第45話
| 秀炎は次の国へと向かっていった。 たった数日なのに凄く浮き足立ったと今になって思う。 「失礼します」 古びた教会のドアを開けた。埃が舞う。 咳き込みながら入り口に居る子供に声をかけて神父への目通りを頼んだ。 ここ最近やってくるおじさんに子供達は興味津々だ。 そして、子供に呼ばれてやってきた神父は半眼になって彼を見た。 「仕事はどうされたのですか?」 優しい声音の中にある冷たさを感じて彼は顔を背ける。 神父は溜息をつき、「どうぞ、中へ」と促した。 いつも通される部屋につき、適当な椅子に座った。 「王が何をしているんだか...」 溜息混じりにそういわれた。 「兄上に、相談がしたくて...」 「相談なら、あなたの優秀な部下になさい。総司令も、一番隊隊長も私が腕によりをかけて育てた子です。第一、こうやって足繁く通うのは構いませんが、聖坡と碧を怒らせると面倒ですよ」 本当に面倒そうだ... 「彼らには凄く助けてもらっています。だからあまりその...」 「今更格好をつけたってつかないんだから、諦めてかっこ悪い姿をガンガン晒しなさい」 そう言ってコーヒーを出してくれた。 王宮で飲むそれと違って薄い。だが、この味は嫌いではない。兄が淹れてくれるコーヒーだ。 暫くお悩み相談をしていると部屋を遠慮がちにノックする音が聞こえた。 「どうかしましたか?」 自分に向ける冷たさが微塵もない声音で神父が応じた。 「あの、いつもいらっしゃる貴族の人たちがいらっしゃいました」 その言葉に彼は咽る。 振り返った神父は冷ややかな視線を向けて、「ご案内してくれますか?」と言う。 ぎょっとした王は何かを言おうとしたが、子供が「しかし、今はお客様が...」と先客の存在を気にした。 いい子だ。 「この方はもう帰られます」 笑顔で応じる兄に抗議の声を上げようとしたら視線でそれを制された。さすが、次期国王として育てられただけある。その視線の鋭さに言葉が出なかった。 感心して、ハタと気が付いて頭を振った。感心している場合ではなかった。 「失礼します」と案内されて来た青年達は絶句した。 一人は驚き、一人は呆れている。 「あの、先客がいらっしゃったのなら」 驚いた方の青年、垓が言うと「今すぐにお帰りになられるみたいですから、大丈夫ですよ。あなた方もお忙しいでしょうに...」と神父が何故来たのかと問うた。 「上が仕事をサボってトンズラしたので、話が前に進まなくなったんですよ。幸いなことに、少し休憩を取ってはどうかと促してくれた同僚が居たので、その言葉に甘えてこちらにお邪魔しました」 呆れた青年、央圻がお忍びでここに来ていた王を見ながら言う。 「それは、大変でしたね。お忙しいでしょうに、上がトンズラだなんて」 神父が同情したように頷く。 居たたまれず王が「馳走になった」と立ち上がった。 「10分以内に戻らないと聖坡さんがスゲーことになってると思いますよ」 央圻が言うと王は姿勢を伸ばして急ぎ足で教会を出て行った。 「央圻」 垓が嗜めると 「間違ってないだろう?あそこを出るときに見た聖坡の笑顔、あれはそろそろまずい」 と肩を竦めて央圻が言う。 まあ、確かにそうだった。 「よく、あの方はいらっしゃるのですか?」 「ええ。優秀な部下が居るのに、あまり頼るのは悪いからと」 「ばっかだねー。それが部下の仕事だろうに」 笑いながら央圻が言う。 「あなた方も急いでお戻りになられたほうが良いのでは?」 神父に促されたが 「我々は怖い人公認ですから。ウチの同僚が長い間ここに顔を出せないから気になっていたんです。何か手伝えることはありませんか?屋根の修繕とか、力仕事ドンと来いですよ」 央圻が言うと「助かります」と神父は深く頭を下げた。 暫く『親孝行』をして庁舎に戻った。 執務室に向かう途中に隊長の招集がかかったことを知った垓たちは会議が行われる部屋へと向かった。 「遅い!」 塔子にたしなめられて「すまない」と垓が謝罪し、「予定よりも早く切り上げて戻ってきたんだ」と央圻が応じた。 ここ最近、会議が増えてきた。 王がみなの意見を聞きたいと良く言うのだ。 結局、最終判断は彼が行っているので問題ないが、少し頼りないと塔子は思っていた。 けれども、これまでどんなに声を出しても届いていなかった言葉が届くのは嬉しいものだ。だから、こうやって皆で集まって皆の意見を聞くのは好きだ。 王が変われば国が変わる。 不思議なものだ。 |
桜風
11.7.3
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