第40話





「おい、寝ろ」

垓の執務室のドアを開けた途端、央圻が言う。

「俺のほうが上司のはずだが...?」

命令口調の央圻に垓が返すと「へっ」と央圻が笑う。

部屋のドアがノックされた。

「開いている」と言うと一番隊の隊員が入ってきた。

「おう、どうした」と央圻が言うと彼は敬礼をして垓を見る。

「陛下がお呼びです」

央圻は眉間に皺を寄せたが「わかった」と垓は立ち上がる。

「俺も行くか」

そう言って立ち上がるが「先に仮眠をとっててくれ。戻ったらたたき起こす」と垓は笑って部屋を出て行った。


再び先ほどの部屋に戻り、垓は目を丸くした。王の表情が先ほどと全く違うのだ。

「お呼びでしょうか」

「そなたに相談がある」

『相談』という単語に再び目を丸くした。

内容を聞いてこれまた呆然とする。兄と神の出現は物凄く良く効く薬だったらしい。

いいことだ...

「そうですね、まずはあちらの様子を知らなければなりません。五番隊隊長に任せましょう」

「五番隊隊長..名を、何と言ったか」

「千里です。二番隊隊長の幼馴染のようなものです。彼女に様子を見てもらってきましょう」

「ついでに伝言を頼むことは可能だろうか。明日、もし動けるようであれば、かの者達に会って話をしたいと思うのだ」

「わかりました。とりあえず、五番隊隊長を呼びましょう」

控えている兵を伝令に遣い、王と垓はそのまま話を続けた。

暫くしてやってきた千里に頼みごとをして、再び2人は話を続ける。

「実のある話なら私も混ぜてください」と言ってきたのは珪xを送ってきた聖坡だった。

嬉しそうに微笑んでいる。

「やはり、ビシッと叱ってくれる人がいないと貴方はダメなんですね」とこともあろうに王に向かってそう言うのだ。

「央圻も好き勝手言ったらしい」と苦笑しながら垓が言うと「おや、先を越されてしまった」と聖坡がおどける。

日が昇るまで3人はこれからの国の復興について話し合いを続けた。

途中、仮眠から覚めた央圻が加わり、他の隊長たちも自然と集まってきていた。

王はいつの間にか集まってきた者たちの顔を見る。初めて、彼らの顔を見た気がした。

数を数えてみたが、どうも足りないみたいだ。

そうか、と納得した。二番隊隊長は今は家に居るはずだ。

「二番隊は副隊長が此処に出席していますけどね」

王の考えを読んだかのように聖坡が言う。

「え?!」

基は慌てた。やはり、でしゃばってしまったのだろうか。

各隊長たちがこれからの復興について話し合っていると聞いたので、自分も加わってみたのだが...

「では、何処の隊、担当が不在だ?」

王の問いに、「三番隊、市内警備ですね」と岳が答える。

「そうか、今は一番忙しいのだな」と王が納得したが、その言葉に全員が複雑そうな表情を浮かべた。

だが、誰も何も言わずそのまま会議を続けた。どうせ、居たら居たで面倒くさいから。


翌日、大地たちが庁舎にやってきた。

案内された部屋に入った途端、彼は感嘆の息を漏らす。

「この絵に似たの、おれの国にもあるぜ。飛翔も見たことあるだろ?」

炎狼の言葉に飛翔は無言で頷いた。

「そうですか。それは何代か前の七勇の勇姿を描いたものです」

不意に声がして皆が振り返ると国王と総司令が立っていた。

大地が敬礼をして皆もそれに倣おうとしたとき、国王がそれを制して頭を下げた。

「皆さん、昨日はどうもありがとうございました」

大地をはじめ、皆はこの国王の態度に戸惑った。

「七勇のことは我が国でも伝説になっています。そして、『王族たるもの神の使いには従え。』と言われ続けてきました。つまり、七勇のあなた方を立てろということです。これは王族の義務となっているのです。少なくとも、我が国は」

イマイチ状況が把握できなかった大地は曖昧に納得した。

自分も似たようなことを幼い頃聞かされてきたのだ。王族でなくとも、皆似たようなことを聞かされているのだろう。

そしてふと、絶対に忘れてはいけないことを思い出して慌てた。

「では、私の願いを申し上げてもよろしいということでしょうか?」

大地の言葉に「勿論です」と王が頷く。

「それでは。この先、私が戻るまで戦闘は防戦に徹してください。『絶対にこちらから戦いに赴かない』、そう約束をしてください。炎の国は既にそういうことになっております。敵は人以外のものに絞らなければ結局奴らに力を与えることに繋がるのです」

「心得ました。約束いたしましょう」

その言葉を聞いて大地は安堵した。


大地たちはそのままステーションに向かった。

「...なんで居るんだよ」

大地が呆然と呟いた。

目の前には大地の育ての親である神父がいた。

「総司令が招いてくださったのだよ。どうせ挨拶無しで出て行くつもりなのだろうからって。図星だったね?」

大地はばつが悪そうに視線を逸らす。

「挨拶しとけって」

炎狼に背中を押されて大地は仕方なく神父の前に立った。

「あー、えっと。行ってきます」

「ああ、いってらっしゃい。気をつけるんだよ。...大地は私の自慢の息子だ、忘れてはいけないよ?」

神父は目じりに深い皺を刻んでそういった。

二番隊の隊員とも挨拶をする。

「ちょっと隊長、もしかしなくても自分が代わりにこれまとめるんですか?」

涙目で基が訴えてくる。

隊員たちの性格を把握しているだけに気の毒に思うが、だからこそ、まともな部類に属ずる基以外に任せられないのも事実だ。

何より、全員不合格の判を押されていて、唯一その判を押されていないのが基なのだから、それ以外の選択肢すらない。

隊長となると他の隊とのコミュニケーションをとる必要もある。せめて常識が通じる人でなくてはならないのだ。

「お前以外には任せられないんだ。諦めてくれ」

そう無理矢理諭し、他のメンバーとの挨拶を済ませて大地たちは船に乗り込む。

最後を歩いていた大地がふと振り返り、神父に向かって

「じゃあ、行ってくるから。体に気をつけろよ...父さん」

と言って足早に船に乗っていった。大地は後ろからでも分かるくらい耳が真っ赤だった。


「大地はいつもあなたを父と慕っていましたよ。ただ、照れくさかったみたいです。良かったですね、神父様」

総司令に声を掛けられて神父は嬉しそうに微笑んだ。









桜風
11.4.17


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