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「良かったの?久しぶりに会ったお兄様でしょ?」
霞に言われて飛翔は苦笑をする。
「1人でも多く残らなければいけないのは、今の状況だと当然のことだろ。それに、兄は家に帰らないと。母と姉が心配してるからね」
「炎勇さまと、翼さまのことは...」
悲痛そうな顔をして何か言おうとしている霞に飛翔は敢えて話題を変える。
「それで、地図は...?」
「え、ええ。これよ」
そういってテーブルに広げる。
「ここが城。街を抜けて南西にある森に入るとその先に魔族が生息している空間があるわ」
「何故街まで出てこないんだ?」
氷に聞かれると
「ほら、この国って神気が強いでしょ?魔族としても生活しにくいみたい。でも...」
「今、この国の空気が魔族の住みやすいものに変わりつつあるんだね?」
沈んだ表情の霞に雷が問う。
「ええ、こっちに来て皆も気付いたと思うけど。そろそろ彼らもこちら側に出て来る事ができるようになるわ」
「ああ、だから飛翔に風が味方しなかったのか」
「たぶん、そういうコトだな」
「え?!じゃあ、今までわたしたちの味方をしてくれていた自然が敵になるってこと?」
沙羅が驚く。
沙羅は精霊に力を借りることがある。それを頼りにしている節もあるため、心許なく感じる。
「そうね。でも、今日謁見の間にあったものを壊したから。あれは魔族の力自体を増幅させることが出来るものなの」
「じゃあ、その力は弱まったと考えていいんだな?」
腕組みをして聞いていた大地が聞くと
「ええ、一応。理屈の上ではそうね。でも、今まで少しずつ蓄積してきた彼らの力を一瞬で無くすことは出来ないと思うし、彼らの領域に行くのだから私たちはやり辛いところがあると思うわ」
霞はそう答えた。
「この森の構造は?」
「ごめんなさい。そこへは本来立ち入り禁止なの」
「時空の歪がどうこうって理由で、か...どうする?」
氷が飛翔の意見を求める。
先が分からない上、その先が敵の懐となる。
「霞は、時空の歪が感知できるのか?」
「ええ。可能よ」
それを聞いて飛翔は俯いて目を瞑り再び考える。
皆が飛翔の考えを待っている間、少しして霞が
「もう1人いれば、とか思ったのかしら?」
と聞くと、俯いて目を閉じたまま飛翔が応える。
「ああ、それならいいかもしれないと思った。が、私たちの中には...」
「いるわよ」
霞の返答に飛翔は驚き顔を上げる。
「わたくしのディース。ほら、唯とか」
「え?!彼女がディースなの?」
沙羅が驚くと、霞は頷き、
「『ディース、唯』!」
そう言うと霞の傍にあの唯が現れた。
「お呼びでしょうか、霞様」
「ええ、皆に紹介しておこうかと思って。この先、あなたたちの力が必要になるわ」
霞の言葉に唯は恭しく礼を取り
「私どもの力でよろしければ喜んで。改めまして。私は霞様のディースの1人、雷の属性を持っております唯、と申します。以後お見知りおきを」
皆にも自己紹介をする。
「雷の属性って...」
雷が驚き、呟く。
「ディースには8つの属性があるの。わたくしたちと同じく炎から時、そして、無。わたくしたちは必ず何らかの属性を持っているけど、そのどれにも当てはまらない者がいるの。
わたくしのディースは全員属性を持っているけど、久遠様のディースは2人とも属性を持っていないわ」
「ディースって、つまり何?」
雷が聞くと
「私どもは、主人を守るためにある存在です。その方が生まれたときに、その魂に呼ばれ、こちらに参るのです。ですから、魂の強さによってディースがつくかどうかも決まってますし、人数も変わります。
勿論、その魂と波長が合わないと呼ばれることがないので、どんなに能力が高くてもディースがつかないときがありますし、多くつくときがあります。霞様は全ての条件が揃っておいででした。ですから、属性を持っている7人が霞様にお仕えしております」
「7人?!全部の属性って炎から時までか?」
炎狼は眉間に皺を寄せて霞を見る。
「一応、ね。でも、力は弱いわよ。そうね、一般の能力者よりは強いかな。でも、わたくしたち勇者と呼ばれる者よりも力は弱いし、神竜よりも力は小さいかしら?」
「誰にでもつけるの?その、魂に呼ばれたら」
「ええ、でも、今まで王族、しかも女性以外についたことは無いはずです」
「記憶は残っているのか?その..前の主人たちの」
「ありますが、今は思い出せません。誰かに仕えている間はそれが思い出せないようになっているのです。主人を守るのに支障をきたす恐れがあるので」
皆の疑問に落ち着いた口調で唯が答える。
「で、飛翔。何かいい案が浮かんだか?」
「いいや。ただ、ひとつ保険が増えたって感じかな。一晩考えてみるよ。ありがとう、霞。参考になった」
そう言って飛翔は部屋を出た。
とりあえず今日の話し合いはこれでお終いになったということで皆も解散する。
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