雷の章 第6話





町の中を歩いていき、ある店の前で雷の足が止まる。

「ここ?」

「そ。いいお酒もあるのよ?」

そう言いながらパブであると思われるその店へ入っていった。皆も続いて入っていくと

「あら、ライさん、久し振りじゃない。」

店のオーナーと思われる女性が雷の姿を見て声を掛けてくる。

「ちょ、ちょっと待て!来い。」

そう言って炎狼は慌てて雷の手を引いて店から出て行く。


「なに?」

「『なに?』じゃねえだろ?!お前、なんで本名名乗ってんだよ。」

「なぁんだ、そのこと。ウチの国は王族の人間の名前をつける人が多いんだよ。国を継ぐ人間のはまあ、敬遠されるけど、庶子については結構気軽につけられるんだ。王族は庶子でも名前までは気合入れるからね。たくさんの占い師とかに占わせていい名前をつけるんだよ。だから、王族の名前は皆が付ける。これなら子供にいい名前だってね。分かった?もうお店に入ってもいい?」

そう言いながら雷は再び店のドアを開けて入っていった。


「ごめんなさい、友達がちょっと...」

「いいのよ。ところで、随分ご無沙汰じゃない?あたしのこと忘れてるんじゃないかって思ったわよ?」

「うん..色々あったから。久し振り、昂(こう)さん。えっと...実は、髪。初めてここに来たときのように戻したいんだけど、出来る?」

「...そう。覚悟が出来たのね?」

そう言って優しく微笑む。

「え?」

雷が聞き返すと昂は苦笑を漏らし、店の端の席へ皆を案内する。

「あたし、元貴族だったのよ。だから、小さいときのあなたを知ってた。凄く素直で、明るくて、お日様みたいだったなぁ。貴方のそういう人懐っこいところ、他の貴族は王族らしからぬとか言って陰で少し馬鹿にしている節があった。でも、あたしはそんな雷様は素敵だと思っていた。柔軟な考えが出来て、誰にでも優しくて。
...あたしは、貴族社会が嫌でここへ逃げたの。政略結婚させられそうになったから。貴方の、お兄さんとね。」

「兄上..と、ですか?」

「雷、知らなかったのか?お前の兄貴のことなんだろ?」

大地が聞くが、雷はふるふると首を振った。

「自由がある代わりに政治の情報が中々入ってこないんだ。」

「まあ、そうよね。あたしたちは、友人同士だった。そして、彼と婚約させられそうになったときにはあたしにも恋人がいたの。彼はそれを知っていたから、断ってくれるって言ってくれたんだけど、...父に私の恋人の存在がバレてね。その人、いつしか消えたの。未だに風の噂すらないわね...
たぶん、もう二度と逢えない。それを知った貴方のお兄さんが『逃げろ。』って言ってくれたの。
『私は実権があるようで、君も知っていると思うけど、実は皆無に等しい。だから君を守ることは出来ない。城下町に行けばきっと何とかなる。少しくらい逃げてもいいと思う。それは、きっと必要なことだ。...ドレスだけは着ていくなよ?じゃあ、元気で。』
そう言って悪戯っぽい笑顔を浮かべて彼が送り出してくれた。だからあたしはここにいる。ここで、笑っていられる。
貴方のお兄さんには感謝してるわ。
そして、流行病で倒れられたとき、あたしの元に手紙が届いた。自分はそう長くない。自分が亡くなったら弟が辛い思いをすると思う。弟は繊細だから耐えられないかもしれない。だから、もし、城下町に逃げてきたら時間をくれてやって欲しい。繊細だけど、強い、いつも光に包まれている子だから、と。
でも、本当にここに来たときは驚いちゃったわ。
それに、あたしの知っている優しい顔をしていなくて、全然余裕が無くて、たぶん、そのときは他人に優しくする余裕すらなかったんじゃないかな?
でも、良かった。こんなに貴方が心を開くことの出来る友達が出来たんでしょ?いいことよ?」

「そう、ですね。兄上には何でもお見通しだったんですね。...長い間ご迷惑をお掛けいたしました。」

「いえいえ。」

「あの、迷惑ついでにもうひとついいですか?」

「...何かしら?」

雷は昼間父に話したことを彼女にも話す。そして、自分が守れない間、この仲間たちをかくまって欲しいと。

「いいわよ。貴族たちはこんな素敵な城下町には来たがらないし。いらっしゃい。さて、と。ライさん、こっちよ。髪、直してあげるわ。皆さんは飲みながら待っててくださいな。

好きなもの注文してくださって結構ですよ。あたしの奢りです。」

そう言って彼女は立ち上がり、カウンターで従業員らしき人に声を掛け、雷を率いて店の奥へ向かって行った。


「ご注文は?」

雷たちが去って行った後、ちょっと厳つい感じがした店の人が声を掛けてくる。

「何がオススメですか?」

弾んだ声で炎狼が聞いてみると、

「ワイン...ですかね。少々きついですが。」

と言う答えをもらい、

「んじゃ、おれはそれ。」

「あ、じゃあ、わたしも。飛翔たちは?」

沙羅も嬉しそうに言う。

「私はアルコールは飲まないことにしているから遠慮させてもらうよ。」

「オレは、炎狼たちと同じでいいや。」

「俺は...飛翔と同じく。」

「それではそちらのお2人は、ジュースでよろしいですか?」

「お願いします。」

注文を取り終わった店員がカウンターに戻っていく。

「どうしたの、飛翔。お酒ダメなの?氷もいけそうだと思ったのに。」

「こいつはザルだぜ?酒豪で有名なウチのジジイが負けたくらいだもんな。」

「じゃあ何で酒を頼まなかったんだ?」

大地が聞くと、

「頭の回転が鈍るから。酔わなくてもやはりそういうのは体に出てくるからな。」

そう答える飛翔があまりにもらしいと皆は苦笑した。


少しして席に飲み物が運ばれて来る。

ルビーのような透き通った赤いワインに柑橘類のジュースだった。

「んじゃ、まあ。頂きます。」

そう言って炎狼がワインを口にしてむせた。大地も口を付けた途端顔を顰める。

「ちょ、マジこれキツイぜ?」

そう言って沙羅を振り返ると沙羅はグビグビと一気に飲み干して満足そうにうっとりとする。

(オイオイ...)

そんな沙羅を見て炎狼と大地は顔を引き攣らせていた。

「おいっしー!!凄く美味しいね、これ。...どうかした?」

不思議な物を見るような目で見られていることに気付いた沙羅が聞いてくるが、炎狼と大地は視線を外し、やはり顔を顰めながらワインをチビチビ飲み始めた。


少しして、雷たちが戻ってきた。

「お待たせ。」

「すっきりしたな。」

からかうように大地が声を掛ける。

「からかうなよ。でも、すっきりしたよ。これで、ワタシ自身ケジメがついた。」

「じゃあ、期待してるぜ?」

「ああ、任せてくれ。」

そう言った雷の表情には自信が表れていた。











桜風
05.11.27


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