第38話





魔族の襲来があったその日の夕刻、王は機嫌が悪かった。

今日は魔族の襲来があり、少し早く休もうと思っていたのに自分に面会を申し込んできた六番隊隊長。「どうしても会っていただきたい方がいるのです」と言っているらしい。

六番隊隊長の意思をないがしろにして痛い目にあった王としては一応時間をとって会うだけ会ったという形にしたいらしく承諾した。

「何で俺も...」と央圻が呟き「そっちは王の親衛隊だろう」と垓が返した。

自分だって物凄く忙しい。

刻限になって六番隊隊長と副指令がやってきた。

それに続いてこの部屋に入ってきた人物に「はぁ?!」と央圻が声を上げて垓もあいた口がふさがらない。

やってきたのは自分達の育ての親、つまり、大地の育ての親だ。

何だ?どうした??

本来なら身分から考えて王に謁見することは許されない。

「兄上?!」

そう、たとえ『兄上』でも...って、兄上?!

何が何だか分からない。

「おい」

「俺に聞かないでください」

だよなー...

隣に立つ垓に聞こうと声をかけた央圻だが、垓の表情を見れば自分と同じ立場だと言うことが分かった。

「おや?久しぶりだね」

そう言って神父は昔の2人の名を口にした。

「うわぁ...!」

と慌てた垓に対して彼は

「何を慌てているんだい?その規則は、貴族だから罰があるんだよ。しがない丘の上の貧乏教会の神父さんに何の罰則があるのやら...」

と肩を竦めて言う。

だって、今...!

「珪x(けいぎょく)様、からかいが過ぎますよ。それに、こちらももっと大変なことになっています」

碧が促すその先にいるのは勿論、この国の王で膝をついて涙を流している。

「おやおや...さて、と。本題に入りましょうか」

そう言ってニコリと微笑む。

「私は、ここにこれまでのことを話しに来ました。落ち着いて聞けますね?」

涙を流す王にそう声を掛けた。

彼は大人しくコクリと頷く。

「珪x様、椅子をお持ちしました」と椅子を持ってきた聖坡に礼を言って「失礼しますよ」と言って腰を降ろす。

そういえば、この部屋に入ってきたときに足を引きずっていた。聖坡を見るとにやっと笑う。「まだ青い」と言われているようで垓も央圻も押し黙った。


「まず、そちらの2人の疑問から。私は、現王の兄で珪xと言います。ある日、ご神託があったのでこの宮殿からばっくれました」

「「...は?!」」

数秒の沈黙後、2人は声を揃えて声を上げる。

「仲良しさんですね。信託と言うのがですね、十数年後に神の使いが地上に降りるから、その子を大切に育てなさいということでした。一瞬自分の子供のことかと思って聞き返してみたら『んなワケねぇだろ』と軽く返されてしまいましてね...
まあ、そんなわけで王宮からトンズラして、聖坡の領地で静かな生活を送っていたのですよ。そして、その神の使いを迎え入れる体制を作るべく、王都に戻って貧乏教会で孤児院を始めました。
ま、そこからの歴史は君たちが知っているから端折りますけど」

「兄上、端折らないでください。というか、既に随分端折られているのでは...」

珪xの傍にやってきた王が言う。

確かに、と央圻も同意して頷いた。

というか、聖坡の領地とな?!

聖坡を見るとニコリと微笑んだ。

「俺ら、結構いい年したジイサンの掌の上でコロコロと転がされてたってことか?」

「悲しくなるから言わないでください」と垓が央圻に抗議した。

どうも話を聞くと碧は幼い頃は王都に住んでいて、珪xの学友という立場だったらしい。

そして、聖坡は彼の父親が珪xの武術の師匠というところだ。

次期国王だった彼は文武ともに最高の教育を受けていた。

その過程でその2人と知り合い、友情が育まれたということだ。

碧は幼い頃から神力が強く、珪xが地の神ザズから神託を受けた話はすぐに信じ、そして聖坡もその父も信じて協力してくれたのだ。

当時の王、つまり先代の王には事情を話して彼の許可を得ていたが、彼が次代の王に話す前に急死したため、事情を知らなかった現国王は、『王とは何か』ということを考える間もなく王位に着き、今の状況を作ったと言う。

「いやはや。私にも責任があるとはいえ、中々酷い治世だね」

ズバッと言う珪xにシュンとうな垂れる国王。

思わず王に同情してしまう垓と央圻である。

「何?碧を怒らせたんだろう?碧は怒らせたらダメだよー。全く...」

その原因が貴方です!

心の中で垓と央圻は突っ込む。声に出して突っ込む勇気はない。

「さて、と。そろそろかな?」

そう言って珪xは椅子から立ち上がり、片膝をついた。

それに倣い、碧と聖坡も片膝をつく。

ゾクリ、と何か空気が変わった。

垓と央圻も慌てて片膝をついて頭を垂れる。

ひとり、王だけがぽかんとしていた。

「やっぱ、才能はないなぁ...空気読め、空気」

突然現れた男がそう言う。

「な...!私を王と知っての暴言か!!」

「オレを神と知っての暴言か?」

にやっと笑ってその男が言う。

「な..なんだと?!」

「ザズ様、弟の無礼は私がお詫び申し上げます」

珪xが少し震えた声を出す。

自分にはその才能が皆無と碧に前に言われた。神力はないということなのだろう...では、なぜ神を目にすることが出来るのだろうか...

そう思いながら垓は目の前に立っているザズと呼ばれた男を窺い見る。

目があった。

ザズはニッと笑う。

「ま、いいけどよ。おい、そろそろ、その玉座から落とされかねないから周りを見ろ。王なんてのはな、誰だってなれるんだからよ」

ザズが言う。

王は驚愕に満ちた瞳で彼を見ていた。

「『七勇』って、何か知ってるか?」

自分を見下ろしてザズが言う。

「神の、使いだと教えられております」

垓が答える。

「おう、その通りだ。最初の勇者、初代は何の変哲もない人間だった。
神は直接人界に手を出せない。だから、人界に魔族が出てきたときに神は適当に選んだ人間に力を与えて魔族と戦わせた。それが、『勇者』だ。
今は『神力』と呼ばれている力だな。能力者の力の元のそれだ。けど、本当は神力は誰だって持っている。使い方が上手か下手かなだけだ。使うのに才能はいるかもしれないし、元々持っている容量も関係する。
最初の勇者はこの神力をまたいつか来るかもしれない魔族との戦いのために絶やさないようにした。
つまり、血を残そうとしたんだ。ま、よくある話だし、悪くない。
しかし、よく考えてみろ。今、能力者は王族だけか?違うよな。寧ろ、王族にはいないはずだ。
血はどんどん薄くなるし、逆に思い出したかのように能力者が現れる。
この理屈でいくと、国の奴ら、少なくとも能力者は今の王の家系になくても其処に座る権利がある。
ということは、その椅子に座るのに必要なものと言ったら、血以外のもの。王としての『器』だけだ。
今までどうしてお前がその椅子に座れたか。周りが何とか踏ん張ったからだ。この先、それが無くなればどうなるか...想像に難くないな」

ザズの言葉に王の表情が変わった。

「んで、珪x。お疲れ。中々根性の座ったガキに育ててくれたじゃないか」

「私の至宝です」

誇らしげに言う珪xに「はっ」と笑う。

「けど、まあ。今回のはこっちも色々と後手に回ったところが多くてな。風のほうも色々と面倒なことにしてしまった...あっちは特に何とかしてやらんとな」

独り言のようにそう呟き、ザズはその場に居る人物を見渡す。

「じゃあな」

一言そう言って彼は消えた。

その場に居た全員が大きく息を吐く。

「手汗、すげぇ...」

自分の手を見つめながら央圻が呟いた。









桜風
11.3.20


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