第42話
| 謁見の間にするかどうか悩んだが、あそこだと王が遠いので別の部屋で会談の席を設けることとした。 先に部屋に案内し、王と央圻を呼びに行かせる。 先方は上陸したのは代表、頭領と言っていた秀炎と護衛に2人だった。他のものは船に残らせているようだ。 「すぐに参りますので」と垓が言うと「いえいえ。こちらが先触れもなしにお邪魔したのですから」と返ってくる。 ノックされてドアが開いた。 央圻が先に入り、続いて王が室内に入る。 椅子に腰掛けていた秀炎は立ち上がり、礼をした。どうやら、炎の国の礼らしい。 「お待たせ致した」と王が応じる。 椅子を勧められて秀炎は腰を下ろし、王も腰を下ろした。 「申し訳ないが、時間が無いので単刀直入に伺わせてもらう。どういった用件でしょうか」 「条約の提案に参りました」 単刀直入に問えば、単刀直入の返事がある。 王は虚を突かれたように言葉を失くす。 「内容は?」と問うたのは央圻だ。 「ええ。まあ、ついこの間までドンパチしていた仲ですので突然仲良くしましょうなんて無理だと思います。 なので、喧嘩をしないことにしましょうと言う条約です」 そう言って彼は護衛に着いてきた者に合図をした。 護衛がひとり前に出て秀炎に箱を渡した。 秀炎はそれを開けて中に入っている紙を取り出して広げる。 「...何を書いてあるのかさっぱりだ」 「あ、やはりそうですか。一応、読み上げます」 要約すれば『お互い勇者が戻ってくるまでの間は干渉しない』という内容だった。 「なるほど。しかし、本当にそれが書いてあるのか我々には確認できない」 王が言うと「ご尤も」と秀炎は頷いた。 「ですから、もし、今私が読み上げた内容の条約を結んでいただけるのでしたら、そちらの国の言葉でこの紙に書いてください。この内容なら、あなた方は条約として結ぶ、という意思表示のひとつです。 私は貴国の文字が読めません。そちらも同じくわが国の文字が読めない。 結局、お互いの誠意と申しましょうか。そういうものになると思います。いつか、平和な世の中になって、両国の文字が読める人が出てきたとき、お互いが嘘をついていても、片方が嘘をついていても気まずくはなりますけど。とりあえず、お互いが攻撃をしません、ということになればどう書いてあろうとそれはその後の話でいいかな、と」 王はぽかんとした。 「あまりに、大雑把な...しかも、わが国がそのような約定を結んでも他国がどのようにするか...」 王の言葉に秀炎は頷く。 「ええ、ですからこれから他国も回ります。おそらく、勇者達がそれぞれの試練に合格すれば各国の王..代表者達は彼らを認めざるを得ないでしょう。これは私の勘ですが、貴国にも七勇の伝説はあるのではありませんか?」 秀炎の言葉に王は頷き、「貴国も、ですか」と問い返す。 「ええ、風の国にもあるそうです。つまり、全ての国に似たような伝承が残っていると考えて良いでしょう」 「しかし、他国の代表がその伝承、伝説を信じているとは限りませんが...そうなった場合、のこのこと顔を出せば貴方の命が危ういのでは?」 王の言葉に秀炎はニコリと微笑んだ。 「覚悟の上です。炎の勇者は我が息子です。わが子が命を懸けているのに、のほほんと安全なところで茶など啜ってなどおれません。 幸いなことに、わが国の先代頭領はまだまだ健在ですので、私が命を落としても国を簡単に落とされることはありません。武勇、ということでしたら私よりも先代の方が優れていますからね」 穏やかに微笑んだ秀炎の瞳はとっくに覚悟を決めた者のそれだった。 なるほど、と垓は納得した。 似ていると思った。だから、おそらく身内だろうと思ったが、あの炎狼と言う若者の親だったのか... 「何故、風の国のこともご存知なのですか?」 央圻が質問を挟んだ。 「風の国には我が兄がいますから。元々、頭領を継ぐのは兄の予定だったのですが、家でじっとすることが出来なかった兄は遠出をして、そのときに出会った風の国の女性に心を奪われてあっさり出て行ったのです」 苦笑して秀炎が言う。 「なんと!」と王が立ち上がった。 秀炎は目を丸くして王を見上げる。 「貴殿もご苦労なさったのだな」 あーあ、シンクロしてる... 央圻は心の中で呟く。 自分も突然後継にされてそのまま王になり、目の前の炎の国の代表も似たような境遇だと言うのだ。 同志が見つかった彼はとても嬉しそうだ。 「実は、私も似たようなものだったのです」 彼は嬉しそうに自分の身の上話を始めた。 ゴホンと咳払いをして止めてみたが、聞く耳を持っていないようだ。 一通り話をした王は「今では、周囲が厳しい目で私を採点しているのです」と肩を竦めて話を締めくくった。 「良い臣下をお持ちですね」 聞き終わった秀炎はそういった。 王はきょとんとする。 「先代が言っております。権力に阿るものばかりを傍においていては国が滅びるだけだ。権力を叩き潰すくらいの気概を持った者が傍にいてこそ、国を見ることが出来る、と。諫言できる臣下がいることは、いい事なのです。 勿論、不敬との区別が難しいところではありますが、相手が何を意図として意見を述べているか。言葉に耳を傾ければ気持ちも伝わってくるので、何となく分かりますしね」 「貴国にも、そういった臣下は...?」 「ははっ。叱られてばかりです」 笑って言う秀炎に頷く。 「民の命を預かっている以上、大きな失敗は出来ませんが、信頼を置ける臣下がいると多少の失敗は何とかなるような気がしますよ。 我が家の家訓に、『民なくば国は無し。国無くば、王は無し』というものがあります。民のいない国に『王』という存在は無意味ですからね、それを念頭に置いて執政するようにと骨の髄に叩き込まれています。中々、全ての民を豊にすることは難しいのですがね」 困ったように笑う秀炎の言葉に王は頷いた。 市井なんてどうでもいいとか思っていたが、国を豊かにするのは王ではなく、民なのだ。 最近、やっとそのことが分かってきた。 央圻はアレ以来、かなり手厳しいことを言うが、それは国のためであることが分かってきた。 聖坡はそれを楽しんで見ている。 垓は何も言わないが、きっと央圻が言わなかったらそのことを垓は言うだろう。 「条約の件ですが、臣下の皆様と話し合いが必要でしょう。答えを出されるまでの間は、港に滞在させていただけませんか」 秀炎の言葉に王は垓を見た。 「こちらにご滞在いただいても構いませんが...」 そう申し出てみたが、 「いえいえ、貴国の文化を学んできておりませんので失礼があってはわが国の名折れとなってしまいます。申し訳ありませんが、勉強できるまでご勘弁いただけないでしょうか」 と断られた。 まあ、それくらいは慎重か... 「承知いたしました。ですが、滞在期間中の食事はこちらで用意させていただいてもよろしいでしょうか。調理されたものが心配でしたら、食材だけでもご用意させてください」 垓の言葉に秀炎は「お言葉に甘えさせていただきます」と頷いた。 |
桜風
11.5.15
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