第33話





その日の晩、千里は垓に言われたとおり飛翔の監視と、翌日の監視の内容について話をしにいって、激昂された。

やっぱり...と思いつつどのように宥めようかと思っていたら炎狼が止めてくれた。

胸倉を掴まれた際に乱れた服装を正して何故二番隊が飛翔の監視に当たるかの説明をする。

そして、大地に残される炎狼たちの面倒を頼まれた。

「うん、大丈夫。心配しないで。私に任せなさい」

ぽんと胸を叩いて帰路に着く。

「明日、総司令に文句を言っても怒られないわよね」

メチャクチャ怖かった大地の表情を思い出してそう零した。


翌朝、夜明け前に二番隊の隊員全員と千里と監視役の垓がやってきた。

「隊長、お仲間のことは自分たちに任せてください。絶対に守って見せます。だから必ず帰ってきてくださいよ。約束ですよ」

基が言う。

大地は少なからず驚いているようだ。自分がいない間に基の表情が随分と変わった、と。

面倒ごとを押し付けられているうちにしっかりしてきてしまったのだ。

「ああ、大丈夫だ。ちょっと留守にするからな、頼んだぜ、お前ら」

大地の言葉に皆が声を上げる。ひとり敬礼で返した基は振り返って先輩達の反応に苦笑した。

これではまるで盗賊団とかだろう...

「私が今回お世話になります飛翔と申します。宜しくお願い致します」

一歩前に出て基に向かって彼が深々と頭を下げた。慌てても基をはじめ、二番隊の隊員も軽く頭を下げる。

「では、そろそろ行こう。時間が勿体無い。」

垓がそういった。

「皆さん、気をつけて」という千里の言葉にそれぞれが手を上げて応え、出発して行った。

「隊長、大丈夫かな...」

誰かが呟く。

「大丈夫ですよ!ほら、仕事しましょう。飛翔さん..だっけ。あの人が入る牢って何処かごぞんじですか?」

「たぶん、空の方でしょう」

千里が言うと二番隊は眉を顰めた。

最も罪の重い者が入れられる牢だ。そこは塔の上にあり、脱獄が不可能だといわれている。もし、脱獄しても、その塔内にいるなら壊してしまえば必ず死んでしまう。それくらい高い塔の天辺にある牢なのだ。

上るだけで一苦労。

「順番決めないと...」

基が言うと「うーい」と適当に皆が返事をした。


「―――総司令殿は高いところは平気ですか?」

町から少し離れたところで飛翔が口を開く。

「おそらく平気とは思うが...。どうした?」

突然どうしたのだろう。不思議に思って大地を見たら大地は遠い目をしていた。

「では飛んで行きましょう。その方が速い。皆、少し目を瞑って息を止めて」

そう言った飛翔が風を呼んで皆を空に連れて行き、気流に乗った。

ふわりと自分の体が浮く感覚に総司令は目を丸くして驚く。確か、彼は風の国の人間。ということは、風の国の能力者は風に乗ると言うことなのだろうか...

自分が手配した牢。どの道大地が戻ってくるんだからそれなりのパフォーマンスは必要だろうと思ってあそこにしたのだが、これなら安心だと思った。

何かがあっても、逃げてもらえるようだ。


風に乗ったままだと1日近くかかる遺跡までも、あっという間に着いた。

「えーと、台座みたいな物はないのかな?」

キョロキョロと周囲を見渡しながら沙羅が呟く。

良く分からないが、台座みたいな何かを探しているのか...

垓は手伝えるかと考えたが、まあ、様子を見ることにした。

「こうも砂が多いと難しいな。もしかして埋まってるんじゃないか?」

「これから発掘作業ってこと?」

「あったぞ、たぶんコレだろ」

氷が遺跡の入り口の前で上を見上げながら彼らに声をかけている。

気になって垓も足を向けてみた。

確かに、建物の上の方に穴がある。全部で、7つ...?ひとつは黒い石が1つ嵌っている。

しかし、此処にいる人数を確認してみたが6人。多いではないか。

ふと、沙羅と名乗った少女の手を見ると2つ同じ模様の何かがある。と、いうことはこれで数が合うのか。

どうやら飛翔が風を起こして皆を浮かせると言うことで話が落ち着いたらしい。

距離をとるとふわりと風が集まり、砂と共に彼らを浮かせ、全員が何かを嵌めた。エンブレム、と昨日言っていたか...

地響がした。

「封印解けたんじゃねえか?」と炎狼が言う。

遺跡の入り口に炎狼が手を伸ばしてみたが、その空間に炎狼の手は入らない。しかし、大地が手を伸ばすとすんなりと入った。

「...だな。じゃあ、必ず三日後の正午までには帰ってくるからな。行ってくる」

そう言って大地はその遺跡の中に入っていった。

皆が大地の背を見送る。

ああ、いつの間にか体の大きさを抜かされたけど、大きくなったのは体だけじゃなかったんだな...

弟分の成長を目の当たりにして寂しさを感じていると、不意に飛翔が振り返る。

「戻りましょうか」

「ああ...そうだな」

自分に出来ることは何ひとつない。垓は頷き、飛翔が来たときと同様に風を呼ぶ。









桜風
11.1.2


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