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「俺を足蹴にするとはいい度胸だな、風の勇者!」
その声に皆は驚き、注目する。
そんな中、飛翔は俯いて肩を震わせていたが、突っ込んできた兄に
「いい加減!」
鳩尾にこぶしを入れ、
「目を覚ませ!!」
体を『く』の字に曲げて痛みを堪えている兄に膝で顎を蹴り上げ、
「馬鹿兄貴が!!!」
回し蹴りで窓の外へ蹴飛ばした。
「く、空也さん?!」
爛が驚き、窓辺に走っていこうとしたが、炎狼に腕を掴まれ
「兄貴なら大丈夫だって」
と根拠のないことを、とてもステキな笑顔で自信たっぷりに言われて何となく動きづらくなった。
そして、炎狼の言ったとおりに窓の外から浮遊した空也が戻ってきて
「飛翔!大好きなお兄ちゃんを足蹴にするとは何たることだ!!」
飛翔に向かってズカズカ歩いていく。
さっき似たようなことを言っていたが、そのときとは雰囲気も表情も全然違う。
「誰が『大好きなお兄ちゃん』ですか!?だから父様も精神修行をするように常日頃から空也兄様に仰られていたんですよ!!あー!もう!!恥かしい!!!」
「このステキなお兄ちゃんの何処が恥かしいんだ?!」
「自分で『ステキ』とか言うところです!」
そんな今まで見たことの無い飛翔に皆は唖然とし、ただ1人見慣れている炎狼が苦笑をしながら
「おい、皆驚いてるぜ」
飛翔たちの兄妹喧嘩を止めた。
「あ。ああ、すまない」
「ん?誰だ、この人たちは?」
「兄様には関係ありません!」
「何を言う!お兄ちゃんが末っ子の交友関係を知らなくてどうする!?」
「どうもしないでしょうが!!」
「兄貴。こっちが大地。そこにいるのが雷。沙羅と、氷。そして、最後はアンタか?霞」
口で止めても仕方が無いと悟った炎狼が仲間を紹介する。
そして、最後の霞は
「ええ、改めまして。時の勇者、霞です。以後、お見知りおきを」
と優雅に礼をした。
ふと、神気を感じた。
七勇は皆反射的に膝をつき、その神気の方に頭を垂れる。
檀上にいた久遠も急いで壇から降り、神気に向かって礼を取った。
そこに現れたのは、黒い髪をした男性だった。右目は銀色で左目は黒い瞳を持っている。
彼は霞の前に立ち、
「霞」
と名前を呼んだ。
「はい、ヴィーク様」
「よく守り抜いたな。これが、君の神器だ」
そう言った彼の目の前に大きな鎌が浮かび上がる。
霞は膝をついたまま両手を挙げてそれを受け取った。
「君は額だよ。『時の悠久、我が魂に』だ。ついでに、それで空を切って『時竜(ときりゅう)、セツナ』って呼べば君の竜がこちら側に来れるようになる。早めに呼んでおいてあげなさい。きっと向こうで寂しい思いをしている」
「あの、わたくしの試練は...?」
「一番大変なことをしてもらったじゃないか。こちらの動きを悟られず、且つ、君のエンブレムを仲間の元へ届けて助け、そして、魔族による束縛を放たせた。十分試練にたるものだと、僕は思うが?」
そして、向き直り自分の後ろで傅いている久遠に向かって
「時世(ときよ)も。よく霞を助けてくれたね、ありがとう。この国だからこそここまでもたせることが出来たんだ。あと少し。君の妹たちが何とかするはずだから、それまで頑張ってくれよ」
「はい。御心のままに」
その言葉を聞いて彼はにこりと笑い、すっと消えた。
張り詰めていた空気が一気に緩む。
兵士の中にはむせび泣くものさえも居た。
「今のって...」
「時の神、ヴィーク様よ」
「え?!だって、ここ人界じゃない」
「それが、ここが神界に近いと言われるところなんだろう。でも、珍しいみたいだな」
「一応、神の言葉が聞けるのは女王と法王、そして、勇者のみって言われているから。彼女たちは絶対に聞けるはずがなかったのよ」
泣いている兵士たちをちらりと見て、静かに霞が答えた。
「とにかく、皆さま。今日はこちらでお休みください」
そう言って久遠は兵士たちに指示を出し、その場を指揮し始めた。
「そういえば、飛翔。俺ってアニキたちと一緒にここに来たはずなんだけど...?」
皆の間に一瞬緊張が走る。
「父様と、翼兄様は先にお帰りになりましたよ」
飛翔の答えに
「そっかー。薄情だな」
「空也兄様がのんびりされていたのではありませんか?」
「う、反論できねぇ」
何とか核心を突かずに話を済ませることが出来たことに皆は安堵した。
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