第44話
| 翌日、王は垓と央圻、そして岳を連れて秀炎の乗ってきた船に向かった。 「そちらに参りますよ」と秀炎は言ったが、王はそのまま炎の国の船に乗り込んだ。 「わお!」 五番隊の執務室のモニタでその様子を見ていた塔子が驚きの声を上げた。 「まあ、今この国にいる中で強い2人が一緒ですし」 千里が言うが 「相手のほうが人数多いじゃない。大丈夫なの?」 と心配そうな声を漏らしている。 「塔子さんって陛下のこと、結構好きですよね」 「最近のはね。頑張ってるから。前はふんぞり返ってるだけでムカついてたけど」 「...岳が居なくて良かったね」 不敬罪で一晩くらい投獄しそうな気がする。 「しっかし、こんな小型カメラなんてあったんだ?」 モニタに映されているのは岳の徽章につけたカメラから発進されている映像だ。 「ええ、私も驚いてるんだけど...」 あれはこの国にひとつしかない。解体して戻せなかったらまずいので大切に保管していたのだが、まさか動かすことが出来るとは思わなかった。 船の中の大きな部屋に案内されてテーブルを挟んで両国代表が椅子に座る。 秀炎が再び条約に、と持ってきた紙に書かれている一文を読み上げ、王に差し出した。 王はペンを取り出し、文字を綴る。 内容は、秀炎が先ほど読み上げたものと同じだ。 彼はそれを読み上げ、調印した。 「言葉は通じるのだから文字も共通のものがあれば良いですね」 秀炎がいう。 「そうですね」と王の代わりに岳が頷いた。 「では、我々は次の国に向かおうと思います」 突然の言葉に王は驚いた。 「もう少しゆっくりして行かれれば...」 「おそらくあまりのんびりしない方がいいでしょう。追いつくのも拙いでしょうが」 苦笑して秀炎が言った。 「それに、そちらの皆さんは心配されているでしょうからね」 そう言って岳の徽章に笑顔を向ける。 バレていた... なんとも居心地が悪い岳が「申し訳ない」と謝罪する。 「いえ。そちらにそこまでのテクノロジーがあることに驚きました」 秀炎が言う。 「そういえば、貴国は何故風の国との友好条約が結べたのですか?」 岳が問う。 「昨日、陛下にもお話しましたが、我が兄が風の国にとんずらしたんです」 おどけていう秀炎に 「では、頭領の兄上は亡命された先でも国を代表されているのですか?」 と岳が問い続ける。 「兄は、軍人として風の国の王..『帝』とかの国では言うのですが、帝に仕えていますよ」 「では、帝の覚えがめでたい?」 しかし、それだけでは友好条約とはいかないだろう。 「兄の妻となった方は、今の帝の姉君です」 と、いうことは王族同士の婚姻と言うことになるのか。 「政策的に?」 「いいえ。恋愛結婚です」 苦笑して秀炎が言う。 「どうやって...」 国の外に出ることは非常に危険だ。王の子らを易々と国の外へ出すはずがない。 「まあ、その話は追々。平和になったら本人達に聞いてください」 にこりと微笑んで秀炎が立ち上がる。 これで話はお終いということだ。 「少しお待ちいただきたい。燃料と食糧の補給を手配します」 「お心遣い、感謝いたします。燃料は殆ど減っておりませんので遠慮します。食糧は少しお分けいただけると助かります。貴国では、翡翠は価値がありますか?」 そう言って秀炎はそばに控えて居た者に視線を向けた。 彼は恭しく前に進み出てそっと袋を差し出す。 「いえ、御代をいただこうとは思っておりません」 「いいえ。今はまだあなた方とは友好な関係には立っていません。お互い、警戒できるところはしておきましょう。今は、剣を納めただけですから」 ここが一線だと彼が言っている。 尚も言い募ろうとした王を制して「わかりました」と垓が答える。 「ヒスイ、というものは初めて目にします。つまり、わが国では希少な..鉱物ですね。一欠けらで食糧は七日分、提供させていただきます」 岳を見ると彼も頷いた。 本当は砂埜の意見を聞かなければならないのだろうが、ここは総司令の特権で黙ってもらうしかないだろう。 「では、それだけ提供していただけますか」 「準備しますので、時間をください」 そう言って地の国の彼らは引き上げた。 港に戻ると既に準備が始まっていた。 「砂埜」 「見返りをもらいましたからね。それは八番隊にまわして研究してみるのも良いかもしれません」 支出にかかわることなので、独断したことにあとで小言を言われるかとも思ったが... 「小言は、後で言います。わが国の財政状況についてはご存知でしょうが、今、本当に余裕はありませんからね」 くるりと振り返って砂埜が言った。 心の中を読まれたみたいで居心地が悪かったが「ああ、すまない」と垓は返した。 |
桜風
11.6.19
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