第46話
| 国の復興作業は随分と進んだ。 国と言っても、ダメージを受けているのは王都で。王都に住んでいたものたちに仕事を与えて報酬を出しているので、少しずつ街が活気付き始めた。 本来、二番隊は土木担当で復興では彼らが担当することになるが、民に仕事を振っているので、結局は現場の見回りくらいしか仕事がない。 「凾ウん?」 突然足を止めた凾振り返って基が声を掛ける。 「何だ...?」 凾ェポツリと呟く。何か、変だ。何が変かは分らないが違和感を覚えた。 しかし、不快感ではない。 「凾ウん、どうしたんですか?」 見上げる上司に「何でもない」と返して凾ヘ次の現場へと向かった。 それから数日後、庁舎の中が沸いた。 瞬く間に広まった噂では、七勇が終わらせたというのだ。 大地も無事で、どうも国の形も変わったらしい。 その点については、大地から軽く説明を受けた千里もちんぷんかんぷんだったらしい。 それでも、間違いなく大地が戻ってくる。そして、砂輝も一緒に。 仕事が終わって千里は急いで教会に向かった。 「神父さん!」 ドアを開けると彼は驚いて振り返る。 「どうかしましたか?」 「今日、大地から連絡がありました。砂輝ちゃんも無事だって...!」 彼は既に他の人から報告を受けていたのでそのことは知っていた。それでも、こうして息を切らせて報告に来てくれた彼女に「ありがとう」と心からの感謝の言葉を口にする。 そして、少なからず驚いた。 目の前の千里の瞳から涙が零れているのだ。 「千里さん」 「ごめ..なさい。何か、ほっとしたって言うか...」 涙を拭う千里を抱きしめる。 「本当は、これは大地の役目でしょうけど。私で我慢してください」 そういった神父に千里は首を横に振り、そして声を上げて泣いた。ずっとずっと心配していた。 大地なら大丈夫と信じていた反面、それでも相手はあの魔族で。あの圧倒的な強さを目にしたことがあるから余計に不安だった。 千里が泣いているのを子供達は心配そうに遠巻きに見ていた。 一人、小さな女の子が千里のそばにやってきた。 「お姉ちゃん、どこか痛いの?」 心配そうに自分を見上げる彼女を見た千里は、「ううん、嬉しいの」と返して微笑む。 大地からの連絡があった3日後、風のコードの船が地の国にやってきた。 通信を入れてきたのは予想通り大地だ。 「二番隊隊長、帰還しました」 敬礼を向けて大地が言う。 「二番隊隊長の帰還、確認しました」 千里も敬礼をして応える。 船は港に入り、大地を下ろした。砂輝も一緒だ。 そしてすぐに発進すると言う。 「大丈夫なのですか?」 千里が声を掛けると 「綺麗なお嬢さんに心配してもらえて感激だね」 パチンとウィンクを返された。 「ひとんちの隊長、口説くなよ」 半眼になって大地が言うと「まだ口説いたうちに入らないでしょ、これは」と返してくる。 「第一、口説くって言うのは...!」 彼の言葉を遮るようにバシン、と大きな音がした。 「い、いてぇ...」 「他所の国で恥を晒すのはやめてください!」 彼の向こう脛を思い切り小さな子供が蹴ったようだ。 「それでは、大地さん、砂輝さん。僕達はこれで。ほら、東風さん、行きますよ」 「颯希...」 『東風』と呼ばれた彼は唸りながら船に乗り込んだ。その際、千里に投げキッスをするのを忘れなかったが、その後、またドアが閉まる前に物音がした。叩かれたのだろう。 「あ、あの...今の人たち」 千里が大地を見上げると「飛翔の部下」と彼が返す。 「え...」 いや、部下って上司に似てないとか結構あるけど。あるけど... 「ホントに?」 思わず聞き返すと大地は苦笑して「ホント。しかも、優秀らしいぞ」と返した。 大地はすぐに国王に報告をし、自分が聞いた情報を伝えた。 「千里、今の分るか?」 「いえ、あまり...」 「風の国の公開コードを聞いてますのでそちらに連絡を入れて説明を受ければいいと思います。ただ、このコードだったらさっきの東風が出る可能性はあるけどな」 『さっきの東風』のことがわからない国王と総司令、一番隊隊長は首を傾げ、千里は少し複雑そうな表情を浮かべた。 それから国はめまぐるしく動いた。 各国との連絡が取れるようになり、炎の国が各国のトップと勇者達が一堂に会して平和を宣言してはどうかと提案してきた。 危険を顧みず、これから先にあるはずである平和のために各国を巡った炎の国の提案に他国のトップは是とした。 しかし、それを何処でするか。そして、どのように発信するかが問題になったが、そこは風の国が手を上げた。 国内が多少ゴタゴタしていたが、それでも各国に中継地点を造るというなんとも大げさな話になった。 その中継については少々揉めたが、結局全ての国で受信施設を作ることになった。 造るのは勿論、風の国だから余計に揉めたのだが、そこ以外は無理な話なので最終的には国の者の立会いの下に工事を行うこととなった。 プログラムを移植しにやってきた人物が子供であることに千里は驚いた。 こんな小さな子が、と思っていると顔に出ていたのか少年は不機嫌な表情を見せる。 そしてあっという間にプログラムを構築していった。 気候や受信施設の位置などで修正が必要になるとかそんな話を聞いたが、それを簡単にクリアしたようなのだ。 作業が終わって彼は得意げに笑った。「ボク、こう見えても飛翔さんに認められているプログラマーだから」と。 飛翔は一体どう言う人なのだろうかと千里は疑問を抱く。そういえば、数ヶ月前に「暇だから」とふらりとやってきたのを思い出す。意外と自由な人なのかもしれない。あの脱獄の件だってあるのだ。 大地に言うと笑いながら「ま、あいつの部下は変なやつが多かったよ」と言った。自分のところを棚に上げて。 各国のトップが揃った終戦宣言は世界中で中継され、多くの人がその様子を目の当たりにした。 「お兄ちゃん、凄い...」 教会で一緒にモニタを見ていた砂輝が呟く。 千里も頷いた。いつも見ている大地ではないみたいだった。 「感慨深いですねぇ」 神父が呟く。 「どうしたの?」 砂輝が不思議そうに振り返って声をかけた。 央圻は噴出した。 他国に行って恥をかいて帰らせてなるものか、と彼は王をみっちりしごいたのだ。 元々王の身辺警護が仕事の央圻はそのスパルタを一番良く目にしていた。 「陛下が堂々としていらして、誇らしいですね」 そういえば、王様が随分と変わったと噂を聞いた。元々あまり興味がなかったから砂輝には分らなかったが、ここまで皆に言われるのだから本当に変わったのだろう。 世界が変わっている。日常が変わっている。 そんな高揚感をここ最近感じている。 砂輝は窓の外の空を見上げる。 流れる雲はいつもと変わらないように見えて、自分の知らない国から流れて来ているのかもしれない。 「凄いなぁ...」 口の中でポツリと呟いた。 |
桜風
11.7.17
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