第3話





白の将軍に続き、青の大佐、白の少尉が室内に入る。そして、最後に続いた人物にザワリと空気が動いた。

白の将軍、白の少尉がそれぞれの席に着き、飛翔のみ帝の正面で片膝をつく。

「ただ今戻りました」

「こたびのそなたの活躍、各国から聞いている。苦労を掛けた。礼を言う」

「勿体無いお言葉」

飛翔に視線を向けていた帝は少しずらして、飛翔の後ろに控えている人物に視線を向けた。

「そなたが、風竜だと聞いた」

「ハヤテ」

素っ気無く名乗ったハヤテを飛翔が振り返って睨むと

「と、申します」

と言葉を続ける。

「よい。この場では、そなたの方が上だ」

苦笑して返す帝に「では、飛翔様が最高位であると言うことですね」とハヤテが返す。

色々と面倒ごとになりそうだと判じた飛翔は早々に、自身の、青の大佐の階級証を外した。

「以前、皆様にお約束いたしました、私の青の大佐としての地位及び、軍人としての立場をこの場でお返しします。そして、皆様方も、私との約定を違えませんよう...」

「ふんっ、女との約定など、ゴミのようなものだ。第一、貴様の隊など守るほどの者は居ないだろうが」

誰かが言い、飛翔が冷ややかな視線でそちらを見た。

それだけで、先ほどの発言者は縮み上がる。つまりは、その程度なのだ。

「その点に関しては、私が保証しよう」

そういったのが帝で

「お願い申し上げます」

と飛翔は深く頭を下げた。

階級証と、軍人たる身分証を返上した飛翔は未練など見せずその場を去っていき、その後をハヤテが静かに続いた。


「おや」と赤の大将が嘲笑の声を漏らす。

皆が注目すると

「大総統が未練たらしくお留めになられるかと思いました。わが国をあなたの祖国に売るのに風の勇者の名があるほうが楽でしょうからね。力ある地位にとどめて置きたかったのではありませんか?」

周囲がクスクスと笑う。

「風の勇者、及びその使いである風竜が居なくなった途端、威勢がよろしいですね、赤の少将」

白の大将が言う。

「かの者が国政から遠ざかること、どういう意味かお考えか?」

「ゴミを排除しただけだ」

「...ひとまず戦争はなくなった。目の前の敵しか見えない赤と黒は少し大人しくしておいてもらいたい」

珍しく、けんか腰で言う白の大将に、「風雅」と翼がたしなめる。

「ふんっ」

と鼻を鳴らして赤の少将が不機嫌を露にする。

そう、青と白は飛翔が国政から退くことが何を意味しているか、そのことが気がかりだった。

他国の勇者は皆それぞれ要人という立場にあると聞く。

地と水はそれぞれ軍人、つまりは一般人らしいが、軍の中での要職に就いているとか。

何より、おそらく炎が動く。そのとき、飛翔が何を選択するかが問題だ。


飛翔の退役以外の会議が終了し、それぞれが部屋を出て行く。

「珍しいですね、風雅さん」

階級は下でも、年齢は自分よりも上だ。翼が苦笑しながら声を掛けた。

「申し訳ない。あまりにも、目先のことすら気付いていない彼らのあれが鼻についてしまって...大総統」

傍を過ぎようとした炎勇に声を掛けた。

「何だ?」

「率直に。頭領は動かれますか」

「...さあな。俺は頭領ではない。だが、飛翔は居ると便利だぞ。全ての国の要人と顔を合わせているし、その国々の文化に触れている。白の大将が思っているように、外交には持って来いだ」

苦笑してそう言う。

『便利』という表現をしたが、やはり、重宝すると考えている。

何より、国同士のパワーバランスに関係してくる。

仮に、飛翔が誘われて他国にいったとしたら、この国は風の神の寵愛を受けた勇者が不在となる。そうなると他国から狙われることになりかねない。軽んじられるかもしれない。

意外と、今の世界に『神の寵愛』と言うのは必要なものだ。

「...なぜそれがわからない」

唸るように呟く風雅に炎勇は苦笑した。

「視点の違いだ。何を見ているか、何が優先するべきことか。人によっては違う」

「国を預かっているものなら、その視点は同じではありませんか?!」

「国を広げることが民のためと思うものも居れば、国を縮小した方が良いと考えるものが居る。他国と一緒になる方が良いと考えるものも居るかもしれない」

「大総統は、彼らの思想を認めると仰るのですか?!」

少し責めるように言われて炎勇は苦笑した。

「落ち着け。少なくとも、今の体勢ではどんなに言ってもアレは帰ってこない。これまで散々規則を捻じ曲げてそこにあったのだからな。良くないことだろう」

「で、ですが。それは国のため、ひいては世界のために...」

「そんな大きなことではないですよ、風雅さん」

翼がポツリと呟いた。

翼に視線を向けていると少し辛そうに微笑んでいる。

「飛翔は、この国の民を守りたかっただけなんです。国とかそんな大きな単位ではなく、人を守りたかったんです。あの子の、エゴですよ」

しかし、それは自分たちの基本だ。守りたいからそこに在る。

なぜ、とその言葉が風雅の頭を巡る。なぜ、最も国を預かるものとして必要な想いを抱いている彼女がこの場から去っていかねばならないのか...









桜風
11.12.11


ブラウザバックでお戻りください