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練兵場の試合も終わり、炎狼たちは庁舎の廊下で話をしていると東風がやってきた。
「よう、お疲れさん。」
「ああ。飛翔は?」
「まだ納得できないやつらが再び審議だって騒いでいたからな。風花さん、凪さん、沙羅さん、ご無事で何よりです。」
「おれ等は?」
「ヤローはどうでもいい。」
「...しかし、お前たち凄い腕前だな。狙撃。」
「ウチの隊は皆、狙撃は得意だぜ?ま、飛翔みたいにど真ん中とまではいかないけど、そこらの軍人と比べたら全然格が違うのさ。」
「そういえば、東風さんと、颯希君。何が特技なんですか?」
「気軽に『東風』と呼んでくれても構わないよ、沙羅さん?まあ、いいか。俺は、敵意を見抜くこと。見ただけで、そいつの本質って言うか、そういうのが分かるんだ。それと、記憶力。全国民の戸籍写真付で見てるからこの国の奴の顔は全部覚えてるな。」
「「「ああ!最後の砦(さん)!!」」」
東風の言葉を聞いて大地、雷、沙羅が同時に声を上げる。氷は1人おとなしく
「だから、空人ってやつが、東風も大丈夫って言っていたから俺たちは大丈夫だって言ったのか。」
と納得した。
「まあ、そこら辺だけは信頼されているから、俺。ところで、その『最後の砦』って何?」
「飛翔がこの国の守りを突破する方法を講釈してくれたんだけどな、その時、国に入る前で絶対に失敗するって言ってたんだよ。アナログだけど信頼できるって自信持って言ってたんだ。」
「そっか...。ああ、それと颯希は飛翔の次に狙撃が得意な上に気配を消すのが絶品。さらに、あいつ能力者なんだ。」
「これはこれは、青の大佐の部下の。いつも仲がおよろしいと思っていたが、大佐とは只ならぬ関―――」
言い終わらないうちに銃声が響き頬に赤い筋が出来、後ろの柱に傷がつく。
「飛翔様を愚弄するな。」
銃を構えた颯希が静かに、しかし、確実に怒りを含んだ声を出す。
「ま、お前らも中々面の皮が厚いな。上司が卑怯な手を使っても平然としてるんだからよ。それで成功したならまだしも、あっさり破られてるんだからな。」
東風に冷たく睨まれ、すごすごと逃げて行った。
「颯希、屋内で拳銃ぶっ放すなよ。飛翔さんに叱られるぞ。」
「...嵐。飛翔様から言われた用事は済んだのか?」
「ん。相変わらず、読みを外さないな、飛翔さん。」
「で、結局何の指令だったんだ?」
「回線ジャック。『おそらく彼らは映像を流すだろうが、都合の悪いところは切るだろう。やるならとことん、真実を伝えないと。国民も半端な情報なんて欲しくないだろうし。』って言われたんだ。」
「で、本当にさっきの試合の模様を中継していたのか。アホだな。」
「飛翔さんに言われたとおり、テロップで試合の趣旨を流したし、国民が証人になる。吉と出るか凶と出るかは、飛翔さんの運次第だろうけどな。」
「大丈夫だろ、あいつなら。」
審議が終わった飛翔と空人が歩いてきた。
「何だ、まだいたのか。先に帰ってくれても良かったのに。」
「今度は何て?」
「やっぱり軍を辞めろって。」
「はぁ?あいつら恥ずかしくないのかよ。」
「恥ずかしいなんて思うようなやつらなら再審議なんて言い出さないだろ。」
溜息を吐きながら空人が答える。
「まあ、辞めてもいいけど、私が帰ってきてからということで。
『帝、ならびに真実を知っていた者たちを不問にし、私が帰ってくるまで私の軍籍は残す。その間の隊長は、白の少尉が代理。帰ってきた後の後任は私の指名で、その後の編成は私が後任に選んだ者が行う。あと、炎を狙うのはいい加減にやめろ。』
以上の条件を突きつけてきた。
『呑めなかったら私の方こそ、そちらの条件を飲む義理がないからずっと軍に籍を置く』
と言ったら渋々呑んだよ。」
「また抜け目のないことを。で、いつ発つんだ?」
東風が苦笑しながら言う。
「明日。すまないが、私はもう帰る。」
「大丈夫だ、あとは任せろ。」
飛翔に続いて炎狼たちも帰っていった。
「皆に聞いてもらいたいことがある。」
夕飯も済んだ後、飛翔が話を切り出す。
「じゃあ、お母さんたちは席を外すわね。」
「いいえ、母様にも聞いて頂いた方が良いと思います。」
「...風の戦士のこと?」
雷が口にした言葉に、飛翔が目を見開く。
「森で、飛翔が来る前にワタシが彼と戦ってただろ?そのとき顔がチラッと見えたんだ。ここの写真を見たらそっくりだったし、帰ってこないお兄さんがいるって言っていたから。あれは、」
「そう、空也兄様だ。母様。空也兄様は生きていますが、敵の手の内にあります。私は引くわけにはいきません。ですから何とか頑張ってはみますが、手加減してどうこうできる人でもないので下手をすれば...」
「分かりました。勿論二人とも無事に帰ってくることを願っていますが、飛翔も無理をしないようになさい。」
そう言って飛翔の傍に行き、抱きしめる。
「いつも、大変な道を歩いてしまうわね。でも、お母さんは誰が何と言おうとあなたの味方よ。」
飛翔から離れ、
「炎狼君。貴方はとても勇気のある子よ。大丈夫、きっと。」
「沙羅ちゃん、貴方はとても素直な子。それは何にも代えられない宝物よ。」
「雷君、貴方は繊細で、そして頑張り屋さんね。時には力を抜きなさい。きっと上手くいくわ。」
「大地君。貴方はとても強い子ね。その強さは、皆を助けるわ。だからと言って、全部を背負おうとしてはダメよ。皆と分けなさい。そのための仲間よ。」
「氷君、貴方はとても優しい子ね。皆のことを常に見ていたわね。でもね、皆も貴方のことをちゃんと見ているの。休むときも必要よ?」
声を掛けながら、皆を抱きしめる。
「お母さんは、皆が無事に帰ってくることを心から願っているわ。」
「「「「「「はい。」」」」」」
翌日、飛翔たちは軍庁舎へ向かった。
「帝。」
「飛翔。母と姉も一緒か。」
「当然です!兄上こそ、時間よくお分かりになりましたね。」
「まあ、ご神託だよ。しかし、もう隠さないでよいのか?」
「昨日ご自分が『姪』とか、『一の宮』とかあっさりおっしゃったじゃないですか。もう隠しても隠し切れそうにないので、開き直りました。」
「すまないな。」
風花たちが話をしているのをよそに飛翔は、自分の隊に向かう。
「空人、これを。」
そう言って空人に渡したものは、大佐の階級を表すバッジだった。
「皆、私が帰って来るまで、空人がここの責任者だ。指示に従ってくれ。」
「「「「了解!」」」」
複数の声と敬礼が返ってきた。
「空人か...。俺じゃないの?」
東風がおどけて聞いてくる。
「殆ど家に帰れず、休日もないが...やりたいか?」
「...やめとく。」
「そういえば、飛翔様。東風さん今度は赤の少尉の彼女と―――」
「何でもない、何でもない。」
飛翔の周りで皆がじゃれる。
笑い声がして皆が注目すると、飛翔が下を向いて笑っている。
「...飛翔?」
今まで見たことのない飛翔の笑いに皆が混乱する。
「本当、お前たちと居たら気が緩みそうで怖かったよ。」
髪を掻き上げて飛翔が笑顔で話す。
「......。」
「じゃあ、ここは任せた。」
そう言って飛翔は船に向かい、他の者もそれに続く。
「皆さん、帰るときはまたお寄りなさい。お母さんがお味噌汁作ってあげるから。」
「おれはまっすぐ国に帰る。」
「炎狼、付き合え。たまにはいいだろ、あの味も。」
「ちょっと、炎狼君、飛翔ちゃん、どういう意味?!」
「いや、別に...」
「深い意味はありません。」
「...飛翔ちゃん、必ず戻ってきてね。」
「行って参ります。」
そう告げて飛翔は船に乗った。
船が飛び立った後にはまだ呆然とした軍人たちの姿があった。
「どう?ウチの末っ子、かわいいでしょ?」
風花は飛翔の心からの笑顔を見た者たちに向かって、胸を張って言い放った。
「頑張って、飛翔。」
風花は空を見上げて呟いた。
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