第37話





正午の鐘が鳴り始めた。

これが鳴り終わると飛翔の負けとなる。

十個目の鐘の音に重なって「陛下」という声が聞こえた。

見ると窓の外には竜に乗った大地の姿があった。

央圻は思わず口笛を吹き、垓もほっとしたように息を吐く。

「約束どおり、私は戻って参りました。...この賭け、我々の勝ちです。」

竜をつれ、神器も腕にある。確かに時間通り戻ってきた。

国王はゆっくり頷いた。いまだ、現状が理解できていない様子である。

「...飛翔、牢は上だぞ?」

今更気付いた大地がそう声を掛けと、

「あんな高い所だと、私に『どうぞ、脱獄してください。』といっているようなものだな。私を閉じ込めるなら、地下だ」

悪戯っぽく笑って飛翔が答えた。

「大地、東の砂漠に魔物を誘導してくれ。沙羅に何か考えがあるらしい。私は街の中の雷と氷を拾っていかないといけないから先に行ってくれ。炎狼も沙羅と一緒にいるはずだ。
総司令、銃を何丁かお貸しいただけませんか?砂と風は相性が悪いので」

あれだけのことをしておいて『相性が悪い』らしい。

飛翔に言われた垓は周囲のものに指示を出し、拳銃二丁とハンドガン一丁、予備の弾を二ケースずつ渡した。

「使い方は?」

「分かります、使えます。それでは、私はもう行ってもよろしいですよね」

「ああ、先ほどはすまなかった。感謝する」

国王の許可も出て、飛翔はそのまま窓から飛び降り、街の上を飛んでいった。大地もそれに続いて東の砂漠を目指した。


時間は遡る。

飛翔と同じ頃に魔族の襲来を察した炎狼たちは家の外に飛び出した。

「ホムラ!」と炎狼は迷わず自分の竜を呼ぶ。

「先に行く!」

「待って!」と止めたのは沙羅だ。

「遺跡と逆の方角の砂漠に追いやれないかな、あの魔族たち」

炎狼は眉を寄せた。

「追いやってどうするんだよ」

「いい考えがあるの。こんな街中では出来ないことだから」

「乗ったほうが良いんじゃない?一々ぶった切るよりも効率が良いんでしょ、それって」

雷が言うと沙羅がうなずいた。

「んじゃ、飛翔にもそう声をかけてくる」

「俺達は、庁舎に行ってみる。武器が無いとどうにも出来ない」

「だねー」

「じゃあ、また戻ってくる。沙羅ここで待ってろ」

炎狼はそう言ってホムラとともに魔族が集結している庁舎へ向かった。

「行くぞ」

そう言って氷は駆け出した。

「待ってよー」

のんびりと氷の後を駆け出す雷に「いってらっしゃーい」と沙羅は手を振った。


街の中は混乱を極めていた。

パッパーとクラクションが鳴る。

振り返ると見たことのない人物が居た。

「大地のお客さんね」と言われて雷が訝しがりながらも「ええ」と頷いた。

「使うかしら、これ」

そう言いながら自分の乗っているバギーを指差した。

「あなたは?」

「んー...文官の私はこういうの慣れていないしね。だったら、慣れてそうなお兄さんがいるそっちに貸与した方が良いかなーって」

「武器は?」

「良いのないよー。ランチャーと、サブマシンガンと..両手剣」

最後のは弾切れのときの苦し紛れなのかもしれない。

「雷、運転できるか?」

「ムリ」

雷の返答に溜息をつきたいのを我慢して「ランチャーと、サブマシンガン」と聞くと首を横に振る。

それなら、バギーの運転だけでもこの人に頼んで...

そう思ったら

「けど、剣と能力があるな」

と言う。

つまり、この装備で充分だと言うことか...

そう思って雷を見るとウィンクされた。

「運転しようか?」

と氷と雷のやり取りを見ていた彼女が言う。

「頼んじゃおう」と雷が言い、その方がいいと判断して「お願いします」と氷は頭を下げた。

「何言ってるのよ。他の国の人に自分の国を守ってもらうのを手伝ってもらってるんだから、こっちが頭を下げるべき!じゃあ乗って」

そう促されて2人は後部座席に飛び乗った。


雷は両手剣を振り回しながら稲妻を落としていた。

「どうやってるのよー」と運転しながら『塔子』と名乗った彼女が言う。

「企業秘密です」とウィンクしながら雷は唇に人差し指を当てて笑った。

不意にぶわっと砂が舞う。

塔子にゴーグルを借りていたので砂が目に入ることはなかったが、少なくとも砂は被った。

見上げると遙か上空に人影があった。

「あ、出てきたんだ」

雷が呟き、安堵したように氷も息を吐く。

自重に任せて上空から降りてきた飛翔が地上に降りる前にもう一度風を呼び、それをクッション代わりにして静かに地面に足をつける。

「炎狼から聞いた。2人を回収しつつ、魔族を巻き込んで東の砂漠に行くようにって」

「あ、ホント?」と雷が言い、「急ごう」と氷が言う。

「これ、借りたままで良いですか?」

と雷が言ったのは、重そうな両手剣だ。

「え..ええ。良いけど」

「じゃあ、行くか。すみません、また砂が舞い上がります」

飛翔の言葉に呆然としながらも頷いた塔子は上空に上がっていく彼らを見て、目をぱちくりとし、思わず口笛を吹いた。









桜風
11.3.6


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