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「すまない、ちょっと寄り道してもいいか?」
街を歩いていると飛翔が振り返り、皆に声を掛ける。
「まぁた書店か?」
「注文していてもう二ヶ月だぞ?いい加減行かないと迷惑だ。」
というわけで、飛翔御用達の書店へ足を運ぶ。
「あ、飛翔さん、お帰りなさい。入っていますよ、ご注文いただいた本。」
「ありがとうございます。長い間申し訳ありませんでした。ちょっと店内見て回ってきますね?」
そう言って飛翔は奥へ入っていった。
「炎狼様、炎の皆さんはご息災ですか?」
「あー、ジジィもまだくたばりそうに無ぇな。」
「それはよろしい事ではありませんか。飛翔さんのおじい様でもある方ですからね。」
「飛翔も街の人に人気なんだね。」
「街の人間の話をよく聞いて下さいますから。何か事件があってもちゃんと対応してくださるんですよ。それを越権行為だと罵る軍の人達も居るみたいですけどね。飛翔さんが居てくださらなければ、泣き寝入りするしかない民も大勢居ますよ。軍につてが無いと動いてくれないことが多いですから。」
程なくして飛翔が戻ってきた。
手に何冊かの本を抱えている。
「こちらも一緒にお願いします。」
飛翔の嬉しそうな声を聞いて炎狼はげんなりした。
飛翔の家に着き、家の前で飛翔が雷をドアの前に配置する。
インターホンを押し、飛翔はドアの前から離れた。
ドアが勢いよく開き、
「飛翔ちゃーん。」
と言いながらその人は、雷に抱きついた。
突然のことに雷を始め、この光景に慣れていない者たちは固まる。
「ちょっと待って、お母さん。飛翔ちゃん、金髪になってるわ。」
家の中からもう一人出てきた。
「あら、本当?やだ、凪ちゃん、これが飛翔ちゃんよ。『何があっても無断で任務に就かないで』ってお願いしたのを忘れちゃうような子だもん。これくらい外見変わってもおかしくないわよ。」
抱きつかれたまま話が進んでしまったため、雷は心から困り、飛翔に助けを求めるように視線を送る。
「えーと。母様、ただいま戻りました。」
「あら、どなた?」
母親の冷たい視線が突き刺さる。
「伯母上、飛翔も已むに已まれぬ事情だったんですよ。」
「...お母さんにも言えない事情って何よ?」
雷から離れながら頬を膨らませる。それを見て飛翔は困った顔をして、
「明日、帝にご報告申し上げた後お話いたします。」
と言った。
「じゃあ、お母さんも付いて行く。」
「あ、私も連れて行って。」
二人の言葉に飛翔は項垂れた。
家の中から大きな鳥が飛んできた。
「あ。すまない、風真(ふうま)。」
飛翔は申し訳なさそうにその鳥に向かって謝っている。
「そうね、今回は飛翔ちゃんが悪いわ。」
母親も同意する。
「ま、ここで立ち話も何だから、入っていただきましょう?」
凪の一言で皆は中に入って行った。
「なあ、今日のメシは誰が作るんだ?」
炎狼が素朴な疑問を口にした。
「はいはーい!!お母さんが作ります。」
勢いよく手を上げ立候補をする伯母の姿を一瞥した後、何事も無かったかのように炎狼が
「飛翔、頼む。」
と力強く飛翔の肩を掴んだ。
「ああ、分かっている。」
飛翔も深く頷く。
「ちょっと、二人とも、それは何を意味しているのかな?」
「...久し振りに帰宅したのですから、私の手料理を母様にも食べていただこうかと。」
「そういうことならいいけど。じゃあ、皆さんはお茶でも飲んでください。」
皆をリビングに案内してお茶を運ぶ。
飛翔は着替えてきてキッチンに籠った。
「私は、風花(ふうか)といいます。『お母さん』と呼んでくださっても結構ですよ。でも、『オバサン』だけは止めて下さいね。皆さん、飛翔ちゃんはともかく、炎狼君はご迷惑をお掛けしたと思います。伯母としてお礼を言います。ありがとう。」
「おーい。」
風花の言いように炎狼は抗議の声を上げる。
「だって、本当にそうでしょ?飛翔ちゃん、お母さんにも迷惑掛けてくれないのよ?お母さんに迷惑掛けないで、他の誰に迷惑掛けるのよ?」
「まあ、そうだけどさあ。もっとなんていうか、言い方ってものが...」
「炎狼君、諦めなさい。お母さんだもん。」
凪に諭され、炎狼は黙り込んだ。
皆が自己紹介をして話をしている時、沙羅が立ててある写真に目を遣る。
「これ、ご家族の写真ですか?」
「そうよ。飛翔ちゃんが軍に入った年のものね。だから、3年前...かしら?」
「へえ、仲良さそうですね。お兄さん達のお名前はなんていうんですか?」
沙羅の後ろから、雷もそれを覗き込む。
「大きいほうが『 翼(つばさ)』、飛翔ちゃんにべったりなのが『空也(くうや)』よ。」
沙羅のそばで凪が答えた。
「あれ、何かお届けものが来てるわ。飛翔ちゃん知ってた?」
廊下に出た風化が玄関に大の大人が入りそうな大きさの箱があるのを見つけてキッチンの飛翔に声を掛ける。
「いえ、気付きませんでした。」
「ふうん。お母さん開けるよ?」
「私も見る〜。」
リビングに居た凪が玄関まで走っていく。
そんな二人を見て、大地が、
「おい、大丈夫なのか?」
「ああ、爆発物だったら伯母上が気付いてそれの解体を嬉々として始めるよ。そういうの敏感なんだ。だから飛翔も気にしていないだろ?」
「キャー!!」
凪の悲鳴が聞こえた。キッチンに居た飛翔は急いで玄関に向かい、炎狼たちもそれに続く。
「どうされました、姉さ...」
飛翔は目の前の光景を見て言葉が続かなかった。
「伯父上...。兄さん。」
その箱の中には、既に冷たくなった飛翔の父炎勇と、兄の翼の体が収まっていた。
「飛翔...」
「炎狼。すまないが、母様を運んでくれ。私は姉様を運ぶ。」
飛翔は静かにそう言い、気を失った姉を抱えて奥へ行った。炎狼も風花を抱えてそれに続いた。
氷は、静かに箱に近づき、手を翳す。
「何をするつもりだ、氷。」
大地が尋ねるが氷は答えずに作業を続けた。
箱が凍っていき、全てが凍った。
「これで、腐蝕しない。飛翔もだが、もう一人兄が居るのだろう?葬儀は皆が揃ってからの方がいいんじゃないか?」
「...そうだな。ところで、どうする。このままっていうのも良くないだろ。」
「一番奥に運んだらどうかな?」
「そうするか。氷はそっち持ってくれ。」
家の奥は温室になっていた。
「温室にこれはまずいか?溶けるだろ?」
「いや、この氷は、俺が死ぬか、消すかしないと溶けない。此処に置かせてもらおう。花に囲まれている方がいいだろ。」
二人を部屋に運んだ飛翔は、再びキッチンで皆の夕食を作る。
氷はそれを手伝った。
日も暮れて、夕飯が出来た頃、いつの間にか飛翔の姿が見えなくなっていた。
「あれ、飛翔は...?」
「部屋で休んでいるのかもしれない。一応俺が呼んで来よう。皆は先に食べていてくれ。」
そう言って氷は出て行った。
飛翔の部屋に行きノックをする。
返事が無い。
一応部屋の中を覗いてみるが、飛翔の姿が無い。
「どこ行ったんだ?」
氷が呟くと窓の外から風が入ってきた。窓が開きっぱなしになっているようだ。
無用心だと思った氷が窓を閉めようとすると、屋根の上から気配がした。
窓の桟に足を掛けて屋根の上に顔を出すと飛翔が座っていた。
月の光に照らされたその顔には一筋の雫が流れた。
氷は気付かれないように窓から降りて飛翔の部屋を後にした。
「飛翔は?」
「寝ているんじゃないか?少し待ってみたが返事が無かった。」
皆の元に戻った氷に炎狼が聞いたが、本当の事は言わない方がいいと思った氷は、適当に誤魔化した。
「...そうか。」
炎狼は何かに気付いたように呟いた。
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