序章   第1話





 その人は、草原に寝転んで空を見上げていた。空には雲ひとつなく、鳥が優雅に飛んでいる。

「あー、いい天気だよなぁ。何ていうの?こういうのってピクニック日和っていうやつ?風も気持ちいいしさ、本当に心が和むよな。っつうか、ここ何処よ!?」

がばっと起き上がったその人の髪と瞳は、焔色で肌は浅黒い。

 その人は、改めて草に触れ、自分の頬も抓ってみた。

「痛い。痛いっつうことは、だ。つまり、夢じゃないハズだよな。古典的だけど、これが一番だって聞くし...。さらに言うなれば草も本物だ。...ちょっと待て!おち着け、自分!!まずこの状況を把握しないとな。よし!
おれは誰だ!?炎狼(えんろう)です。ここは何処だ!?さっぱり分かりません。...全く話が進展しねぇ。
仕方ねぇな、ここら辺探索してみっか。」

炎狼は、立ち上がり伸びをして太陽に向かって歩き出した。


 少しの間歩いていると風景が草原から乾いた砂地に変わる。砂に足をとられながら進んでいると、遠くのほうに人影が見えた。炎狼はその長身の人に道を尋ねることにした。

「あの、すみません。」

炎狼に声をかけられた褐色の肌で土色の髪をしたその人は、勢いよく振り返って炎狼の両肩を掴み、すいません此処はどこですか?」

と尋ねてきた。土色の瞳は真剣だ。

炎狼は、項垂れた。

「いや、おれも分からないんです。気が付いたら向こうの草原に寝ていて、それでとりあえず歩いていたら、貴方を見つけたんです。此処がどこかを知っているかと思って声を掛けたんですけど、その様子だと...」

「ああ、オレも分からないんです。今日は、仕事が休みだったから知り合いの家にでも行こうと思って家を出たのですが、何故かこんな砂地のど真ん中に立っていたんですよ。」

「おれも昼寝していただけの筈なんですけどね。おれは、炎狼といいます。呼び捨てで構いません。敬語を使われるの、あんまり好きじゃないんで。」

「オレは、大地(だいち)だ。オレも呼び捨ててくれて構わない。しかし、これからどうする、炎狼。」

「街、あればいいな。探すしかないだろうよ、おれ達以外の言葉の通じる人間を。」

二人は揃って溜息を吐いた。


ふと、少し強い風が吹いてきた。空を見上げた大地の目に、飛んでいる何かが映る。

何かの乗り物ではない。かといって鳥でもない。大地には、人に見えた。

しかし、そんなことがある筈は無い、と否定をして軽く頭を振ると、

「あ、あいつは。おーい、ちょっと降りてきてくれー!!」

と正面に立っていた炎狼が空に向かって手を振っている。

大地は怪訝に思い、炎狼の視線を辿ると、あの飛んでいた何かがゆっくりと降下してきている。

やはりそれは人で、大地の見間違いではなかった。

「ちょっと砂埃たつぜ。口と目、気をつけろよ。」

そういって炎狼は、自分の口を手で押さえ、少し離れたところに降りてくるその人を待った。



「何で炎狼もいるんだ。そちらの方は?」

「この人は大地。おれだって何で此処にいるかなんてわかんねぇよ。飛翔(ひしょう)こそなんでこんなトコロにいるんだよ。」

飛翔と呼ばれた空色の髪と瞳を持つ人は、溜息をひとつ吐いた。

「さあ。仕事が終わって家に帰ってドアを開けたら、何故か向こうの丘にいたんだ。初めまして、大地さん。私は飛翔といいます、呼び捨てにして頂いても結構です。」

「あ、いや、オレも呼び捨てで頼む。ところで、どうやって空なんて飛べるんだ?」

「ああ、風を呼んでそれに乗って移動をしていたんだよ。そのほうが速いし、高いところからだと遠くまで見渡せるだろう?」

さらりと何でも無いことのように言う飛翔に大地は「はあ」と曖昧に答えることしか出来なかった。

「で?遠くまで見渡すことの出来た飛翔は何か見つけたのか?」

炎狼が希望に満ちた声で飛翔に聞くと、

「向こうに神殿みたいな建物が見えたな。このまままっすぐだ。」

「げ!?おれ向こうから来たんだぜ?」

「それはいい運動になったな。」

しれっと返事をした飛翔に向かって炎狼がぶつぶつ文句を言っていたが、飛翔は無視をしていた。

「なあ、何でお前らそんなに仲良いんだ?」

「あ?ああ。おれ達唯一の同盟国、炎と風の出身でいとこ同士だからな。ガキのころからの付き合いなんだよ。じゃあ、行くか?どれくらいの距離だった?」

「少し歩けば着くだろう。」

そうして、三人は歩き出した。








桜風
04.5.2


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