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司令官の執務室に案内された。
席を勧められて皆は座り、コーヒーを出される。
「しかし、驚きましたよ」
秘書などを人払いしたあと、司令官はそう呟いた。
「何が、ですか?」
「いえ、氷のことです。彼が怒鳴るのなんて初めてだ」
そう言って笑った。
「そうなんですか?おれ達も初めて見ましたけど、軍を仕切ってるのならそれくらい良くあることなのかと思ってましたよ」
炎狼が驚き、そう言う。
自分の国では祖父がしょっちゅう怒鳴っているし、風の国でも何だかんだで伯父や従兄弟は声を荒げていたのを目にしたことがある。
「いや、私は結構あるのですが、氷は本当にそういうのが無いのですよ。生まれ持った品性の一部なのかもしれないのですがね?」
何やら含みのある言い方をされて皆は曖昧に「はあ」と頷いた。
謁見の間では、国王が氷に頭を下げていた。
「申し訳ありません。私の娘がお仲間に無礼を働きましたようで。後できつく叱っておきます」
「いいえ、お気になさらないでください。しかし、国の頂点に立つ方が軽々しく臣下に頭を下げるものではないと思いますが?」
そう言って頭を上げるように促した。
「いえ。私はいつでもこの椅子を氷様にお渡しするつもりでおります」
氷にそう言い、その傍まで歩いていく。
「あなたは正当なる王位継承権のある唯一の生き残りなのです。最も相応しい方なのですよ。それが何よりの証拠」
氷のピアスを見つめてそう言った。
「俺には、その気はありません」
目を伏せ、氷はそう答えた。
「ピアスの色、ですか?」
「ええ、そうです」
氷を待っている間、司令官が話をしてくれる。国の歴史だ。
「ピアスって、あの、いつも氷がつけてるアレですか?」
雷が聞き返すと司令官は頷く。
「そうです。私のも同じものなのですが」
と言いながら自分の耳に嵌っているピアスを外す。すると、今まで浅黄色だったピアスが透明になる。
「え?これってどういう仕組みですか?」
沙羅がまじまじとそのピアスを覗き込み、目を離さずに聞く。
「仕組み、というか...まじないに近い、と思いますね。これは、古の王族の血を引くもの以外が嵌めるとこのまま透明なのです。今は、また古の王族が国を治めていますが、そうでない時代もあったのです。
この国の能力者はその古の王族の血を引いている者だけなのです。そして、王位継承順に集落を作って暮らしていました。第3位王位継承権者の血を引くものは、これが、浅黄色に。第2位は萌黄色に。
そして、1位が、紅色になるのです」
再び自分のピアスを着けながらそう言った。
「ひとつ、質問をしてよろしいでしょうか?」
飛翔が司令官に言う。
「どうぞ?」
「氷は瞳の色は銀色ですが、髪の色は薄紫ですよね?しかし、あなたや国王陛下は髪の色も銀色です。私も含めてですが、大抵能力者は髪にも属性を示す色が出てしまいます。氷のは...」
「そうですね。氷は、昔は濃紫色の髪をしていたそうです。それが段々薄くなって今の色になってきているみたいです。そう、銀色に近づいているのでしょうね。たぶん、ルーン様が氷を守るためにそうされたのでしょうね」
「じゃあ、何で氷が王位を継承していないんですか?」
大地が聞くと、
「さっき、王と氷の会話をお聞きになったでしょう?拒んでいるのですよ。15年位前の話です。先ほども言いましたが、古の王族の血を引いている者でないと能力者とはなれません。勿論、その血を引いていれば全員が能力者になれるというわけでもありません。
でも、まあ。当時の王にとっては能力者は脅威だったのでしょうね。それで、能力者狩りというものがありました。古の王族の集落は森の奥深いところや、寒さの厳しい所にありました。
そして、ある日私の集落にも知らせが入ったのです。第1位の集落が王によって滅ぼされた、と。殆ど交流の無い集落同士ですが、それでも、黙っていられるはずは無く、我々は蜂起したのです」
「それで、今の国王が王位に就いたという事ですか?」
「そうです。そして、5年前。氷が新しい軍人として謁見したのです。そのとき、王が氷のピアスに気付き、王位継承を打診したのですが、彼は断りました。
まあ、それで、事あるごとに国王は王位を譲りたがり、氷はそれを拒むということが繰り返されているのですよ」
苦笑をしながら司令官はそう言った。
「それを知っている人は?」
「氷の王位継承権のことですか?まあ、古の王族の皆は知ってますよ。ピアスを見たら分かりますから。でも、他の者は知らないでしょうね」
「ところで、先ほど試練の話をしていたが」
玉座を譲るのをこの場は諦めた国王がそう話を切り出した。
「はい。たぶん、俺は知ってます。だから、俺の集落があそこにあったんだと思っています」
静かに氷がそう言う。
「そうか...辛いな」
「試練、ですから。それに、久しぶりに墓参りも出来ますし」
「...しかし、氷はともかく。仲間の方たちは今の季節にあそこはきついだろうな」
笑いながら国王がそう言う。
「まあ、確かにそうですね」
氷も笑顔で言葉を返した。きっと、寒すぎると文句を言われるだろう。
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