第30話
| 垓は毎日碧の元を訪ねていた。彼も中々強情で牢から出て行こうとしないのだ。 「碧さん、もう良いでしょう?」 「王は何と?」 「...特に何も」 溜息混じりに言うと「では、出るわけには参りませんでしょう?」と愉快そうに笑う。 六番隊は神に仕えているので、毎朝晩の祈りは行っている。けれども、それ以外は何もしない。 王のために祈るわけではない。王が安心するために六番隊があるわけではない。 ふと、碧の表情が変わった。 「碧さん?」 「通信室に、基くんと一緒に向かってください。待ち人来たる、です」 『基』ということは二番隊。と、いうことは... 垓は駆け出していた。 その背を見て、「さあ、大地くん。たっぷり怒られてください」とまたしても愉快そうに碧が笑う。 「基!」 二番隊隊舎にやってきたのはこの軍で一番偉い人。しかも、ちょっと表情が怖い。 「基は八番隊の隊舎でお勉強中っスけど」 と凾ェ答える。 成り行きとはいえ、副隊長に就任してからの基はしょっちゅう勉強をするために、各隊長の元を訪れたり、八番隊の書庫に行って本を読み漁っている。 今のところ、二番隊の本来の業務について、指示を出されることがないので多少の時間はあるのだ。 「基に通信室に来いと伝えろ」 その言葉に一早く反応したのが凾ナ「了解」と行って隊舎を出て行った。 こういうのを面倒くさがると思っていた皆は多少驚いたが、その後すぐに垓が出て行ったのを受けてほっと溜息をついた。 やっぱり総司令ともなると迫力が違う。 垓と基が通信質についた頃、千里が珍しく声を荒げていた。 傍にいた五番隊の隊員に聞くとどうも所属不明の船が国内に入ってきたそうだ。国内に入ってきたといっても、領域に入っただけで上陸はしていない。 そして、正面のモニタに映っている人物を目にして少なからず驚いた。 「...隊..長」 感極まったのか、基の鼻の頭が赤い。 「大地さーん。隊長、酷いっスよ。いきなりいなくなるなんて。自分は突然隊長の代わりに隊をまとめなくちゃいけなくなったんですよ?!あの、奇人変人の集まりと言われている二番隊を!!大地さん以外には無理っす、あの集団をまとめるのは。もう二度とごめんですからね、いなくならないでくださいよ。でも無事で良かったー。砂輝(さき)ちゃんみたいに連れて行かれたかと思ってたスよ」 モニタに顔を近づけ、早口にそうまくし立てた基は気が済んだのか、敬礼をしてそこから距離をとる。 そして、それに代わって垓がモニタの前に立った。 「大地、久し振りだな。元気にしているようだな。基は良くやってくれたよ。隊長のお前が無断で姿を晦ませている間、お前の代わりに隊をまとめてな。苦労していたぞ。 さて、ここからが本題だ。お前はどこへ、何をしに行っていた?私や、国王陛下に無断で... お前が王族の方たちにどんな感情を抱いているかは私も知っている。だが、軍に所属している以上、そういう自分の感情で行動をするな。さて、私の質問に答えろ。 ...ん?後ろに誰かいるのか?」 どうやら大地ひとりではないらしい。 それはそれで問題だな... 外の者を連れてくるということは、下手をすれば国を裏切った行為になりかねない。 どういう関係の者なのか。 大地は中々返事をしなかったがやがて口を開く。 「たとえ、総司令のご命令であっても、今、このような公の場で口にすることは出来ません。自分が今までどこにいて、そして何をしていたかは、国王陛下の御前で申し上げます。できれば、総司令もご同席ください。また、後ろの者たちのご説明もそのとき一緒にいたします。ですから、入国許可ならびに、このものたちへの滞在許可をいただきたく存じます」 大地だって、外の者を国内に入れると言うことがどういうことか、分からないはずがない。 それなのにこういうのだ。 だったら、ここは許可すべきだろう。許可をしなかったら話が全く進まなくなるのは見えている。 ちらと千里を見た。彼女は微かに頷く。 まあ、いいだろう... 「許可しよう。国王陛下に謁見を申し込んでくる。大地、お前は軍服に着替えておけ。他の人は...まあ、いいだろ。そのままで結構。 千里ゲートを開けてやれ。 では、後でな大地」 そう言って垓はその場を後にした。垓の命令を受けて千里は敬礼を送り、部下に指示を出す。 全く、ちょっと面倒なことになってしまったぞ... 垓は吐きたいため息を飲んで心の中でそう呟いた。 |
桜風
10.11.21
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