風の章 第11話





翌朝、昨日の疲れが残っていた皆がまだ眠っているとき、訪問者が来た。

「...何の御用ですかッ!」

無愛想に風真が相手をするが、

「そう言ってやるな。軍なんて嫌でも命令に従わないといけないときがあるんだ。下手をすれば上司に迷惑が掛かる。...飛翔か、起こしてこよう。」

「悪いな。」

唯一起きていた氷が飛翔を起こしに部屋に向かった。

訪問者は東風だった。


部屋のドアをノックして声を掛ける。

「飛翔、東風が来ているぞ。軍の命令のようだ。」

『...了解。着替えたらすぐに降りるから。少し待たせておいてくれ。』

「わかった。」


リビングを覗くと東風がコーヒーを飲んでいた。

「着替えたらすぐに降りるといっていた。」

「んー。」

「...俺たちのことでか?」

「たぶん、な。赤と黒が飛翔を更迭できるって大喜びだ。」

「青と...白だったか、その二つは?」

「赤と黒は、コネで上に行った奴とか、まあ、結局家系みたいなので繋がっているんだ。でも、白と青は結構家柄とか関係ないやつが多いからな。つまり、国を守りたくて軍に籍を置いてるやつが多いんだ。それなら、上司は実力のある奴がいいだろ?飛翔は実力もある上に、家柄っつうか、そういうのも揃っていて申し分ないんだ。自分に厳しいしな。実力、家柄、共に揃っている飛翔は実力が欠けているやつが多い赤、黒には煙たくて仕方ないんだよ。」

「まあ、何と言うか、その組織に籍を置いているやつを前に言うのもなんだが、「くだらないだろ?」

氷が言おうとしていた言葉を部屋から降りてきた飛翔が代わりに言った。

「よ、大丈夫か?顔色悪いぞ?」

「大丈夫だ。遅いとお前が色々言われるぞ。行こう。風真、皆をよろしく。」

飛翔を玄関まで見送り、氷と風真は溜息を吐いた。


「では、まず、日ごろから目に余る青の大佐の越権行為について審議をしたいと思います。」

議長を務める赤の将軍は生き生きしている。

「そうですな。我々の管轄だというのに市中の者たちの要請にホイホイ従う。あれでは軍の威信がなくなるというもの。」

「しかし、民の安寧を守るのが我々軍の役目、間違ったことはなさっていないと思いますが...」

「我々がナメられると、帝の沽券にも関わると思うのですが?それは何とお考えか?」

(...くっだらない。)

自分が審議にかけられているにも関わらず、飛翔はそんなことを考えていた。

帝の方に目を向けると同じ事を考えているようでつまらなさそうにしている。


そうこうしているうちに、とうとう話は今不在の大総統の裏切り説まで飛んで行った。

(いい加減、話があるなら実のある話し合いがしたいな。これじゃあ、単なる悪口大会じゃないか。)

「今は、青の大佐の処遇について話し合っているのではないか?」

見かねた帝が口を挟む。

「そうでした。このものは、他国のものを偽って国に入れました。それについての罪は重いでしょう。」

その言葉に帝が、

「しかし、かの者たちがいてくれたお陰で昨日は被害が小さくすんだと聞いたが?」

と言うが、

「何をおっしゃいます。あの者たちが魔物を引き入れたに相違ございません。」

「青の大佐?」

飛翔に目を向ける。

「否定します。彼らは撃退をするのに協力してくれました。彼らがいなければ、この庁舎も落とされていたと私は考えています。」

「お待ちなさい、その子が裁かれる必要がどこにあるのか説明なさい。」

派手にドアが開いたかと思うと聞こえてきた声に飛翔は項垂れた。

「...母様。お帰りください。」

振り返った飛翔は絶句する。

炎狼をはじめ、仲間の五人も一緒だし、姉もいる。

これは収拾をつけるのが大変だと思っていたら、帝が

「皆、聞きなさい。飛翔は、風の国の勇者の任に就いている。そして、このたび飛翔が共にお連れした方たちも各国の勇者だ。勇者の伝説は、知らぬ者は無いだろう。これ以上昨日のことで非難をするとすれば、神への暴言に繋がると心せよ。そして、もう一つ。...飛翔、良いか?」

「...帝の御意思に従います。」

「わかった。もう一つ、飛翔について皆に言っておこう。飛翔は、風神セルス様の御意思により、今まで男として過ごしてきた。しかし、実際は多くの者たちが軽視している女性だ。そして、この事は、院もご存知であるし、勿論私も知っていた。」

「帝!」

風花が抗議の声を上げる。

「飛翔を自由にしろというセルス様のご意思だ。風は自由であるものだ。」

「な!?それでは、ここにいる者全てを偽り、男より劣っている女がそんな重要な地位についていたとおっしゃるのですか?」

「劣っているかそうでないかはあなた方が良くご存知なのではありませんか?」

新たに増えた声に炎狼が声を出す。

「オヤ...頭領!?どうして此処に?」

「用事があってね。お前と違って正式訪問だよ。こういうのは、いかがですか?飛翔と飛翔の存在を否定したいあなた方誰か一人が試合をするというのは。」

「なるほど。女性が軍にいないのは、劣っているということが前提であったから、勝っているなら何の問題も無いということになるな。赤の将軍、いかがかな?」

「...よろしいでしょう。まあ、女なんぞに負けるものは無いと思いますが。では、一時間後に練兵場に。帝はいかがなさいます?」

「勿論行こう。頭領もご一緒にどうですか。一の宮も。」

「では、お言葉に甘えて。義姉上もご一緒しませんか?帝は姪が戦う姿御覧になったことは?」

「いや、訓練自体を見ないので、私も姪の戦う姿は見たことが無いのですよ。」

「風の戦士は舞うように闘うらしいですから、我々の姪の戦いが楽しみですね。」

「そうですね。」

(((一の宮?我々の姪?まさか?!)))

帝と頭領の会話が耳に入り、皆は動揺した。その空気を全く無視して、飛翔は部屋から出て行き、練兵場に向かう。



「全く、何でいらしたんですか!?」

「...だって、飛翔ちゃんは何も悪い事していないのに。」

「門兵は?」

「おれで顔パス。」

飛翔は項垂れた。


「飛翔様、これでいいんですか?」

「ああ、ありがとう、颯希。氷、これを。」

飛翔は颯希が持って来たビンを渡す。

「?」

「たぶん、私が勝ってもおとなしく引き下がるとは思えないからな。何かあったら、皆を守ってほしい。それだけでは足りないか?」

「いや、ここは屋外だし、大気の水も使えるから。」

「ありがとう。炎狼は頭領をお守りしてくれ。それと、嵐、お前にも。」

そう言って飛翔は嵐に耳打ちした。嵐は「了解」と言って走っていった。

「何頼んだんだ?」

「保険を掛けただけだ。...皆も悪かったな、騙していて。」

「いや。俺は、どっちでもいいよ。男とか、女とか関係ない。飛翔は飛翔だからな。」

東風が飛翔の頭をくしゃくしゃと撫でる。


一時間後、飛翔の対戦相手が分かった。

赤の少将の息子の赤の中尉だ。飛翔とは士官学校の同期に当たる。

「武器は好きなものを使ってもよい。勝負の着け方は訓練と同じとする。双方、異議は?」

「ございません。」「了解しました。」

そう言って二人は帝の前から遠ざかる。

飛翔は一度、風花たちのいる傍まで行き、制服の上着を脱ぎ始めた。

野次が飛んできて、沙羅は顔を顰める。

「品が無いなぁ。」

「放っておけ、彼らにそれを求めるだけ無駄だ。姉様上着を持っておいてください。大地、拳銃を預けてもいいか?母様、また、こちらをお願いします。」

そう言って護身刀を渡す。

「飛翔、何の武器を使うつもりなんだ?」

雷が聞いてみると、

「向こうが使うもの。」

と答えて飛翔は練兵場の中央に歩いて行った。


「始め!」

合図と共に飛翔は赤の中尉に突っ込んでいく。

赤の中尉は拳銃の引き金を引くが、それは全てかわされる。

あっという間に飛翔は自分の間合いまで赤の中尉に迫り、銃を握っている手を蹴り上げる。

それが宙に舞っている間に何発か蹴りを入れ、落ちてきたそれを握り、額に突きつける。

「チェックメイト、だ。」

「勝者、青の大佐。」

飛翔の勝利宣言と共に、多くの銃声が響く。

「裏切り者の混血に死を!」

飛翔は勿論、風花たち、そして、頭領までもが狙われた。

氷は水の壁を作り、それを防ぐ。炎狼は自身の護身刀でそれら全てを弾き落としていた。

飛翔は、風で竜巻を起こして銃弾を全てそれに巻き込む。

いつの間にか銃声が止んだ。見ると飛翔たちに向けられていた銃が全て撃ち落とされている。

「見苦しいですよ、赤の将軍。」

空人が言い、自分のホルスターに拳銃を仕舞う。周りを見れば、今銃を手にしているのは全て飛翔の部下だった。









桜風
07.4.8


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