水の章 第11話





氷は街に向かった。

街外れは飛翔たちがいるから大丈夫だが、街中が心許ない。

街に向かっていきながら仲間の姿を目にする。

空を飛ぶ水竜に気付いた皆が、それぞれ合図を送ってくる。

沙羅は大きく手を振り、雷は人差し指と親指を立ててバン、と撃ったまねをしてウィンクをする。

大地は拳を少し掲げ、炎狼は軽く手を上げた。

上空で飛翔とすれ違う時、ちらりと目があった。ふっと笑った飛翔は再び鋭い視線を敵に向ける。

少し飛んでいると魔族の群れが氷の前に立ちはだかる。

急いでいるのに、と思いながら氷は構えたが、

「カハク、上昇しろ!耐えろよ!!」

飛翔の声がした。

<氷様、しっかり掴まっていてください>

カハクにそう言われたかと思うと地上がどんどん遠ざかる。

すぐ下で強い風が吹きぬけた。カハクが大きく揺れるが何とか高度を保った。

飛翔の放った矢によって、目の前に立ちふさがっていた魔族が散っていく。

「翔けぬけろ、カハク!」

兄の攻撃を受け止めながら飛翔はカハクにそう言った。

カハクは飛翔の矢の軌道上に出来た空間を通って街に向かう。


街は魔族に囲まれていた。

幸い、比較的多くの能力者のいるこの王都はその能力者たちが作り出したこおりの壁で覆われて守られていた。

しかし、その崩壊も時間の問題となっている。

突然轟音が鳴った。

目の前に大きな生き物が現れた。

見たことは無い炎の巨人。でも、この感覚は知っている。

召喚獣だ。

恐らく、全ての国の能力者が操られているはずだ。水使いも、雷を使う少年も見た。召喚の能力を持つ者が向こうに居てもおかしくない。

「カハク、あれと戦えるか?」

<可能と思いますが、自信はありません。リョクなら可能と思われます。援護、頼んでみますか?>

「また戻るのか?時間のロスが勿体ないな...」

<いえ、戻らなくとも話は出来ます>

「そうなのか?...判断はお前に任せる。取りあえず、俺は軍のほうに顔を出す。頼んだ」

そう言って氷は街を囲っている氷の壁に降り、そのまま地上に降りた。


『沙羅』

人の姿で戦っていたリョクが声をかけてくる。

「何?」

『カハクがちょっと困ってるんだ。召喚獣と戦わないといけないらしいが、相手が炎らしい。助けに行ってもいいか?あ、カハクって水竜な』

「何でそんなこと分かるの?あ。でも、ピンチなら助けに行ってあげて」

『ああ。サンキュー』

そう言って竜になったリョクは街に向かって飛んでいった。


<カハク、大丈夫か>

<リョク。すまない、助かる>

<ま、得手・不得手があるからな。お前は氷さんのサポートに回っとけよ>

リョクにそう言われたカハクは人の姿で地上に降りて氷のサポートに回る。

リョクは地上にいる召喚師を見る。壮年の男がこちらに畏怖の目を向けている。召喚師というだけあって、リョクの力の大きさを肌で感じているのだろう。

気の毒に思いながらも、彼のバルログを押さえつける。

力づくで異世界に帰らせた場合、召喚獣の力の消耗が激しくなりそれが回復するまではいくら術者に召喚されてもこちらの世界には来れない。

術者の力の強さにもよるが、恐らくこの術者だと当分は無理だろう。

そう思いながらもリョクは異世界とこちらの世界を繋げる穴をこじ開ける。

<悪いな>

呟いてそのままバルログを異世界に押し込んだ。


氷の元へ行ったカハクは氷とともに街の中に入ってきた魔族を倒して走る。

「カハク、装填しなくてもいいのか?」

カハクの武器は銃らしい。

しかし、自分とともに街中を走っていてずっと撃っているのに装填していないような気がする。

氷が声を掛けると

『いえ、俺の銃弾は俺が作った氷の弾ですから。装填の必要はありません』

そう言いながらカハクは引き金を引く。


少しして、魔族が居なくなってきていることに気付く。

街の中に居て分からなかったが、引いたらしい。

取りあえず、軍の方へ行って被害の様子等を確認しようと本部に向かっている途中で司令官に会った。

「氷。どうした?」

「いえ。国王陛下は?」

「ご無事だ。お前は何故ここに居るんだ?早く氷菜さんのところに戻ってあげなさい」

「いえ、ですが。軍の方でやることが...」

「お前は仕事は出来ないと言っていた。私は大丈夫と言った。忘れたか?大丈夫だ。早く家に帰って安心させてあげなさい」

言われた氷は大人しく従い、街の外に出てカハクに乗って家に向かった。










桜風
07.11.4


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