第6話





風が吹いた。

帝は立ち上がる。

「兄上?」

同席していた帝の弟に当たる中務卿宮が不思議そうな声を漏らす。

「そのままでいい」

不意に聞こえた別の声に彼は振り返った。

すぐに帝を守るように彼を背に庇う。

「宮、風竜のハヤテ様だ」

帝の言葉に驚き、警戒を解いた。

「飛翔様がお前に敬意を払っている以上、俺もそれに倣うことにする。本位ではないがな。主人がうるさいから仕方ない」

苦笑するハヤテが懐から文箱を取り出した。

「飛翔様からだ。ご挨拶できないから、と預かってきた」

「では、返事を」と言って女房に声を掛けようとしたが、ハヤテがそれを制す。

「飛翔様は、それを渡したらそれでいいと仰っていたからな。返事は必要ない」

そういったハヤテはそのまま空に上がる。

「ではな」

突風が吹き、御簾や几帳が倒れる。女房の悲鳴に近い声が耳に届いた。

空を見上げると既にハヤテの姿はなかった。

帝が受け取った文を見た。

「兄上?」

「もう二度と会えないだろうから、と丁寧な文を貰ったよ。歌まで詠まれている。これは、確かに返歌を詠むのに時間が必要だったかもしれないな」

そういいながら宮に渡す。

「私が拝見してもよろしいのですか?」

「宮にもよろしくと書いてある」

そういわれて宮が目を通す。

読み終わって文を畳みながら「さすがですね」と苦笑した。

飛翔の母親、女一の宮は、歌の名手として有名だった。

忽然として彼女が居なくなった当時は、今は退位されて院となっている当時の帝も、東宮であった今の帝も喪に服した。

結局彼女はこちらではなく、向こうに行っただけなので亡くなったわけではないが、帝の姫が姿を消すにはそうするしかなかったのだ。


文を書き終わった飛翔はハヤテにそれを預けてリビングに下りた。

自分が不在だった期間の話を聞こうと思ったのだ。

「あら?疲れてるなら、部屋でゆっくりお休みなさい」

風花が労わるが、「大丈夫です」と飛翔が言う。

そして、自分が不在だった間の話を聞いた。

街の復旧が済んでからはやはり風当たりは強くなったらしい。

しかし、飛翔の隊の者たちが毎日様子を見に来てくれていたのでそう大ごとにはならずに済んだとか。

外に出ると危ないかもしれないから、と非番の者たちが順番で買い物などを引き受けてくれたのだ。

大総統である炎勇と白の将軍である翼、そして他国に行っていた黒の中将の空也が帰ってきてからはあからさまな嫌がらせのようなことはなくなったので、風真が買い物にいってくれていたのだ。

「風真、明日から私が買い物に出るよ」

「ダメです!飛翔様は危ないです!!」

「放っておいても、ハヤテが付いてくるし、何より出かける約束をしているから」

飛翔の言葉に風真は少し機嫌が悪くなる。自分よりもハヤテが頼りになるといわれた気がしたのだ。

「どういうこと?」

凪が聞くと飛翔は先ほどの書店の店主の妻との約束を話した。

「あら、いい事ね」

凪は読み書きは勿論、複雑な計算もできる。

女性は学校への進学が出来ないだけで、家族が教える分は全く法に触れない。

そのため、風花や炎勇や翼、時には空也が彼女に高度教育の内容を教えている。

おそらく、ある程度裕福な家庭だったら女性も男性に匹敵する知識がある者もいるはずだ。

ただ、人数が少ないので制度の改正等にまで話を動かすのは難しい。結局、そこまで行くには一定の数以上の男性の協力が必要で、それがないため、未だにその才能を燻らせている人がいるという勿体無いことが起きている。

「じゃあ、毎日?」

「そこまで考えていないのですが...」

それこそ、学ぶ方の姿勢も必要なことだから、一方的に決めようとは思っていない。

「そう。ああ、けど、飛翔ちゃん。体が楽になったら世界を回ってみるもの手かもしれないわよ?ほら、まだ外交ルートとか確立していないんだから、ドサクサに紛れて、それこそハヤテ君と一緒なら各国で攻撃だけはされないんじゃない?」

七神竜の存在は各国で認められているので、それこそ、他国の竜を攻撃しようとはしないだろうし、飛翔以外の勇者は国の要職に着いているので、それなりに権力はありそうだから、捕らえられても何とかなるのではないかと風花は思ったらしい。

「そうですね...」

確かに、暇になるのだから、やってみたいことをするのも悪くない。

「少し検討してみます」

「お土産、よろしくね」

笑って言う母に飛翔は苦笑して「頭に入れておきます」と返した。









桜風
12.1.22


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