ボーダーライン






5年前、両親が亡くなった。

元々軍人になるつもりで居たから自分の将来は変えずに居た。

軍は士官学校に入ったときから給料が出る。

あまり贅沢しなければ妹と2人で暮らしても大丈夫だ。

しかし、士官学校は厳しい上に課題も多く、妹に構ってやる時間は極端に減る。

それでも、聞き分けのいいアイツは何も言わずに俺を応援してくれていた。


俺には幼馴染が居た。

数件隣の大きな家に住んでいる、風の能力者。

名前は飛翔という。

父親が炎の属性の人で何故この国に居るのか多少なりとも疑問に思っていたが、それでも、この国に不法侵入できないというのは周知の事実だから、ちゃんと認められているのだろうし、何より、この人が軍の大総統。つまり、最高権力者だったりする。

無駄口を利かない、寡黙な人だと、近所でも専らの噂だった。

実際、飛翔の家に遊びに行ってもあまり声を聞かなかったからそうなのだろうって思っていた。

飛翔は昔から謎に満ちていた。

父親が炎の属性だから、と言ってもやはりおかしな話で、時々焔色の髪をした少年が遊びに来ていて、そのときは俺も飛翔に近づけなかった。

何故か、あの焔色の少年が居るときには飛翔は俺に見せない表情を沢山していたと思う。

だから、俺の知らないアイツのようで近づきたくなかった。


飛翔と俺は同じ年で、軍の仕官学校に入ったのも同じ年だった。

飛翔の実力は本物で、俺は到底敵わないと思っていた。そして、飛翔には絶対に近づけない、そんな感覚に囚われていた。

どうしてか分からない。

俺が1歩踏み込むと飛翔はその1歩分必ず距離を取っている。そんな感覚を何度も感じた。

それはまるで境界線を敷かれていたように。


だから、いつしかアイツとの距離をこれ以上縮めることは諦めた。

一応、それでも俺が一番あいつに近い他人だ。


軍に上がったとき、飛翔は既に階級を貰った。

1年目で階級を貰うなんて、どうせ父親が大総統だからだ、とか影で色々言われていたけど、そんなはずが無い。

飛翔はコネでも何でもなく、実力が認められていたのだ。

誰よりも自分に厳しく、そして的確な状況判断。

さまざまな要因を備えてのあの階級だ。寧ろ低いくらいだと思う。金で階級を買ったやつほど飛翔のその出世に文句をつけていたが、言われている本人は何処吹く風で全く動じない。

それだけの自信を実力を備えているというコトだ。


飛翔が隊を持った。それは一番危険な、唯一外部との接触がある部署。

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」

もうひとつの任務について聞いてみてもあっさりそういわれた。

俺は学校を卒業した後もずっと飛翔と一緒だった。表も、裏も。

ある日、飛翔がスカウトしたいといった人物が居た。

噂に聞いたことがある。凄く素行が悪くて色んな部署をたらい回しされているとか何とか。

「何でそんなやつ?」

「彼がいいんだ」

飛翔はそう言ってそいつを本当にスカウトしてきた。

お陰で飛翔の事を悪く言うやつは増えて、ある意味問題が増えたと言っても過言じゃないと思う。

「何で、飛翔は俺を欲しいって言ったんだ?」

スカウトされてきた東風も疑問を口にしていた。

「知るかよ。けど、飛翔は無駄な事をしない。だから、アンタを引っ張ってきたのは、本当に飛翔が必要だと思ったからだよ」

そう言うとほんのり嬉しそうに笑った。

もしかしたら、だから飛翔はコイツを呼んだんだろうか...

何となくそう思った。

その後も、士官学校卒業生の一人に必ず声を掛けていた。

東風の次の年の颯希は正直使えそうにないと思っていただけど、銃の腕前が飛翔に次ぐもので、たいそう驚かされた。

勿論、入ってきたときはそこそこの腕前だったけど、それは毎日努力を重ねた結果だ。

その次の年は、飛翔が楽しそうに話していたハッカー。

そんなこんなでウチの隊は厄介者が集まった、そんな集団になってしまった。


「なあ、飛翔。今日こそ来るだろう?」

月に1度有志で酒を飲みに行く。

普通は上司の悪口大会とかになるのだろうが、ウチはそうなることなく、寧ろ進んで飛翔を誘っているというのに

「悪いな、今日も不参加だ」

と言って断り、食事代だとか言って金を渡してくる。

「ホント、飛翔さんって付き合い悪いな」

「何ていうか、明確なラインを引いてるよな。これ以上踏み込むな、って言われているようでさ」

東風がそう言いながら頭を掻いた。

「それは昔からだな」

俺が同意すると

「幼馴染にもそれなら、まあ仕方ないか。アイツには何か事情があるんだろうな」

何処か達観したように東風がそう言うのは、やはり年長者としての余裕なのかと、少しだけ悔しい。


しかし、それから遠くない未来に俺たちは飛翔が必死に隠そうとしていたものが何なのか知る事になる。

飛翔が必死に境界線を引いて俺たちを遠ざけていた原因。

それを聞いたとき、結構ムカついた。

アイツが俺たちを騙していたからじゃない。

東風が言っていたようにそんなことはどうでも良い。

ただ、俺たちが信用されていなかった。その事実だ凄く悔しかった。

だから、アイツが帰ってきたときには文句を言ってやろう。

今度は、ちゃんと俺たちを頼れって。









桜風
11.9.12


ブラウザバックでお戻りください