第28話
| 「碧さん」 「おやおや。やはり困ったことになりましたか?」 笑いながら答える碧に垓は溜息をついた。 「ご存知だったのですか?」 「私たちは神に仕えています。王が神の言葉に沿わぬことを行えば、王と共に歩むことは出来ません。神に仕えているものの代表は、今のところ私となっています。私が王と歩むことが出来ないといえば、それはまた我々聖職者全員の決定なのです」 「六番隊以外の、各地の地方の教会も祭典も祈りも行っていないそうです」 「それは間違っていますね。王の望む国のためではなく、人々のために祈るのは神に仕える我々の仕事です。どうやら皆さん、勘違いをしているようですねぇ。それについては通達を出します。紙とペンはお持ちですか?」 それは良かった、と持ってきていたそれらを渡した。 「では、これを東西南北の各臣王様へお渡しください」 「王都の..六番隊には?」 通達はないのかと確認したが、「ああ、そうですね。副隊長を呼んでください」と言われて垓は頷いて牢を後にした。 「あの...これって」 自分のところの貴族たちからの嘆願書を山のように受けて辟易としているところに基がやってきた。 「貴族ってね、大変なのよ」 「貴族は選んで、なっているけど貧民は選んでそうなったわけじゃない」 ぴしゃりと坤が言う。 「あー、はいはい。連綿と続いている我が家は選んだわけじゃないんだけどねぇ」と塔子はいうが、坤はそれを汲む気はないようだ。 ドアをノックして砂埜が入ってきた。 「はい、追加」 そう言って嘆願書を山の上にそっと置いた。 「えーーーー!砂埜さんも?!」 「旦那に泣きつかれてる私のことも慮りなさい」 「砂埜さん、ご結婚されているのですか?!」 基が声を上げる。 「なにか?」 冷ややかな声で聞き返された。 「いえ」と言うしかない。 「元々『庶民』の家だったんだけど、砂埜さんは今の旦那さんに見初められて貴族になったのよ。旦那が貴族。でも、庶民だったから金銭感覚が麻痺していないからって九番隊隊長。中々貴族で金銭感覚が一般水準の人って少ないみたいなのよね」 塔子が代わりに解説した。 「塔子さんも結構おかしいもんね」と坤が言う。 そういう会話をしたことがなかった基は意外に思った。彼女は貴族にしては結構まともだと思っていたからだ。 「『世知辛い世の中』を知ってる貴族なんてそうそういないわよ」 砂埜が溜息をつきながら言う。家にいるときは本当に大変なのだ、と。 「喜べ、塔子。通達だ」 「やっほーい!」 部屋に入ってきた垓が先ほど受け取った通達を塔子に渡す。彼女は文字通り諸手を挙げて喜んだ。これで、領地の聖職者は仕事をしてくれる。 「すぐに手配しておけよ」と言って垓は忙しそうに出て行く。 「総司令も忙しそうねぇ...」 砂埜が他人事のように言う。まあ、自分も猛烈に忙しいのだが... 廊下で聖坡に会う。「垓さん」と声を掛けられた。 振り返ると聖坡が少し心配そうな表情を浮かべている。 「お休みになられていますか?」 そう聞かれて苦笑した。 「まあ、それなりに」 「もう少しお休みください。と、言っても1〜2時間程度ですが...」 申し訳なさそうに言われて垓は少し考えたが「では、少しの間空けさせてもらおう」と言ってその場を去った。 このまま仕事をしていたらやっぱり聖坡が気にするだろうし、どの道緊急時には必ず連絡が取れるようにしてあるのだから、少し仕事から離れてみようと思ったのだ。 ちょっと考えてみる。 では、何処でサボろうか。庁内だと部下達に示しがつかないし... そう思っていたが、ふと思い至った場所があった。 「久しぶりに、行ってみるか」 そう呟き、庁舎を後にする。 彼に、頭を下げなくてはならないだろう。 |
桜風
10.10.17
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