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その夜、皆は食事を共にした。
連れてこられた能力者の中には国の最高位の人間との食事に戸惑うものたちもいたが、とにかく、空腹には勝てず食事をしていた。
「久遠様。ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
飛翔が口を開く。
「ええ、どうぞ?」
「あの謁見の間の天井の。あれはもっと早くに破壊することは出来なかったのでしょうか?」
「そうですね、破壊のみでしたら勿論可能でしたよ。でも、それを持たせることに不安があったのです」
「『持たせること』?」
雷が怪訝そうな顔をする。
「ええ、破壊をすれば魔族とて気付きます。そうなれば全ての攻撃がこの城に向かいます。この城はこの国の要。ここが落とされては何も守れません」
「では、久遠様はこの城を守るために他国への侵攻を黙認されていた、と?」
少し剣を孕んだ口調で沙羅が尋ねる。
「ええ、そうです。全てが揃わなければ全てが滅んでしまいます。それだけは避けなければならなかったのです」
「そんな!だって、飛翔のお父さんたちは!」
「沙羅!!」
気が高まった沙羅を飛翔は強い口調で窘める。
「大変失礼致しました。...おれからも聞いてもいいですか?」
沙羅と飛翔のやり取りを詫びた後、炎狼も久遠に声を掛ける。
「ええ、勿論です」
「ありがとうございます。先ほど、久遠様は『時世』と呼ばれていらっしゃいました、よね?」
「ええ、そうですね。『時世』は親が私につけた私の名です。そして、『久遠』というのは、女王の名です。この国では私のことを『女王』と呼ぶ者はいません。
つまり、皆さまが『女王』と認識している呼び方が『久遠』となっているのです。そして、『久遠』は世襲制です。長姫が『久遠』となり、それより下は、聖職者の道を選ぶことが多いですね。力が強ければ、法王にもなります」
「下克上、というか、下の姫が上を陥れるとかそういうのはなかったのですか?」
自国を思い出し、氷が尋ねると、
「長い歴史の中で何度かあったようですが、その際、ヴィーク様が別の者に神託を下してその騒乱を納めるようにされていたようです。そして、それを防ぐために姫が生まれたら子を産むのをやめるのが代々の慣習でした。
妊娠している間は女王の執務に支障が生じますしね。だから、私たち姉妹は珍しい方なのですよ」
そう言って久遠は霞を見て微笑む。
「わたくしは、ヴィーク様の神託が下されたの。次子も姫だが、今の時代に必要だと。それで、わたくしはここにいるのです」
「霞は、本来持っている能力の大きさからいえば私以上なので、法王に就くべきところなのですが、これも神託で大司祭としています。国から離れることも多くなるだろうから、と」
「ところで、話は変わりますが」
食事を終えた飛翔はナイフとフォークを置いて口を開く。
「ええ、何でしょう?」
「先ほど、魔族の攻撃がこちらに向くと仰っておられましたよね?では、今魔族の拠点は何処になっているのでしょう?」
「この城の南西にある森の奥です。時空の歪が出来やすい空間があるのですが、そこに、魔族たちは独自の空間を作り出し、生活しています。この城からは見えないのですが、魔族からはこちらの様子が把握できるようです」
「なるほど」と呟きながら飛翔は顎に手を当て、思案をし始めた。
「飛翔、ここで考えるのはやめなさい。食事中の皆さまに失礼だろ」
空也にそう言われて飛翔は、「ああ、そう言えばそうですね」と返事をして考えるのをやめた。
「兄貴が初めて兄貴だ...」
呆然と呟く炎狼に空也は苦笑をしながら「うるさい」と軽く炎狼を睨んだ。
「どうしてだ!俺は国では上位の能力者だぞ!!」
食事を終えた後、明日以降の作戦を話し合っている席で空也は声を荒げる。飛翔の作戦に異を唱えたのだ。
だが、飛翔はそんな兄をじっと見つめて口を開いた。
「それなら、尚更この国に恩を返してください」
「恩?」
「私たちが動けば、この城が狙われます。だから、少しでも多くの戦力を残しておかなければならないのです。兄様はこの国の空気に慣れています。だから...それに大人数で行っても統制は取れません。作戦を指揮しにくくなります」
飛翔にそう言われて空也は黙り込んだ。
「くそッ!!」と壁を殴りつけ部屋を乱暴に出て行った。
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