時の章 第7話





「あら、空也さん」

飛翔と喧嘩をして部屋を飛び出した空也は廊下で久遠に会った。

「あ、ああ。久遠様か」

「様、っていいですよ。この国の方でもないですし、何だか、落ち着きません」

「じゃあ、久遠『さん』とさせてもらうな。流石に敬称略だとこの国を追い出されかねん」

空也の言葉に久遠はくすくすと笑う。そして、改めて空也を見て首を傾げ、

「何か、あったんですか?」

と聞いた。

「まあ、な。久しぶりの兄妹喧嘩をしてしまったところなんだ。結局いつも俺は飛翔の力になってやれない」

そう言って空也は寂しそうに笑う。

「少し、外の空気を吸いませんか?」

そういって傍のベランダへのガラス扉を開ける。

一緒に居たディースにはそこに控えるように指示を出し、久遠は空也を連れてベランダに出た。

「妹がしっかりしていると寂しいものですね」

「ああ、そうだな。...いや、違うぞ!飛翔は弟だ。そう、弟!!」

慌てる空也に、久遠はまた笑う。

「皆さん、もうご存知のようですよ。飛翔さんとお風呂でばったり出会ってしまった方がいらっしゃるのですから」

「それは何処の馬の骨だ!?」

久遠の肩をガシッと掴み、空也が問い詰める。

久遠は驚いてしばらく目を丸くするだけだったが、苦笑をして、

「沙羅さん、でも『馬の骨』ですか?」

と答える。

「え、あー...居たね、女の子。いやはや...」

決まりが悪そうに空也は久遠の肩から手を離す。

「悪い、痛かったよな」

「ええ、少し」

にこりと笑う久遠に、空也は胸が痛んだ。

「あのさ。久遠さんって強いよな」

「はい?」

「ほら、国を背負ってるだろ?だから、その...俺は、ただの一軍人だ。飛翔と変わらない。ただ、少し早く軍に入ったからあいつよりも上の役についていて、結局簡単に追いつかれるんだ。
飛翔が俺に並ぶのがイヤだって言ってるんじゃない。ただ、俺がアイツにしてやれることが少ない気がするんだ...」

「国を背負ってるのは、生まれたときに決まったことで、それに対して私は何の努力もしておりませんよ。ただ、周りの者たちが私を支えてくれているのです。勿論、霞も。
私があの子にしてあげれることなんて本当に少ないんです。私は誰かの力を借りないと、動けないから。でも、空也さん。空也さんは目に見えるものを求めていらっしゃるのですか?」

久遠にまっすぐ見つめられ、そう問われて空也は居心地が悪い。

「空也さん。人を支えるってとても大変なことです。でも、気負うことはないものだと、私は思っています。自分が大切に思っている人と安らげる場所、時間を共有できるその事実が、その人を支えているということになりませんか?
私見ですけど、飛翔さんは空也さんといるととても楽そうです。そういう人が傍にいるって言うのは、とても幸せなことですよ」

「やっぱり久遠さんって凄いな」

嬉しそうに笑って空を見上げる。

故郷と何も変わらない夜空だった。

隣で久遠は少し顔を紅くして、一緒に空を見上げていた。







桜風
08.4.6


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