凄い人






戦争中とは言え、ボクが居るこの国は外からの攻撃が届かない。

暇で仕方が無いとき、時々だけどハッキングをして楽しむ。

「嵐。他国の情報を盗み見るな。色々と面倒になるかもしれないだろう」

突然飛翔さんに声を掛けられて、思わずキー操作を間違って『ピー』と無機質なエラー音が聞こえる。

ボクは、久しくこの音を聞いていなかったことを思い出す。



ボクは天才だった。今でも、それと疑っていないけど。

小さい頃、親から与えられたコンピュータは1週間もあればマスターできた。そのもので楽しめないなら、それを使って何かしよう。いつしかそう思うようになった。

そして、ボクが目をつけたのは軍のマザーコンピュータ。

軍が政治も行っているこの国では、その中の情報を手にすることが出来たらこの国の情報全てがボクのものになる。

単純にそう思ってボクはアタックを始めた。

けど、必ず引っかかる。

『ピー』という無機質なエラー音に苛立ちが募る。と、同時に今までに味わったことのない高揚感を持つ自分に気付く。

顔も名前も知らないソイツをいつか負かしてやろうと思うようになった。


しかし、何ヶ月経ってもそれは攻略できない。

こうなったら直接対決だ!

そう思ってボクは軍の士官学校に入学した。

皆がボクがおかしくなったと思っているのも分かってたけど、ボクはまだ見ぬ好敵手に一目会いたい一身で選んだ道だ。

けど、現実は非常に厳しく、体の小さいボクは正直キツくて辛い以外感じることはなかった。

ある日、現役の中佐が見学に来るということで、皆が浮き足立っていた。

ボクにとってはそんなヤツ気にならないし、はっきり言って邪魔だ。講師が紹介したその中佐は、線が細くて、少し中性的な顔立ちをしていた。

一瞬見惚れてしまうくらいの、絶対的な存在感と、カリスマ性。ボクの、あの好敵手がこの人だったら良かったのに...

実技試験はギリギリで。そして、筆記試験はトップで修了した。

そして、配属先はあの中佐のところだった。中佐の指名だと聞く。

ボクが軍に上がるときには昇進していて大佐になっていた。

任命式が終わって各部署へと配置される。

白の少尉が僕を引き取りに来てくれた。

「お前は、ハッカーらしいな」

不意に声を掛けられて驚く。士官学校に入って以来、それはやめていたのに...


大佐の執務室に通された。

あの時見たまま、飛翔さんは変わらない。そして、

「キミは、テンペストだね。嵐」

ボクのハッカーとしての名前を口にする。

驚きのあまりに飛翔さんの顔を凝視していると、目を眇めて口角を少し上げる。

自信に満ちたその微笑から目が離せなくなる。

飛翔さんは一度目を伏せた。

そして、

「最近は、暇で仕方なかったよ」

そう呟く。

この、目の前に居るのがあのエラー音の元だ。ボクが好敵手と認めた人物だ。

ということは、ボクは好敵手の下に居るというコトか...?

「私の部下になんて、気分を害したかな?」

そんなことを楽しそうに言う飛翔さん。

気分を害す?まさか!

ボクがただ1人認めた好敵手がボクを認めたんだ。

「まさか」

ボクも出来るだけ自信に満ちた笑みを浮かべた。昔はそんなの考えずに出来たのに、今は意識しないと出来ない。

「それは良かった」

飛翔さんは少し楽しそうにそう言った。


執務室に連れて行かれると何ともアクの強そうなメンバーが寄ってきた。

東風はボクの頭を撫で回すし、颯希はボクと自分の背の高さを比べて胸を撫で下ろす。ちょっとムカついた。

飛翔さんはいつの間にか居なくなっていた。



あれから、殆ど時間は経ってないけど、周りの環境が良かったからかボクはこの隊に馴染むことが出来た。

今でもボクは飛翔さんに時々挑戦状を叩きつける。

そのたびにボクはエラー音を耳にする。


「飛翔さん。今日こそ、ボクは勝つよ」

「じゃあ、10分後にね」

そう言って部屋を出て行った。

時間になってアタックを開始する。

順調に進んでいつもエラー音を聞くところ。その暗号を解析して開いたと思ったその先には、ふざけたイラストと『残念でした!』というメッセージが画面に表示され、エラー音も鳴る。

「おっしい!」

「つか、この絵。すげぇムカつくな」

いつの間にかボクの背後にギャラリーが立っていた。

颯希は「やっぱり飛翔様は凄いよな」と誇らしげに満足しているし、東風は何故か皆からお金を取っていた。賭けてたな...

「ああ、これ。この間大佐が楽しそうに作ってた画面だな」

さっきまで我関せずといった態度だった白の少尉が画面を覗き込んでそう言う。

「暇だからって作ってたぞ。『どれが一番腹立たしい?』って聞かれたからそれを答えたんだが。役に立ったんだな...」

はぁ!?

何だかボクの中での飛翔さんのイメージが崩れていくような...

向こうには、颯希が「さすが飛翔様!」とどこら辺を以ってして「さすが」と表現しているのか分からない褒め言葉を口にしていた。


でも、今ではこのエラー音を聞くと安心する。

ボクはこんな凄い人の部下なんだ。必要されているんだって、そう思えるから。









桜風
11.10.23


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