水の章 第6話





国王との話も終わり、氷は司令官の執務室へと向かう。

ノックをして部屋に入った。

「終わったか?」

「はい。それで、国にいる間も仕事はできないのですが...」

「ああ、聞いている。私がやっておこう。大丈夫だ。言うのが遅くなったが、氷菜(ひな)さんが心配をしていたぞ。連絡はしたのか?」

「あ、いえ...」

「じゃあ、今すぐしなさい」

そう言って端末を差し出す。

それを受け取って氷は渋々連絡を取る。

「氷菜さんって誰ですか?」

「氷のお姉さんですよ。まあ、血は繋がっていないのだけれども、能力者狩りのあと唯一生き残った氷を拾ってくれたと聞いています」

ひと通り話が終わった氷は端末を切り、司令官に渡す。

「氷菜さんは何だって?」

「客を連れて帰ると言ったら喜んでいました。ところで、司令官。車を一台お借りします。この人数だと、2台必要だと思いますので」

と申し出て、その場を後にした。


「飛翔、確か車の運転できるよな?」

「え?ああ、一応。でも、大地も...」

「オレは無理。こんな真っ白い道を運転できる自信は無い」

外の様子を見ながらそう言った。

春が近いとはいえ、外は真っ白だった。

確かに、雪を経験したことの無い大地には無理だと納得した飛翔は了解した。


「炎狼、付き合え」

氷の運転する車に乗ろうとした炎狼に飛翔が声を掛ける。

「え、イヤだ...」

「ひとりだとつまらないし、何かあった場合、お前なら気兼ねが要らない」

そう言いながら飛翔は炎狼を車に乗せた。氷は既に車を出して、炎狼はどうやっても飛翔の車に乗らざるを得なくなり大人しく従った。


「ねえ、炎狼大丈夫だったのかな?」

少し車を走らせたとき、沙羅が呟いた。

「じゃあ、沙羅もあれに乗せてもらう?」

雷がいたずらっぽく言うと、

「丁重にお断りさせていただきます」

と沙羅も冗談めかしてそう答えた。

再び沙羅が後ろを見ると、飛翔の運転している車が消えた。

「消えた!?」

「は?!」

沙羅の声に驚き、氷はブレーキを踏む。

「え?どういうことだ?」

大地も振り返り後ろを見るが、本当に影も形も無い。

「この道って崖が多いんだ。もしかして...」

氷も緊張した表情になるが、車が再び姿を現した。というか、浮上してきた。

「...あー、そうね。飛翔に転落死ってのはありえないわね」

「炎狼が火傷しないのと同じレベルなんだな、きっと」

それぞれが納得し、氷も車を走らせた。


街外れの氷の家に着いた。少し遅れて飛翔も到着する。

「飛翔、運転するよりも車ごと飛んできたほうが良かったんじゃないの?」

雷がからかい、飛翔も

「私も途中でそれに気がついたよ」

と冗談を返す。

「おれ、もう二度とこの国で飛翔の運転する車に乗らないからな!!」

炎狼が涙目でそう言う炎狼に、飛翔は「つれないなぁ」と笑った。

氷の案内で家の中に入る。

「氷、お帰りなさい」

「ああ、ただいま。姉さん」

キッチンで料理をしていた女性が声をかけてきた。彼女が氷の姉の氷菜らしい。

彼女が近づいてきて、皆は気がついた。目が、見えないようだ。

「こんにちは、皆さん」

そう言って丁寧にお辞儀をする。

「お世話になります」

皆も慌てて頭を下げた。

氷菜はクスクス笑いながら暖炉で暖まるように勧め、暖かいココアを入れてくれた。

「姉さん、紹介するよ。まず、炎狼。焔色の髪と瞳を持ってる。肌の色は少し浅黒い方かな?」

「宜しければ、お顔を触らせていただけますか?」

氷菜に言われて炎狼は了承した。

氷が紹介をし、氷菜が顔に触れて皆を確認する。

ひと通り紹介が終わったあとに氷菜が

「じゃあ、飛翔さんと沙羅さんが同じ部屋で、あとは、氷、お願いね」

と言ったことに皆が驚いた。

飛翔は元々声が低い方だ。しかも、背が高いのが分かったはずだ。

「あら?間違ったのかしら?」

おっとりと氷菜がそう言う。

「あ、いや。飛翔ってパッと見、男みたいだから今まで初対面で女って分かった人がいないので驚いたんです」

炎狼がそう答えた。

「そうなの?とても柔らかい表情をなさる方だと思ったから。目が見えないと逆に見えるものがたくさんあるのよね」

氷菜は、にっこりと微笑んで去って行った。

「飛翔、悔しいだろ?」

「まあな」

炎狼にからかわれ、飛翔は苦笑とともに肯定した。










桜風
07.8.19


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