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依然として氷の体はこおり漬けとなっている。
「ねえ、お兄さん。早くしないと国も、仲間もやられちゃうよ?」
のんびりと腕を頭の後ろで組んだ少年がそう声を掛けた。
(言われなくても分かってる!)
焦りと苛立ちが募る。
それでも、こおりを溶かすことが出来ない。
(俺は水の勇者だ。何でこいつらは俺に従わないんだ!!)
いつもなら簡単に水をこおりに、こおりを水に帰ることが出来る。
それなのに、一番大事なときにそれが出来ない自分が腹立たしい。
映像に自分の家が映った。
沙羅と雷が守ってくれている。
幼い自分は追っ手から逃げるのに川に落ちて奇跡的に助かった。そんな自分を拾ってくれたのが姉、氷菜だ。
氷菜の両親には馴染めなかったがいつも姉が守ってくれた。
自分も姉を守りたくて軍に入った。
出自がばれてしまい、玉座を勧められた。でも、断った。
姉の傍にいてやりたいと思ったから。
姉は幼い頃は目が見えていた。
しかし、4年前、まだ残っていた前王の側近が今王への復讐のためにテロを起こした。
そこで姉とその両親が巻き込まれた。
姉は両親と光を失った。
そのとき、必ず姉は自分が守ると決めた。
それなのに、今の自分はただこおり漬けにされて魔族に攻められている様子をただじっと見ているしかない。
子供の頃と変わらない。
守りたいと思っているものは自分以外の誰かに守ってもらっている。
ふと、飛翔の映像が見えた。
兄だと言った魔族の指揮官と剣を交えている。
迷いの無い目で、自分の守りたいものを守るために剣を振るう。
不思議に思う。何故迷いを見せないのか。
彼女には迷いが無いのか。怖いものは無いのか。
自分の力、能力。
飛翔の動きを見て、氷は違和感に気付く。
初めて近くで見た飛翔の上空での戦いだが、自由に飛んでいるようでそうではない。周りを見ながら動いている。
昨晩聞いた。飛翔は風を操っているわけではない。読んでいる、と。
恐らく、飛翔の兄は風を操っているのだろう。しかし、読んでいるだけのはずの飛翔よりも動きが危ういのは兄の、魔族の指揮官だ。
飛翔は兄の風は大雑把な風だと言っていたが、それでも自分の意思の籠っている風よりも自由に動いている風の方が安定していることに驚く。
「あの風の勇者さんは凄いね。風に愛されてるみたいだ。風の勇者さんは風を尊敬しているし、それに風が応えている。能力者であんな人少ないよね。皆自分の力を驕っているよ。人は自然に勝てないって言うのにね」
何だかわざとらしく試練を出した少年が言ったが、ヒントになった。いや、寧ろ答えを貰ったと言っても過言ではない。
自分は自分の力を恐れていた。それなのに、能力者だということで驕っていた。
飛翔は風を使った後は必ず敬意を払うと言っていた。つまりは、そういうことだ。
(頼む、俺に力を貸してくれ。俺に、守らせてくれ)
心から願う。すると、少しずつだが、こおりの中で動けるようになってきた。こおりが水に変わってきたのだ。
内側こおりがある程度溶けると氷は内側から外に向かって氷柱を作る。
そして、自分の自由を奪っていたこおりを壊した。
「おめでとう、お兄さん。簡単なはずだったんだけどね、この試練は」
少年が言った。
エンブレムが自分の元へ戻ってきた。
氷は急いで洞窟の外へ出た。
「お兄さん。お兄さんは左胸にそれを当てて『水の優しさ、我が魂に』だよ」
少年が教えてくれた。
そのとおりにエンブレムを左胸に当てて
「『水の優しさ、我が魂に』」
と言うと神気を纏う。
武器はどうやら槍のようだ。
<氷様>
頭に直接声が響く。
目の前の少年とは違う声だ。
「誰、だ?」
<私は貴方の竜です。どうか召喚してください>
「どうすればいいんだ?」
<私の名は、水竜カハクです>
「水竜、カハク!」
名を呼びながら体が動き、槍を地面に突き立てた。
そこから氷山が浮かび上がってくる。
それが割れたと思うとそこには大きな竜が居た。
「カハク、か?」
<はい。街まで急ぎましょう。私の背に乗ってください>
氷はカハクに近づき、背に乗ろうとして足を止めた。
「すまないが、少し待っていてくれ」
そう告げて少年に近づいた。
「早く行かないと、お兄さん」
「スノウ、だよな?変わらないんだな。精霊なのか?」
少年は目を見開いて驚いた。
「分かってたの?」
「いや、初めは覚えていなかった。子供の時のことだし、顔が思い出せないで居たから。でも、思い出せた。子供のときも、今も、世話を掛けてすまない。ありがとう」
くしゃりとスノウの頭を撫でる。
スノウは目を赤くして、
「早く行けよ。君は守らなきゃいけないものがたくさんあるんだろ?」
「ああ、スノウのお陰で生き延びることが出来た。スノウのお陰で、やっと守れる力を持てた。俺は、この国を守る。だから、安心して過ごしてくれ。この戦いが終わったら、また来るよ」
「ボクは、もうそろそろ眠るよ。手の掛かる友人が居たけど、でも、もう心配要らないから。これでゆっくり出来る」
そう言って背を向けて洞窟に向かって歩き始めた。
「そうか。でも、終わったらまた来るから。ちゃんとお前には報告しないとな。ありがとう、スノウ」
そう言って氷はカハクに乗って街に向かって行った。
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