どうしたことだろう。

「司令!大変です!!」と塔子もかけてきた。

「五番隊に行って情報を..って。坤?」

「あんたたち貴族が身内の失言についてぎゃーぎゃー言ってた間に僕たち死に掛けたんだよ。僕たちだけだったらいい。仕事だから。けど普通に暮らしていた子がたくさんの人を守りたくて戦って変なのに連れて行かれた。貴族って何が偉いんですか?!」

「ちょっと、坤」

塔子が制す。これは仕方のなかったことだ。権利の代わりの義務に基づいてのことだったのだから。

「司令。拉致されたものの中に、少女が居たのです」

聖坡が言う。

「まさか...」

聖坡の言葉を聞いた途端、浮かんだ顔があった。

あの子は確かに強い。年齢でまだ軍に入れないだけで、実力は既に現役軍人に引けを取らない。

「まあ、お兄ちゃんが大変そうだから?あたしも軍に入ってお兄ちゃんを少し楽にしてあげるよ」

以前、兄を迎えに来た彼女が誇らしげに言っていたのを偶然聞いた。相変わらず仲が良いのだと微笑ましく思った。

「砂輝ちゃんだよ。ケツ巻くって逃げた三番隊は全員無事で、何で一般市民の子がこんな目に遭ってるんだよ!何のための軍だよ!!」

坤の迫力に皆は飲まれ、言葉が出なかった。









桜風
10.7.18


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