第32話
| 「大地、先に戻れ」 垓が声をかけて大地が敬礼を向け、王にも敬礼をして謁見の間を出て行った。 「さて、あれの監視についてだが...」 そう言って王が垓を見下ろす。 「心得ました。ところで、二番隊隊長が外から戻ってきたとなると、色々と波及した問題が出てくるのですが。この場合、あれの言が真実かどうかを見極めてから処罰を行いたいと思っております」 外から大地が戻ってきたとなると、千里と岳にも類が及ぶ。絶対に大騒ぎするのがいるのだ。 王があまり深く状況を把握する前に言質を取っておきたい。 「その点は、総司令に一任する。しかし、御伽噺を持ち出して言い訳にするとは...所詮、孤児院育ちの哀れな小僧だな」 愉快そうにそう言って王は奥の間へと去っていった。 敬礼を向けている垓の表情を見ることがなかったのは不幸中の幸いと言ったところだろうな、と思ったのは王に続いて奥の間へと向かった央圻だった。 外に出ると輝いた笑顔を浮かべて雄碁が立っていた。 ああ、面倒くさい... 「王命だ。ひとまず、三日は誰にもお咎めなしだ。その後の状況で法に照らして処罰していく」 王の命令だといわれれば引き下がるしかない。 雄碁はふてぶてしく敬礼をして了解の意を示し、そのままさっさと自隊の隊舎へと向かった。 「処罰されると思っていました」と岳が苦笑する。身に覚えがないが、それでも大地が国の外に出ていたのは疑いようもない事実だ。 「先に手を打たせてもらった、執行猶予ってやつだ。千里、ついて来い」 扉の外にいた岳に声をかけ、千里を連れて二番隊隊舎へと向かった。 「わぁ!」と室内に入っていた垓に驚いた坤が頓狂な声を上げる。 坤の反応を黙殺して「手短に話すぞ」と垓が先ほど大地から聞いた話と謁見の間で行われた賭けのことを話す。 二番隊の隊員の表情が変わった。 「で、俺達にどうしろって?」 「監禁する飛翔という青年の監視。というか、寧ろ護衛だな。本来なら四番隊だが、四番隊ではなく、お前達にその任務を与える。これについては岳も文句はないだろう」 「何で俺達に?」 二番隊の隊員が言う。 「大地を全部まるきり信頼することが出来るのはお前達だけだろう。あと、貴族の勢力に全く関係がないのも」 「...総司令は大地さんのこと、信頼できないの?」 坤が問う。 「俺には立場がある」 きっぱりと言った垓に凾ェ溜息をついた。 「ホント、立場とか面倒だなー。隊長代理、どうしますー?」 からかうように基に声をかける。 「受けます」と間髪入れずに基が頷いた。 「よし、そのように命令を作っておく。千里、今の話を夜にでも大地のところに持っていってくれ」 垓の言葉に千里は頷き、「大地、物凄く怒りますよ」と言ってみた。 「だろうな。だが、あいつは馬鹿じゃない」 キッパリと返す垓に苦笑して千里は敬礼を向けた。 垓が執務室に戻る途中、碧の背を見つけた。 「碧さん!」 「おや、総司令。お疲れ様です」 神に祈る仕草を見せる。 「碧さんのことに関しては、王は何も言いませんでしたよ」 いままで散々出てきてくれとお願いしたのに、出てこなかった。それなのに、今はふらふらと庁舎の中を歩いている。だから、ちょっと嫌味を言ってみた。 しかし、「おや?出てきてもよかったのではないのですか?」と、しれっと返されて脱力しそうになる。 「大地くんは元気そうでしたか?」 「ええ...何故、碧さんは分かったんですか?」 「神の使いの帰還を、私が分からないとお思いですか?」 そう聞き返されて垓は言葉がない。 「...あいつは、本当に」 本当に、神の..ザズの使いである『地の勇者』なのですか、と聞きかけて言葉を飲んだ。 「能力者なら少なからず大地くんのあの力に畏怖の念を抱いていたと思います。能力と言うのは神から分け与えていただいたもののひとつですから。そして、人は『神力』というものを少なからず持っています。神の子ですから。しかし、その神力というものは、自身のその力が大きくないと分からないみたいですね。そして、自分自身の力の大きさも気づけない」 「俺は、そういうのが無いと昔言われたことがあります」 「ええ、その才能は皆無ですね」 ニコリと微笑んでそういわれて何だかちょっと傷ついた。 「大地くんは、私たち神に仕える者にとってはちょっと怖い存在だったんですよ。怖い、というか、畏怖の念を抱く。神に対するそれと同じです」 だから、六番隊に来るときには事前に連絡をくださいとお願いしていたんですよ、と付け加える。 心構えが出来ていないときに大地に会うと修行の足りない者は取り乱しかねない。 「それ、本当...」 「大丈夫。大地くんは絶対にホンモノの証拠を持って戻ってきます」 そう言って彼は目礼をして垓に背を向けた。 |
桜風
10.12.19
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