雷の章 第8話
「さ〜て、ワタシの試練とやらは何かな?」 炎狼と大地の話は聞いた。2人とも自分の能力者としての力が必要だった。 炎狼は炎の制御。大地は地下迷宮でのトラップを見抜きつつの地を操る能力のバランスが試されたようだ。 それなら、自分も能力者としての力が必要となるはずだ。 だが、どういう感じで使わなくてはならなくなるのか見当がつかない。 「ワタシの力はカミナリだしね〜。...避雷針と戦うの?!て、んなワケないってね〜。」 と独り言を言いつつ奥へと足を進める。 突然、ランタンの炎が消えた。 「風もないのに?!」 雷はランタンに火をつけようとマッチを擦る。マッチの火は点いてもすぐに消える。 まるで、この部屋の闇が光の存在を許さないように。 「ど、どうしちゃったのよ?!ああ。こんな時、炎狼が居たらこのランタンに火をつけてもらえたのに!!」 (イヤだ、暗闇は怖い...助けて、誰か、兄上!!) 頭を抱えて蹲っている雷の元に人が近づいてきた。 助かる、そう思って顔を上げて雷は驚いた。 「あ、あんたは...」 「アタシ?アタシは雷よ。」 そう言ったこの人物は間違いなく、自分が毎朝鏡で見ている自分とそっくり、いや、自分自身だった。 「な、なんなの?」 「アタシは雷。アンタは此処で消えなさい。そして、光の中生活するのはこのアタシ。アンタはこのまま暗闇の中を生きなさい。今まで、アタシがそうだったようにね。」 そう言って笑う『雷』と名乗るこの者の笑顔に背筋が凍った。 深く、底のない湖のような絶望を連想させる。そんな笑顔。 雷は後ずさる。 「そう。いい子ね。アンタはそのままここに居るのね。じゃ、さよなら...さぁて。外の世界で何をしようかな。」 この寒気のする声を聞いて雷の脳裏に浮かんだのは城下町で自分を受け入れてくれた国の民。 自分の帰りを信じて待っている戦友たち。まだまだ共に戦った経験は浅いが、それでも信頼できる仲間たちだ。 立ち上がり、雷は 「待て!」 自分の姿をした者に声を掛けた。 「どうしたの?震えてるわよ?元、『雷』さん?」 振り返り、冷笑を浮かべるその人を雷は心底怖いと思った。 それでも、引けない。 もう、逃げるのはやめた。今度は、逃げていた自分を受け入れてくれていた人たちを何があっても守らなければいけない。 ただ、その想いだが雷を立ち上がらせた。 「あなたは..何?あなたは、自分のこ..とを『雷』と名乗っ、た。あなたは、誰!」 「分からない?本当に気が付かない??」 「ええ、分からない。だから、教えて。あなたは、何なの?!」 「そう。じゃあ、教えてあげましょう。アタシは、貴方よ。雷さま。アタシは貴方の心の闇の部分。あなたがずっと抱えて隠していた心の闇よ。」 その言葉を聞いて雷は驚愕した。 自分の抱えていた闇。それはこれほどまでに冷たく、畏怖を感じるまでのものなのか。 「うそよ...」 「嘘じゃないわ。ほら、あなたは闇を恐れている。認めようとしない。光に包まれている眩しいハズの自分にこんなものは無い?あってはいけない?」 嗤う自分の影に恐れ、雷は後ずさる。 (アタシのは、無理。自分の闇なんて、皆隠したいものじゃない。見たくないものじゃない。何で、アタシだけそんなものと話をしなきゃいけないの?なんでそんなもの、自覚しなきゃいけないの?!) 頭を抱えて蹲る雷を闇の雷はふん、と鼻で笑って出口に向かって去っていく。 ―――雷、人は必ず闇の部分を持っているんだ。光があれば影がある。これは当然のことなんだ。だから、それを受け入れられる大人になりなさい。 この国は『雷(かみなり)の国』と言われているね?もうひとつ、『光(ひかり)の国』とも言われることがあるんだ。さっきも言ったように、光があれば闇がある。だから、闇も分かってあげなさい。 光が強ければ強いほど、影も強くなる。影の強さは、光の強さでもあるんだよ。 忘れないで欲しい。光も闇も、全てはひとつなんだ。 数少ない幼い頃の兄との会話を思い出す。 光も闇も全てはひとつ。 それなら... 「...待ちなさい」 雷の声にゆっくりと闇の雷が振り返る。 「何?」 冷笑を浮かべる闇の雷を、雷はまっすぐ顔を向ける。 その雷の表情に闇の雷は怯んだ。 「あなた、ワタシの闇だと言ったわね?」 「ええ、何度も言わせないで。」 「じゃあ、帰ってきなさい。ワタシの中に。あなたは、間違いなく、ワタシよ。だから、ワタシの中に帰ってきなさい!」 そう言いながら、雷は闇の雷に近づく。 今度は闇の雷が恐れを抱いた。自分を受け入れるといった、その瞳に迷いが無い。後ずさりながら 「あ、あんた、アタシが怖くないの?!」 雷に聞く。 「正直怖い。でも、逃げないって決めた。約束した。だから、進む。きっとそんなワタシにはあんたが必要なのよ。」 そう言って微笑む雷。 そして、闇の雷に追いつき、抱き締める。 「帰ってきなさい。ワタシはあんたも受け入れる。だから、もう怯えないでよ」 雷の胸の中で闇の雷は涙を流し 「ありがとう。本当は凄く怖かった。寂しかった...羨ましかった...」 そう言って消えた。 雷もそのまま気を失った。 その寸前、何故かデコピンをされたような痛さがあった。
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桜風
05.12.25
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