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3人は移動して飛翔の部屋に招かれた。
「普通さ。こんな夜中に自分の部屋に男を入れるか?」
大地が言う。
「まあ、大地の言うことは一般常識だが。でも、今これから何かあるというコトなのか?まあ。この街の中は久遠様の結界が効いているようだから、風も私の願いを聞いてくれるし。...外にたたき出してやるから安心しろ?」
お茶の支度をしながら笑って飛翔が言う。
「つまらん...」
大地がそういう。
「大地は、飛翔に何を求めてるんだ?」
大地の様子を見ていた氷が首を傾げる。
「いや、何か面白い反応」
「空也兄様と炎狼も似たようなことをして空振りに終わることが多いけどな」
飛翔のその言葉に大地は半眼になる。
炎狼と一緒か...
「そういえば、飛翔は兄ちゃんと話すこととかないのか?」
「別に。これといってないよ。それこそ、何を話せばいいか分からないし。国のことを聞かれても、言えない事が多いからな」
「あ...」
氷と大地は口を噤む。
あれはずいぶん前のことのようだが、意外と時間が経っていない。
それでも飛翔は自分たちにそれを思い出させることはなかった。
大地は思わず傍にいた飛翔の頭にぽんぽんと優しく手を置く。
眉間に皺を寄せて何事だという顔で飛翔が大地を見る。
「何だ...?」
「いや、頭の形がよさそうだから」
そう言う大地に氷が思わず吹き出した。
確かに、飛翔に「何だか、けなげで可愛かったから」と言えば、露骨にイヤな顔をされるだろう。
だからと言って、誤魔化すための言い訳にそれは無いと思う。
「氷?」
「いや、すまない。大地って本当に『兄』だな」
「そういえば。私たちの中で兄姉がいないのって大地だけだな。沙羅と炎狼は一人っ子だし」
お茶を淹れ終わって席に着いた飛翔に「そういえば、そうだな」と大地が同意をし、出されたお茶を一口飲む。
「結構あっという間だったな」
「まあ、そうだな。この時代にすべての国を旅するなんてありえない話だったし」
氷が応える。
「入り口とは言え、神界に行くことだって中々ない経験だろう?でも、まあ。確かにあっという間だったな」
そう言って飛翔は寂しそうな顔をする。
「どうした、浮かない顔をして」
「ああ。魔族のことの決着が付いた後は、どうなるのかなって思って。今は仮条約。では、その後は何か策があるのだろうか...まあ、私が気を揉んでも仕方ないことだが。施政者ではないから」
民を守りたくて軍に入った。それは国全てのものを偽って。でも、次に国に帰ったら飛翔はもう軍には戻れない。
どんなに守りたくても守れない。
「って、いや。大丈夫。気にしないでくれ。まだ終わったわけじゃないし。目の前のことを考えないと足元を掬われかねない」
(大地が飛翔の頭に手を伸ばしたときの気持ちがよく分かった...)
氷はそう思った。そして、今までであった飛翔の身内が何故あんなにも飛翔を可愛がっているかも分かった気がした。
目の前の大地はぐいっとお茶を飲み干す。
「ごっそさん」
氷も残りのお茶を飲み、カップを置く。
「こちそうさま。美味しかったよ」
そう言って2人は立ち上がる。
「もう、いいのか?」
「ん、寝るわ」
大地がそう言って部屋を出ようとすると
「大地。可能なら明日の朝は早く起きたらいいよ」
飛翔に言われて足を止める。
「何で?」
「多分、朝霧が出る。結構凄いと思うよ。この城は山の上に在るから屋上から見たら海のように見えるよ」
「雲海か」
氷が呟く。
「雲海...?そうかー。ま、起きられたらな」
そう言って出て行った。
「...空也さんや凪さんでなくても妹バカになるな、あれだと」
自室に帰るべく廊下を歩いていた大地が呟き、氷はまたしても吹き出した。
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