雷の章 第12話





出発の朝。

「何で、昂さんがここに?」

何故か下町に居るハズの昂の姿があった。

貴族以外の立ち入りは不可能のはず。だからと言って、昂が貴族社会に戻っているはずもない。

「陛下がお招きくださったのよ。」

そう言って少し離れたところにいる国王を見た。

「父上が?何故昂さんの居場所を父が知っているのですか?」

それに、周りを見ても貴族たちの姿が見えない。こういうときは好印象を持ってもらおうと、我こそはと見送りに名を上げるだろうと思っていたのだったが...

「あの者たちは遠慮させた。お前に、彼女から話があるようだしな。それに、出立する前くらいはいい気分でいたいだろう?」

そう言って国王は昂から更に離れ、炎狼たちは

「先、乗っとくぜ。」

と言って国王と昂に一礼をしながら船に乗り込んだ。

「話って、何でしょう?」

雷は昂に近づき、話を切り出した。

「実は、あたしはあなたの姉なの。」

突然の昂の告白を雷は簡単に受け入れることが出来ず問い返す。

「何、ですか?変な冗談は...」

「冗談じゃないの。本当よ。国王陛下には愛し合ってる女性が居たの。でも、国王に自由はない。皇后陛下とご成婚なさるちょっと前に私の母と...母もすぐ別の貴族と結婚したわ。まあ、それが戸籍上のあたしの父だけどね。母が亡くなる前、あたしに言ってくれたの。ごめんなさいって謝りながら。
でもね、正直、あたしはあたしの父が陛下で嬉しかったな。だって、それなら兄弟がいるじゃない。優しい弟たち。兄のことを思って心を痛めてる末っ子。その末っ子の行く末を心配するお兄さん。あなたたち、ステキな兄弟じゃない。
あなたのお兄さんはこのことを知ってたわ。婚約を解消するって言ってのもこれが原因のひとつよ。優しい、ステキな子よね。」

優しい目をして兄の話をする昂の姿を見る。

つい先ほどまで面倒見のいい下町の姉貴という感じだったのに、今では自分を見守る姉の目をしている。

「昂さん...」

「ホントはね、もう諦めようと思った。あたしの恋人のこと。多分、父が彼に何かをしたんだと思う。それこそ、あたしと二度と逢えないような何かを。だから、諦めようと思った。父の財力には勝てないって思ったから。でも、やっぱり頑張る。」

「頑張るって...?」

「うん。あの人が逢いに来れないのなら、あたしが逢いに行く。だからさ、賭けをしよっか、雷。
あたしとあなた。どっちが先に自分の夢を叶えるか。」

イタズラっぽい笑みを浮かべて昂が雷の顔を覗きこみながら声を掛ける。

「つまり、ワタシは魔族を封じて、平和な世界を築くこと。そして、昂さんは彼氏を見つけ出すこと?」

「そ。どう?」

腰に手を当てて首を傾げ、雷の返答を待つ。

「良いですよ。では、賭けるものは?」

「そうねー。あたしが勝ったら、雷、あたしの結婚式に出席して。勿論、友人としてね?」

「では、ワタシが勝った場合は...戴冠式の式典に出席してください。特等席を用意しますから。覚悟してくださいよ!」

雷もイタズラっぽく笑ってそう言った。

「OK。じゃ、いってらっしゃいな。ちゃーんと帰ってきなさいよ。雷の悔しがる姿、すっごく見たいし。」

「勿論。ワタシもあなたの悔しがる姿、楽しみにしておりますよ、..姉上。」

照れ臭そうに目をそらしてそう言った雷は足早に船へと向かった。

その背を見送る昂の目には涙が浮かぶ。

「必ず、帰ってきなさいよ!」

「りょ〜かーい!」

ヒラヒラと手を振りながら振り返らずに雷がそう答える。

雷の目にもまた、光る何かがあった。











桜風
05.2.26


ブラウザバックでお戻りください