|
「やっと、このときが来たわね」
「ええ。やっとです、久遠(くおん)様」
「皆を、集めないといけないわね」
「手配しておきます」
暗い部屋の中で2人の少女が微笑みあう。
目の前には丸い鏡があり、その中に映っているのは、1艘の船だ。
今まで6つの国を旅をしてきたその船が宇宙を奔っている。
2人は再び視線を鏡に戻す。
やっと待ちに待ったそのときが近づこうとしていた。
最後の国、時の国を目の前にして、皆は少なからず緊張していた。
「なあ、飛翔。兄貴たちいると思うか?」
炎狼が声を掛ける。
「いるだろう?そうでなかったら、他国の侵略に出てるってことだろうけど。そんな人数は割けないだろう」
「そうか?オレたちが戻れないから他国は手薄になっているって思われるんじゃないのか?」
「だが、負の感情。つまり他国への憎悪は減っているはずだ。実際、もう喧嘩をしないって取り決めているんだ。身内がこれ以上傷つかないんだ。少しは落ち着くだろうし、そうなった場合は魔族としてはあまり喜ばしいことではないだろう」
いつもは口数の少ない氷も会話に加わる。
「なら、余計に国を侵攻をして自分たちに憎悪の念を向けさせることをするんじゃないの?」
「確かに、自国が攻められれば負の感情が高まるだろう。でも、それが全て自分たちに向けられるんだ。どうなると思う?」
「全滅..?」
「たぶん、な。そうならなくてもそれなりの打撃は受けるはずだ。風真が言っていたが、魔族には人の住んでいる世界の空気はあまり得意ではないらしい。ただ、あの子は小さい頃からこちらにいるからもう順応したんだろうって」
「でも、炎狼の彼女さんがウチの国に来て炎を使ったら、それは炎の国も絡んでいるって勘違いされない?」
小首をかしげながら沙羅が問うと、
「そのための頭領の行動だ」
飛翔が答えた。
「オヤジ?」
「だろうな。頭領はただ物見遊山で他国を回っているわけではない。一応、全ての国と仮条約を結んで回っておられるだろう?」
「仮条約って?何で氷は知ってるんだ?」
「一応、ウチの国の国王に訪問の先触れを頼まれていたんだ。仮条約を結びに行きたい、と。内容は、七勇が戻るまでの間の戦争の凍結」
「はあ?!そんなことをしてたんだ、オヤジ」
心底驚き、炎狼が声をあげる。
「頭領は先見の明をお持ちだからな」
飛翔は苦笑し、少し悔しそうな表情をしている炎狼を見た。
「さて、そろそろ時の国の領域に入るんじゃないのか?」
外を眺めていた大地が声を掛けた。
皆が窓の外を覗くが何の反応もない。
「気付いてないのかな?」
そう呟く沙羅に
「まさか!そんなはずないでしょ?」
雷が答えた。
「まあ、何も言われないんだし。お邪魔させてもらおう」
飛翔はそう言って今の状況を気にも留めない。
「飛翔って意外と大雑把?」
「意外でもなんでもねぇよ...」
雷の呟きに炎狼は溜息混じりにそう答えた。
皆の同情の目が炎狼に集まる。
「つか、時の国ってどんなところだ?」
そんな皆の視線が居た堪れなかったからか、炎狼は話を変えた。
「女王制らしいな。能力者も圧倒的に女性が多い。能力は、余り知られていないから分からないのだが、どうやら私たちとは質が違うみたいだ。だから、時の国の能力者を『魔女』と言って畏れている者も少なくない。特産は、銀細工。手先の器用な人が多いんだろう。
街には工房が多く存在し、宗教色も強い。信仰心の篤い者が多く、また、女王は神と直接会話をして信託を得るといわれている。神界に最も近い国といわれている由来はそこだろうな。女王の夫は、国で2番目の地位らしいが、同じところに法王がいるそうだな。女王の夫は殆ど政治に参加できない。政治は教会が行うが、女王を蔑ろにすることはない。何でも、女王=国らしいからな。
王族の女性には希に『ディース』と呼ばれるものがつくらしい。それが何を指しているのかは分からないが、守護するものだと聞くんだって」
飛翔が本を読みながらそう答えた。
「何で知ってるんだ?」
「これに書いてあった」
そう言って掲げているそれは、風の国の古代文字で書かれた文献だ。
「何、それ?」
「...ウチの庁舎の書庫にあったのを借りてきた」
「それって違反だろ?」
「まあ、な。でも、国に帰っても軍を辞めるんだし。今のうちに読める本は読んでおきたいだろ?」
そういって飛翔はまた本に視線を落とした。
「なあ、それって時の国のことが書いてあるのか?」
「各国のことだ」
「冒険記?その作者が想像して書いたとか」
「いや、どうだろう...伝聞みたいなのでもあるし。実際、今まで訪れた国の記述に大きな誤りがなかったからな」
「んじゃ、飛翔の仮説があってるってことか?」
炎狼が確認するように聞く。
「仮説?」
「ああ、コイツ昔から言ってるんだよ。『七国は元はひとつの惑星だった』って。だから、行き来も出来てお互いの国の文化の交流もあったはずだってね。」
炎狼の言葉に皆は眉を寄せて飛翔を見る。
突拍子もない説だ。
「根拠は?」
興味を示し、氷が聞く。
「古代文字。あと、今私たちが話している言語」
「そういえば...」
飛翔の答えに雷が納得する。
「そうだな。オレたちの言葉って皆同じだ」
「古代文字も、飛翔ってウチのも読めたもんね...」
沙羅も納得する。
「まあ、そういうコトだ。炎の古代文字を見て何となくそう思っていたんだけど、森の古代文字が読めたときには結構大きな確信に変わったよ。事実ではないかもしれないけどな。
国との戦争がなかった時代に、お互いの国を行き来しやすかったために文化の交流があったとか、そういう可能性だってあるから」
「飛翔って、そんなことを考えながら生活してるの?」
「そうだけど?」
「頭、疲れない?」
「好きでやってる事だから」
何の警告もないからそのまま国に入って行ったのだが、突然アラームが鳴り始めた。
それと同時に、船が大きく揺れた。
「やっぱりもっと様子を見てれば良かったんじゃねぇかよ!」
飛翔に炎狼が毒づいた。
|