第29話
| 垓が向かったのは自分が育った場所。 そして、そこは二度と故郷とは呼べない場所。 土産に何か買って、と思ったが。この街自体受けたダメージが多く、そういった何か気の利いたものというものが売られていない。 国王が臣王に物流について禁止したこともその原因となる。 「くそっ」と小さく毒づいて、手ぶらのまま教会へと向かった。 教会と名がついているが、要は孤児院である。この建物の中にいるからきっとあの人は『神父』なんだよなと思った。 徒歩でそこに行ったのもどれくらいぶりか。 丘の上にあるその建物は、結構ガタが来ている。小さな子供達も生活するのだから何とか補強したいとは思うのだが... 「あ!」と子供が声を上げた。 「おじちゃん!」と声を掛けられてやっぱりちょっと悲しくなる。『おじちゃん』かぁ... 「神父は中にいらっしゃるのか?」 「はい!」と気をつけの姿勢で子供が答えた。 「では、中に入らせてもらいたいのだが、よろしいか」 垓の言葉に頷いてその子供が案内をしてくれた。 ドアを開けて「神父さま、お客様です」と子供が声を掛ける。 「お客様?」と言いながら神父が奥から出てきた。 お客様の顔を見て目を丸くしてやがて苦笑する。 「ありがとう」と子供に声をかけて「どうぞ」と垓に向かって中に入るように促した。 小さく礼をして垓が中に入る。垓を案内してくれた子供も「ごゆっくり」と声をかけて外に出た。 応接室として使っている部屋は比較的綺麗だ。 垓は椅子を勧められて腰を下ろした。 「すみません。すぐに来たいとは思っていたのですが」というと神父が苦笑をした。 「いいえ、他の方が見に来てくださいました」 「大地..ですか?」 「ええ」と神父が頷く。 垓は一度俯いて意を決したように顔をあげ、口を開こうとしてまた俯く。 「どうかしましたか?」 優しい声音に少し泣きそうになる。子供の頃、この声に守られてきた。たくさん叱られた。でも、それが全て自分の肥やしとなって、今の『垓』という人間の基になっている。 「大地が、消えました」 「ええ、存じています」 驚いて顔を上げる。 「東の臣王様が、先日いらっしゃいまして。頭を下げていかれました」 まさか先を越されているとは... 「では、大地の妹のことも...?」 困ったように神父は笑う。 「おそらく砂輝は無事ですよ。大地は、確実に無事ですが...」 神父の言葉に驚いた垓は思わず椅子から立ち上がる。 「大地は、そうですね..あと10日くらいしたら戻ってくると思います。外から。だから、最初に大地の帰還を知るのはきっと千里さんですね」 ニコリと微笑む神父に垓は目を見開いたまま視線を外せない。 「なぜ、お分かりになるのですか?」 「ザズ様にお教えいただけたのです」 何故、聖職者でもない神父がザズの声を聞くことが出来るのか... 「大地が帰ってきたら、少しお忙しくなると思います。だから、今、少しでも休めるときがあればお休みください」 「...ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」 垓の言葉に神父は頷く。 「この王都には6番隊がいます。ですから、司祭以上の聖職者はいないはずです」 「ええ、そうですね」 「では、なぜ貴方は『神父』で、神の声を聞くことが出来るのでしょうか?」 垓の言葉に彼は少し驚いたような表情を浮かべたが、それでもニコリと微笑む。 「今はまだ言えません。ですが、近々種明かしは出来ます」 はぐらかされた。 じっと見る垓に神父はいつもの温和な表情を浮かべてそれ以上何も言わない。 小さく溜息を吐いた垓は「わかりました」と言って立ち上がる。 「貴方が嘘を吐いたことはない。それは事実ですから」 そういった垓が一礼をして部屋を後にする。 「...あっぶねー」と廊下から顔を出したのは凾セった。 「私だって気が気ではありませんでしたよ」 嘆息交じりに神父が言う。 「かなり滅入っていらっしゃいましたね」 「素直で、真面目な子ですからね」 「で。大地は本当に帰って来るんですよね?」 凾フ言葉に「ザズ様のあの言葉が冗談ではなければ、ね」と神父は肩を竦めた。 「さて、貴方も仕事にお戻りなさい」 「へーい」と返事をして凾ヘ裏口に向かった。 |
桜風
10.11.7
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