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後方が騒がしくなる。
振り返ると従弟の炎狼が仲間と共に歩いていた。
「いた、兄貴!」
そう言って足早に近づいてくる。
「どうしたんだ。話は終わったのか?」
「結局決めらんないから解散だって。まあ、難しいのは分かるけど。口に出してみればいいのにな」
苦笑しながら炎狼が答えた。
「まあ、飛翔もそういうのが苦手だから。で、それは?」
炎狼が手に持っている瓶を見て聞く。
「あ、これは雷が作ったワイン。美味いんだ。一緒に飲まね?」
「凄いな、一個人が作れるものなのか?」
雷に聞くと照れくさそうに笑っていた。
「で、酒を飲むメンバーはこれだけか?大地と氷は?」
「大地は、あんまり好きじゃないんだって。氷は飲めないって言ってたな」
「そうか。2人とも飲めそうなのにな。じゃあ、場所を移すか。久遠さんと霞ちゃんは?」
「私たちは遠慮します」
空也はその返事を聞いて「了解」と手を軽く上げて炎狼たちを引き連れて去っていった。
「不思議な方ですね」
霞と一緒に居た唯が呟く。
「空也さん?そうね。操られていたときもわたくしたちに優しく接してくださって。いつも気にかけてくださってたものね」
「それが、空也さんの魂のあり方なのかもしれないわね。あの人の性質は『何かを守る』なんだと、私は感じるわ」
部屋を移って炎狼たちは酒盛りを始めた。
メンバーは空也・炎狼・爛・雷・沙羅だ。爛は半ば強引に連れてこられた。
炎狼たちに此処までの道のりを聞いて空也と爛は感嘆の溜息を吐く。
「何だ、何だ?俺、全然知らなかったぞ?」
「ま、知らない人間の方が多いって」
「しかし、ここにいるのは俺と爛ちゃん以外は王子と姫...杯交わしていいのか?」
からかうように空也がそう言うと、
「いつもおれと杯交わしてるくせに」
炎狼は笑いながら言葉を返す。
そんな2人の様子を見ていた沙羅が口を開く。
「そういえば、驚きました。飛翔が口喧嘩するなんて。炎狼と言い合いをしているのは何度か見たのですが。大体そういう時って炎狼だけが怒っているというか...」
「悪かったな」
「ん?そうか?家にいるときは時々ああだったけどな?」
炎狼に同意を求めるように空也が言う。
「まあね。でも、兄貴とだけだよ。凪姉さんが言ってたよ。
『空也ちゃんは昔から飛翔ちゃんに懐かれていて羨ましい。大抵のことに要領はよくないのに。飛翔ちゃんが小さかったとき、いつも空也ちゃんの後ろをてとてとついて歩いてたのよ?悔しいったらありゃしない!!』
って。伯父上も伯母上も兄さんもそれを聞いて頷いてたよ。
でも、そうなんだよな。ガキのときから遊んでくれたのは兄貴で、兄さんとか姉さんは遊んでもらった記憶があんまりないんだ。木登りの仕方を教えてくれたのも、山に入って山菜取りとかしたのも兄貴とだし。
おれ、兄さんを酒に誘えないけど、兄貴は誘う!」
「実際、今そうですものね」
苦笑しながら爛がそう言った。
「爛さんは、飛翔たち兄弟と前から仲良かったんですか?」
「そうですね、炎にいらしたときにはよくお声を掛けていただきました。一緒に何度かお出かけさせていただいたこともありますよ」
「まあ、爛ちゃんも従妹みたいな感覚だったしな」
そう言いながら空也は同意を求めるように爛を見る。
「いいなぁ。ウチってそういう繋がりがないから」
雷がそういう。
「家族は?」
空也が聞くと、苦笑しながら
「父と、腹違いの姉が。兄は流行り病で亡くなりましたし、母は毒殺されました。って言っても毒殺って本当はどうかは知らないんですけどね」
と雷が答えた。
「お前、実はハードな世界に生きてたんだな」
炎狼が呆然と呟く。
「王家ってそういうものだと思っていたけど...炎狼はそうでもなかったようだよね」
「だよねー。まあ、わたしのところもそういうのってないみたい。知らないだけかもしれないけど。私は父のみです。母は体が弱かったのでわたしを生んで間もなく亡くなったそうです」
「そうか。母親ってのに会いたくなったらウチに来ればいいよ。お袋が大喜びだ」
「実際、おれたちが行ったとき大喜びだったし、『お母さんって呼んでもいいわよ』、とか言ってたぜ」
「やっぱりそうか」
そう言って空也は笑う。
自分たちに冷たい瞳を向けていた数時間前までの空也の姿は幻だったかのように温かい笑みを浮かべていた。
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