第34話





「少し、時間を潰していけないだろうか」

垓が呟く。

驚いたように、炎狼が眼を向けた。

「無駄ですよ」

飛翔が冷ややかに言った。

「無駄、とは?」

「どの道、今日中には戻ることになるでしょう。そうすれば結局今日から数えて3日後の正午が期限です。時間稼ぎに意味はない」

自分の言いたいことを察してさらにそれを否定された。

確かに、無駄かもしれない。

「それに、戻りが遅い方がどんどん不利になると思います」

さらに氷が言葉を重ねる。

氷の考えていることを察した垓は「そうかもしれない」と呟き「すまなかった」と口にした。


街の外れで風邪から降りる。

「戻る道は分かるか?」

垓が声を掛けると「ええ」と氷が頷く。

「じゃあ、此処で別れたほうが良いだろう。おそらく夕方くらいに千里がそちらに顔を出すだろう。千里は、分かるな?」

頷く彼らを見て垓も頷き、飛翔に向き直る。

「すまないが、拘束させてもらうぞ」

「ああ、そうですね」

そう言って飛翔はあっさりと両手を差し出した。

少しくらい抵抗を見せてもらいたいのだが、と思っていると「元々、これを言いだしたのは私です」と心を読んだかのように飛翔が答えた。

「だなー」と呆れた声で炎狼が頷く。

「すなまい」ともう一度謝り、飛翔を拘束する。

「じゃあ、3日後の正午頃に。あ、これは預かってくれ」

飛翔がそう言って自身の持っている護身刀を炎狼に預ける。

そして、垓を促して庁舎に向かっていった。

遠ざかっていく飛翔の背を見送りながら「清々しいまでにあっさりと...」と雷が呟き、苦笑した。


庁舎では、垓が拘束して連れて帰った異国の者を一目見ようと手の空いた者たちは収監される塔の傍に来ていた。

国外の人物は珍しい。

そんな好奇の視線に晒されている飛翔は全く気に留めることなく、自分が収監される塔を見上げた。

「これまた、新しい建物ですね」

飛翔が呟くと「今の国王がお造りになったからな」と知らない人物が答えてくれた。

今朝顔を合わせた二番隊の誰でもない。

「ふん」と鼻で笑う声が聞こえて飛翔が振り返ると国王が直々に出てきていた。

「洗いざらいしゃべってもらうぞ」

「3日後の正午を過ぎれば、全てお話させていただきますよ」

そう返した飛翔に不愉快そうな表情を見せて彼は去っていった。

「行くぞ」と促され、自分の監視を買って出てくれている二番隊と、知らない人、あと垓と共に飛翔は塔を上る。

「ちょ、キツイんですけどー」

文句を口にするのは二番隊。

「文句を言うな。そっちは武官だろう。こっちは文官だぞ」

「そうは言っても、岳さん。こんな縦運動は俺達だって訓練してないっスよー」

ふむ、『岳』というのか...

知らない人物の名前が判明した。ついでに、彼が『文官』であることも。その割には体格がいいと思うが...

「口を動かさずに足を動かせ。あと、これくらいで文句を言う二番隊には訓練を追加してやる」

しんがりを務めている垓がそう言うと悲鳴にも似た抗議の声が上がったが、彼は黙殺した。

どこも似たようなやり取りなんだな...

少しだけ故郷が懐かしくなった。

たぶん、頭領が国の方には適当に理由をつけて連絡を入れてくれているから自分のところは心配しなくても良いだろうが、雷たちは大変だろうな、と他人事のように思った。実際、他人事ではあるが。


「ここだ」

そう言って鍵を開けたのが岳だ。

もしかして、こういう管理をしているのが彼なのかもしれない。

だから、文官で今まで顔を合わせたこと無くて、監視役でもないのに此処まで一緒にやってきたのだろう。

ご苦労様というところだ。

「岳、口外不要だ」とまず念を押して「飛翔殿、貴方にとって、此処はどうですか?」と垓が言う。

垓の質問の意図が分からない彼の部下達は首を傾げたが、

「全く問題ありませんが、その必要も無いですよ」

と飛翔は苦笑しながら返す。

垓は、此処から逃げることは可能かと聞きたかった。そして、飛翔はその意図をしっかり察して答えた。

垓は頷き、「貴方はまだ罪人ではない。何か要望があれば可能な限り対応しよう」と言って監視役の二番隊を見遣り岳を促して階段を下りていった。









桜風
11.1.16


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