風の章 第1話
| 風の国も近くなった。 食事を済ませた後、いつもの通り皆は部屋に帰らずにそのまま操縦室に残っている。 「...ねぇ、飛翔どうしたの?何だかピリピリしてない?」 操縦席に座ったまま目を瞑っている飛翔の背中を見て、声を潜めながら沙羅が炎狼に聞く。 「んー、国が近いからじゃねぇの?」 炎狼が気のない返事をする。 「自分国が近いのにか?」 「大地だってそうだったろ?」 「...まぁ、そうだけどよ。じゃあ、飛翔は国の王族じゃないんだな。」 「まあな。そうでもないこともないと思う。」 曖昧な炎狼の言葉に雷が 「どっちなんだ?」 と聞くが、 「どっちも。」 と言う返事が返ってきた。 「そうだ。すまないが、皆は炎狼の付き人ということにさせてくれないか?」 操縦席の飛翔が振り返り口を開く。 「...はい?」 「えー!?炎狼の?」 雷と沙羅が不満そうだ。 「諦めろ。同盟国の人間ってことにしとけば楽だろ?でも、髪の色はこれでいいのか?」 大地の問いに飛翔が難しい顔で笑い、 「何とか言いくるめるよ。」 と答えた。 「風の国ってどんなだ?」 大地が興味を示す。 「たぶん、七国の中で一番皆に嫌な思いをさせる国だな。特に、沙羅には。」 「わたし?」 「あー、だろうな。ぶっちゃけ、おれも憂鬱だぜ。お前、この中の誰かと必ず居ろよ。一人にはなるな。」 炎狼も沙羅に注意する。 「沙羅に何があるんだ?」 雷が聞くと、 「...沙羅は、女性だ。風は男尊女卑が酷いんだ。女は子供さえ育てればいい。子供が問題を起こせば、母親だけのせいにされたりな。文明が進んでいても、頭の中身は一番遅れている。」 「しかし、風の国の守りのあれは、お前の母親が作ったと言っていただろう?」 静観していた氷が話に入る。 「ああ。しかし、記録としてそれは残ってない。正式な物ではな。女性に国を守られているなんて恥ずかしいんだと。」 飛翔が皮肉っぽく言う。 「それにしては、飛翔はフェミニストだよね。」 沙羅が言うと、炎狼が笑いながら、 「だってこいつ、伯母上と凪(なぎ)姉さんに『逆紫の上計画』とかって育てられて、二人の理想を形にした奴だからな。」 「凪姉さん?『凪』って風が無い状態の言葉だよな。」 「まあ、そうだけど、凪姉さんはその逆だな。」 「そうだな。姉様が何かをすると、必ず誰かが巻き込まれる。どちらかと言えば、竜巻だな。」 苦笑をしながら飛翔がそう言い、 「ぴったりの表現だ。」 笑いながら炎狼が同意した。 「そういや、飛翔は末っ子って聞いたけど、何人兄弟なんだ?」 「四人。兄が二人に姉が一人。」 突然通信が入った。風の領内にはまだ入っていないはずだ。 飛翔がモニタを開くと、 『よ!』 と軽いノリでモニタに映っている者が居る。 「...東風(はるか)。」 飛翔に東風と呼ばれたその男は、制服を着崩していて、ウィンクを飛ばしてくる。どう見てもプレイボーイといった感じを受ける。 『よう、飛翔。いとこのお守りなんてせずに国の馬鹿たちのお守りしろって。炎狼も飛翔を簡単に呼び出すなよ。』 東風の言葉に飛翔たちの頭の上に『?』が浮かぶ。 「東風...それは、」 飛翔が聞き返そうとしたら後ろから猛ダッシュをしてくる人物が目に入る。 「東風、そこは危ないかもしれないぞ。後ろ。」 飛翔に言われて振り返った東風は慌ててモニタの前から逃げる。 『飛翔さまー!!』 半泣き状態でモニタにしがみつき少年が飛翔の名を叫ぶ。 「あいつ、飛翔のシンパ。」 飛翔の後方で炎狼が皆に説明する。 「颯希(さつき)、長い間留守にしてすまない。」 『いいです、ご無事なら。あ。東風さん、また問題起こしましたよ。今度は黒の中尉の彼女と。』 飛翔はこめかみを押さえながら「またか」と呟く。颯希の後ろでは東風が「バラすな!」と叫んでいる。 |
桜風
06.11.12
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