第39話
| 暫く部屋の中が静まり返っていた。 「さて」と沈黙を破ったのは珪xだった。 「私も帰ろうか」 「お供します」 珪xの言葉にすぐに反応したのは聖坡だった。 珪xは頷き、「陛下の御世に多くの繁栄があらんことを」と一礼をして出口に向かう。 「兄上!」と縋る声を上げた王に反応せずに珪xはそのまま部屋を後にした。 垓は慌てて彼を追う。 「神父殿」と呼ばれて彼は振り返った。 「何でしょう」 「あの、教会の守りは...」 「凾ノ留守を任せていますからね」 ニコリと微笑んだ。 「はあ?!」 思わず頓狂な声を上げてしまった自分の口をあわてて塞ぐ。 「あいつ...」 「私の家に代々仕えている家の末の子だ」 そういったのは聖坡で垓は目を瞑って天井を仰いだ。 「あー、ホント...ジーサン共の掌の上ってことか...」 「こらこら、口が悪いですよ。北の臣王の嫡子であろうお人が」 「ウチの親も貴方のことを存じているのですか?」 「さあ?そこまでは...ま、噂くらいには上っているかもしれませんね」 パチンとウィンクをした珪xに向かって苦い表情を向けて「お気をつけてお帰りください」と垓は深く頭を下げた。 「ありがとう。貴方の噂を聞くたびに、私は嬉しく思っていますよ」 昔のように垓の頭をなでて珪xは歩き始める。 足音がある程度遠ざかっていったところで垓は頭を上げた。 「さて、」と呟き、垓は自分の執務室へと向かった。 「寝室に戻られないのですか?」 珪xがいなくなった部屋で呆然としている王に向かって央圻が声を掛ける。 「お前は、知っていたのか?」 「全く存じておりませんでした。知ってたらとっとと助けを求めてましたよ」 肩を竦めて言う部下に愕然とした。 「助け..だと?」 「無礼を承知で、あえて言いましょう。 あんた、どれだけ国を見てる?家族が..妻や娘が大事。悪くない。けどな、アンタが見なきゃならないのは、家族だけじゃない。『国』だ。王に特権があってそれを民が受け入れているのは何故だ?国を良くしてくれると信じてるからだ。 じゃあ、アンタはどれだけ国を良くした? 自分の身の安全ばかりを口にして、助けられる力があるのにその手を伸ばさず。民はいくらでもいる?魔族に襲われるたびに死んでる民がいるのに、税を増やせばいい?どんな計算をしてそういえる。 アンタ、その椅子に座ってからどれだけ市井を見てきた。全く見てないだろう。 いっぺん見てみろよ。今でも市街地では家をなくした者、家族を亡くしたものが嘆いている。食うもんもろくに無く、心が荒んでいる。国を豊にしたかったら、民の心を豊かにするのが先だ。たぶんな」 そう言って央圻は王に敬礼を向けた。 「余は、間違っているのか...」 「そう思うなら考えていただきたい」 冷たく言い放った央圻の言葉につばを飲む。 「もう、手遅れか...」 「先ほど、にわかに信じがたいが、神..ザズと名乗ったあの人が言いました。『そろそろ、その玉座から落とされかねないから周りを見ろ』と。まだ、崖っぷちではありますが、落ちてはいないと言うことだと私は思います」 暫く王は央圻をじっと見て、そして「まだ、間に合うか」と言う。 「がけっぷちです」 央圻が答えた。 「そうか」と肩を落として王は足元を見る。 「明日の朝、またお迎えに上がります。本日はお休みください」 央圻が言うと「そなたは、どうする?」と王が問う。 「総司令を手伝います。というか、仮眠を取らせます。睡眠をとらないとろくに頭が回らないでしょうからね」 そう言って央圻は頭を下げてその部屋を後にした。 |
桜風
11.4.3
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