第25話





『魔族』の襲撃はあの後も何度かあった。

だが、多くの司祭が王都にいたお陰で被害は随分と少なく済んでいる。前のとき、被害が大きかったのは奇襲だったことも原因になっていたのだろう。

そうは言っても、司祭たちも随分疲弊している。何より、食糧の問題はまだ解決していない。

こうも魔族が何度も襲撃してくれば落ち着いて生活が出来ない。

しかし、不思議に思う。

何故魔族たちは王都しか狙ってこないのか...

王都に何かあるのだろうか。

もちろん、王は居るが、それを見越しての襲撃なのだろうか。

コーヒーを飲むくらいには一応事態は落ち着いている。

そんな中、ドタバタと足音が聞こえ、ノックもせずに扉が開かれた。

「何だ、騒々しい」

入ってきたのは基だった。二番隊のルーキーだ。

「大地はどういうしつけをしている」

「大地さん?!大地さん、ここに居るんですか??」

「...は?」

垓は首を傾げた。


「まて。もう一度聞くぞ?どういうことだ?」

基に事情を説明させ、もう一度問い直す。

「だから、大地さんが..自分たちの隊長が昨日から姿を見せないんです」

「昨日から、って...」

丸1日経っても連絡がない。魔族の襲撃とかいろいろあってばたばたしていたし、二番隊も全員が揃って行動することがなかったので正直、大地が居ないことに気がついたのが昨日でもしかしたらもっと前から居なかったかもしれない。

「魔族の襲撃もある程度パターンが見えてきましたし、対応できる範囲になったのでもしかしたら砂輝ちゃんを探しにどこか行ったのかな、と思ったんですけど。でも、そうするにしても、自分たちの誰かに話しをしていくだろうし、そうでなくても少なくとも隊長が軍を空けるときは総司令か一番隊隊長の許可が要るって聞いたので確認しに来たんです」

「残念ながら聞いていない」

垓の言葉に基はガクリと項垂れた。

「央圻に確認は?」

「央圻様は、王宮に常駐されているようなので確認はしていません。でも、央圻さんが王宮に常駐なら、やっぱり大地さんもこっちに足を運ぶと思ったんです」

なるほど、納得した。

しかし、たとえ妹を探すためと言っても今の時期に軍を空けるのはまずいだろう。一般兵士ならまだしも、彼は隊長だ。

「...あんまり騒ぎ立てるなよ」

面倒くさいことになりそうだ。


『人の口に戸は立てられない』

その言葉が頭に浮かぶ中、会議室へと向かった。

未だに三番隊隊長である雄碁が会議の招集の要請をしたのだ。

断る理由がないので、その要請に応じた。いや、此処で断ると色々と面倒になると思った。仕事がしにくくなる。

「あんた、ほんっとに面倒くさい男ね」

塔子が苛立ちを露にした。ここに居るものは皆同じことを思っているが口には出していない。

隊長は皆忙しく働いているのだ。

それなのに、また雄碁の要請で会議を開くことになる。

「総司令も、いちいちこれのわがまま聞くのやめてもらえませんか?!」

俺だっていやだよ、と思ったが口には出さず「規定だ」と返した。

「で?何??今回は資料ないの??あと、それは追い出したらいけないの?!」

塔子が『それ』と呼んだのは三番隊の隊員だった。

と、いっても現在四番隊の審理を受けているものが半数近く居るので、その残りの者たちだけだが、それでも全員いると邪魔くさい。

「二番隊だって、隊長が来ていませんよ。あ、隊長が逃げたんですっけ?」

嘲笑と共に自分の隣に座る者を見た。

しかし、二番隊は何故彼を此処に寄越したのだろう...

雄碁を除く全員が思った。

本来、大地が座るべき椅子には基が座っている。二番隊に所属して最も日が浅い基が、だ。

申し開きなどを求められた場合は、古参が出席していた方がいいのではないだろうか。軍のことについても、少なくとも今年入隊したばかりの基よりは心得ているはずだ。


皆の表情を見て基はそっと溜息を吐いた。

自分だって最初はそう思っていた。否。今でもそう思っている。

だが、二番隊全員が基に出席するように言った。

曰く。

「お前はまだ性格を把握されていない」

今回、会議の招集が知らされた。

本来、副隊長というものを決めているのだが、とりあえず、皆順番にそれをしてみたが、しっくり来ない。

というか、全員向いていないことが発覚した。発覚も何も、誰もが最初からそう思っていただろうが...

そんなわけで、自分たちはもう他隊の隊長に性格を把握されている。だから、会議を彼らが思う方向へ持っていかれやすい。

もし、他隊の隊長が大地をどうこうしたいと考えていて、今回の大地の失踪をその足がかりに使われた場合、その会議での自分たちの発言が言質にとられ、彼を不利にしかねない。

だが、基はまだ性格が把握されていないからあちらも攻め方が慎重になるだろう。

と、なれば基がその会議での発言にさえ気をつければ少なくとも大地を攻める材料が増えることはない。

「ムリです!」

それはそうだ。先輩たちが熱く説得するが、どう考えても自分に向いていない。

「ムリじゃない!!いいか、する前から諦めるな。お前なら出来る!というか、今現在お前以外の人材が居ない」

「自分なら出来るって、何の根拠があって!?」

「...千里さんの勘!」

声を上げたのは坤だ。

「はあ?!」

「僕、塔子さんから聞いたんだよ。お前、ここに配属されるとき、隊長たちの会議の中で千里さんがここに推薦したらしい。んで、その理由ってのが『勘』だったんだって」

そんな理由で自分はこんな大変な隊に放り込まれたのか...

いや、数日前までいい隊だと思っていたが、今はちょっと後悔中だ。

「いいか。何があっても声を荒げるな。淡々と答えろ。たぶん、雄碁は好き勝手大地の事を言うだろうが、そこはグッと我慢の男の子だ。いいな?頼んだぞ?!」

そう言って半ば強引に追い出されたのだった。

だが、先輩たちが一生懸命自分を説得したその理由には大地を守るということがある。

いつも世話になっている自分たちの隊長を今度は自分たちが守りたい。

きっとそう思ったに違いない。

基は納得し、とりあえずこの会議で失言をしないよう、神経を研ぎ澄ませて集中して臨むことにしたのだった。









桜風
10.9.5


ブラウザバックでお戻りください