第35話
| 夜中、随分と冷え込んできた。 「寒くないですか?」 声を掛けられて飛翔は顔を上げる。監視役は二人一組だ。 「ええ、大丈夫ですよ」 微笑む飛翔に彼らは心配そうな表情を見せる。吐く息が白いのに、寒くないはずが無い。 「あの、」と声をかけたのは坤だ。 飛翔が続きを促す。 「大地さんとずっと一緒にいたんですよね?」 「『ずっと』というには短いでしょうけど、おそらく大地がこの国から消失してからは一緒でしたね」 と飛翔が頷く。 「その間、どちらにいたんですか?この国から出て行った痕跡も無かったのに、外から帰ってきた...」 「私も、大地と同じく外に出たつもりは無かったんですけどね」と苦笑して見せた飛翔に少し焦りが募る。聞きたい事をはぐらかされた。 「しかし、大地が必要と思えばそのタイミングで話すでしょう。私の口から言うつもりはありません」 キッパリとした口調で返す飛翔に 「俺達、心配したんですけど...」 と拗ねたように呟いた。 その様子を見て飛翔は苦笑した。 「私も国に帰ったら盛大に文句を言われると思います」 これ以上言葉を重ねても無駄だと察した彼らは口を閉ざした。それに、飛翔の言うとおりにきっといつか話してくれる。 垓は毎日飛翔の様子を見に来ていた。 彼の感覚では、飛翔は何となく『客人』である。 なので、時間を作って言葉を交わしに来ているのだ。 飛翔の礼儀正しい性格は垓にとっても好感が持てるものであった。 そして、約束の日。 飛翔の顔を見に行く。今日の正午までに大地が戻らなければ彼は自分の国の情報を洗いざらい吐いて、そして処刑される。 心配そうな表情の垓を見て飛翔は苦笑した。 「まあ、まだ時間はありますよ」 「いざとなったら...」と其処まで言って垓は口をつぐんだ。自分の立場ではそれ以上はいえない。 「ははっ。お気遣い感謝します」 軽く笑って飛翔が返す。 取れる時間が短い垓はそれだけの会話を終えて階下へ降りていった。 そして、また暫くしてに顔を合わせることになった。 今度は国王が一緒だ。つまり、彼の護衛、供として上がってきたのだ。 ぜぇはぁと息を切らしている国王だが、どこか満足げで 「後数時間で貴様も終わりだな。しっかり国を売って死んでいくんだな」 という。 なんたるバイタリティ。 飛翔は心の中で感心しつつも笑みを浮かべて言葉を返すことをしなかった。 そんな飛翔の余裕そうな表情が面白くなかった王は悪態をついてそのまままたあの長い階段をえっちらおっちら下りていった。 「すげぇ...」 その場で見張りをしていた凾ヘポツリと呟く。 「ですねぇ」と飛翔も苦笑した。 王のバイタリティは賞賛に値すると思う。あの一言を言うためだけに態々武官の自分達でさえ膝が笑うこの階段を上ってきたのだから。 あと少しで刻限となる。 凾ェちらと飛翔を見た。 「戻ってきますよ」 飛翔が言う。確信めいたその声音に疑問が生じた。 声をかけようとしたら突然飛翔が牢獄の明り取りの窓によじ登った。堂々と脱獄か?! そう思ったがぞくりと悪寒が走る。 何だ...? 「街の人たちを避難させてください!」 飛翔が声を上げる。 見張りに立っている自分達に言う。凾ヘ相方と顔を見合わせて首を傾げ、飛翔を見る。飛翔は真剣な瞳をしていた。ここ数日そんなに長い間顔を合わせていたわけではない。 それでも、他の、監視の当番に着いたもの達に聞いても、彼の佇まいには唯ならぬ気配があるし、いつも余裕そうでゆったりしていると皆が口を揃えて言う感想だった。 凾ェ近くの窓から外を見る。 「マズイ、何か変なのが来る。...時の国の奴らだ」 街に火が上がる。 「ちっ」 舌打ちが聞こえたかと思うと突風が吹き込んできてついでに塔の壁をぶち壊した。 そこから飛翔が落下する。 「おい!」 声をかけたが、とき既に遅し。 こんな脱獄で何とかなると思ってるのか?! 慌てて預かっていた鍵で牢の扉を開けて空いた壁から外を見下ろす。 ぞっとする高さだが、飛翔はどうやら意思を持って降りている。そんな雰囲気だ。 そして、ぴたりと空中で止まって窓を蹴破った。 「はあ?!」 なんてでたらめだ... 「風の...」 飛翔は風の能力者ということに、今気がついた。 「凵I」 相棒が声をかけてきた。 そうだった。飛翔が何者というのは今この際は気にしていられない。 「こっち来い!」 飛翔の空けた壁の穴の目の前に床が出来た。 凾ェ作ったものだ。元は砂で、能力で固めて此処まで上げた。 2人乗るのがせいぜいだ。 「落ちんなよ!」 「落とすなよ!」 そんな会話をして砂を崩していく。時間短縮になったが、消耗も激しい。 「ちょっと休んでから来い!ゆっくりさせてやれなくて悪いな」 そう言って相棒が駆けて行った。 |
桜風
11.2.6
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